戦士の国
敵軍はざっと三千人と言ったところだが、妙に危機を感じる。
なんというか、兵士たちが皆、どこかの国の英雄のように見える。
これが人間の軍団だとは思えないほどだ。
悪魔の放つような、絶対的強者のオーラがある。
先程の魔法部隊の攻撃も、火炎の魔術師とやらとは比べ物にならないものだった。
負けるとは思わないが、気を抜けない戦いだ。
「ハネストはまだ魔法を使って」
「敵の最高戦力を見つけたら、僕と一緒に叩く」
「了解!」
「フィリアは敵をなるべく減らして、敵の最高戦力を見つけやすくしてくれ」
「わかった」
「アイシーとヘレナは範囲魔法で攻撃」
「フィオナはさっき通り相手への能力低下魔法と、僕たちへの補助魔法だ」
「わかったわ」「はーい!」「わかったよ!」
「じゃあ、敵へのハンデとして、この戦いでのルールだ」
「怪我は仕方がない、これはあくまで戦いだからね」
「でも、死者は出さない、これがルールだよ」
「じゃあ、始めよう!」
戦い始めて数十分と言ったところだろうか。
戦いは一向に進展せず、辺りは跳ね返った魔法などの跡で荒地となっていた。
今のところ仲間に、怪我も疲れた様子もあまりない。
決して押されている訳じゃない。
ただ、攻撃が全然届かない。
そりゃ、最上級魔法位の魔法を使えば攻撃は届くのだろうが、それをしてしまえば敵軍は全滅だ。
殺さずに倒す、それは時にして適当に大技を使うよりも技術を必要とし、高度な魔力コントロール能力を求められる。
魔力障壁を貫いた後に少し当てる。
そんな、まさに神業の壁の高さに僕らは手こずっていた。
「へ、ヘルンそろそろ限界、かも...」
背後で魔法を展開し続けていたハネストが言った。
声を聞くからにもう体力が尽きそうだ。
ハネストは一人だけの元人間、魔力量は他のみんなとは大きな差がある。
ここまでの耐久戦は予想していなかった。
僕の負けだ。
ヘルンファミリーのいい経験にはなったし、またこのようなことが起きた場合の対策も出来る。
もうこの戦いはいいかな。
「お疲れ様、ハネスト」
「後は任せて」
「フィリア、後ろに下がって、みんなを家に帰らせてくれる?」
「ゆっくり休んで欲しい」
「しかし、大丈夫なのか?」
「お前、人を殺すことなんて出来ないだろう」
「たしかに、そうかもしれないね」
「でも、圧倒的な実力があれば、自分の望むように動くことが出来る」
「考えがあるから、僕に任せて」
「お前が言うんだ、きっと素敵な作戦なのだろう」
「であれば私に出来るのは、お前の期待通りの仕事をすることだけだな」
「頼りにしてるよ、フィリア」
「ああ、みんなのことは任せろ」
フィリアの背中を見届け、ハネストの無事を確認できた僕は、作戦を開始した。
大まかな内容としては、攻撃を二段階に分ける。
一段階目は障壁を壊す高火力の魔法。
そして二段階目は敵を殺さずに無力化する魔法。
人間側は三百人程度で超硬度の魔法障壁を張っている。
明らかな戦闘慣れ。
僕のような敵はそうそう居ないだろうに、ほぼ最善手を取っている。
多分障壁に使う魔力量も三百人いる分かなり少ない。
障壁を壊してもまたすぐ張られてしまう。
ほぼ同時に攻撃を与えなければならない。
障壁が壊れた瞬間に敵を無力化する。
障壁は、ヘルフレイムの最大火力程度で相殺されるだろう。
僕が魔法を連続で放つ時、そこには零点一秒のラグが出来る。
ヘルフレイムの到達速度を零点零五秒遅くし、パラライズの到達速度を零点零四秒早くする。
人間は零点零一秒の時間に対応出来ない。
これで終わりだよ。
「ヘルフレイム」
「パラライズ」
ヘルフレイムの最大火力。
もはや君たちの魔法とはレベルが違うんだよ。
僕の家族に喧嘩を売ったらどうなるか。
正解は、みんなで麻痺、だ。
障壁にヘルフレイムが当たった時、衝撃波による土埃が全体に広がり、それがあけた時、人間軍は一人を除いて、全員地面に横たわっていた。
誰だ、あの人間は。
若い青年のように見える。
零点零一秒に反応して障壁を張ったのか。
まあでも彼には、僕と戦闘する気が無いようだ。
そして僕にもない、つまりこれで終わりだ。
団長さんだけ起こして帰ってもらおっ!
「ただいまあ...」
「疲れたよ...」
「おかえりヘルン、大丈夫だった?」
「もちろん、僕が負けはずないよ」
「ただ、ちょっと面白い子を見つけたけどね」
「彼とはまた会ってみたいよ」
「んー?」
ハネストが首を傾げていたが、この楽しみは僕の中にだけ置いておくことにした。
「それより、ウォリアスへ行くのを早めよう」
「明日には着くようにしたい」
「あの軍はウォリアス軍だったらしい」
「ちょっと王様と話してくるよ」
「確かに、ウォリアスの兵士ならあの戦闘慣れした様子も納得がいく」
フィリアもあの軍団の実力は認めたようだ。
「だが、敵陣の本拠地へ行って大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、僕らは絶対に負けないから」
「まあ、それもそうか」
「ああ」
「じゃあ今日は一旦寝よう」
「みんなも疲れているだろうしね」
「そうだな」
翌朝、僕らは馬車を飛ばしてウォリアスへと向かった。
もちろん、一瞬で着いた。
フィオナが目を丸くしていたが、他のみんなはもはや驚かなくなってしまったようだ...
国の門の前に来ると、いつも緊張してまう。
イレーネとサスティナが未だに僕の中でトラウマとなって残っていた。
まあそれも今となっては思い出でもあるが...
相手が敗軍ということもあって、流石に武器を向けられることはなく、僕らは難なくウォリアスへと入っていった。
街並みは他の国とあまり変わらないが、歩いている人々の強さが他の国とは段違いだ。
恐らく、軍所属でない人も戦闘に十分に連れて行ける実力者ばかりなのだろう。
冒険者が多いらしいし、後で冒険者協会に顔を出しておこうかな。
僕らは王城へ招待された。
相手は僕らに敵意がないことを伝え、もちろん、僕らも王に対して敵意がないことを示した。
武器で構成された国章は、ウォリアスの文化を表しているのだろう。
王ってことは、この国の中でもなかなかの実力者のはず。
油断は出来ないな。
案内役の兵士について行くと、一際大きな扉の前に着いた。
「ここが王室です」
「王がヘルフェン様たちをお待ちしております」
そういった後、兵士は扉をノックし、中から扉を開けるようにと言う指示が帰ってきた。
扉を開けてもらうと、目の前には誰もいなかった。
あれ?
「お目にかかれて光栄です、守護神ヘルフェン様」
斜め下から聞こえたその声は、王にしては若い、ハリのある声だった。
少し下を向くと、豪華な衣装を着た男が跪いていた。
彼は王だが、僕は守護神、この対応に間違いはない。
ただ、ものすごく気まずいから早く立って欲しい...
そんな願いも伝わらず、その男はその体勢のまま名乗った。
「私の名前は、クレフティヒ・ウォリアスであります」
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
戦士の国ウォリアス、最強となったヘルンに立ちはだかる者はいるのか!
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