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モグリの魔道具職人は今日も金を溶かす  作者: 山ノ上商会


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第8話 強さに憧れた男と魔道銃


「作業は二時間もかからねぇと思うぞ」


レオンは魔道銃を作業台へ置き、壁に並んだ工具の中から数本を選び取った。


「そうか。なら、ここで待っていてもいいか?」


「まあ、別に構わねぇよ」


「……作業を見ていても?」


その問いに、レオンは少しだけ顔を上げた。


「見て面白いもんでもねぇと思うがな。邪魔さえしないなら好きにしてろ」


カイルは小さく頷き、作業台の向かい側に置かれた椅子へ腰を下ろした。


正直なところ、魔道具の改造に興味があるわけではなかった。


ただ、自分の銃がどのように扱われるのか、最後まで確かめておきたかったのだ。


父親の形見を売り、両親が残した金まで使って手に入れた武器である。いくら工房の様子を見て多少は安心したとはいえ、まだ出会ったばかりの男にすべてを任せるのは不安だった。


もっとも、レオンはそんなカイルの心情など気にも留めていないようだった。


「さて、と」


レオンは銃の魔石を取り外すと、細長い工具を手に取った。


まず、銃身の下にある小さな固定具を緩める。続いて側面の留め具を外し、外装を滑らせるように取り除いた。


カイルは思わず身を乗り出した。


普段は黒い金属の塊にしか見えない魔道銃の内部には、驚くほど多くの部品が詰め込まれていた。


細い金属線のような魔力回路が幾重にも走り、その間には爪の先ほどの歯車や薄い金属板、小さな魔石の欠片を収める部品などが、ほとんど隙間なく組み込まれている。


外から見れば単純な形の銃なのに、内部はまるで別の世界だった。


レオンは、その複雑な機構を前にしても一切迷う様子を見せなかった。


外した部品を作業台の上へ順番に並べ、必要な箇所だけを次々と分解していく。


細い工具を差し込んだかと思えば、次の瞬間には別の工具へ持ち替え、奥まった位置にある小さな留め具を外していた。


動作の一つひとつが正確で、無駄がない。


自分の父親のしていた手入れとはまるで次元の違う、まさに職人の技術だと思えた。


カイルが一つの部品を目で追っている間に、レオンの手はすでに別の場所へ移っている。


「……凄いな」


思わず声が漏れた。


「分解してみたことはないのか?」


レオンは手元から目を離さずに尋ねた。


「あるわけないだろ」


「たまには中を開けて、簡単な掃除でもした方がいいけどな」


そう言いながらも、レオンの手は止まらない。


細い棒状の器具で回路の接続部を確かめ、別の工具で小さな金属板を取り外す。さらに作業台の引き出しから薄い部品を取り出すと、寸法を確認してから元の部品と並べた。


カイルには、それが何のための作業なのか分からなかった。


ただ、レオンが工具を持ち替えるたび、内部の構造が少しずつ変わっていくことだけは理解できた。


やがてレオンは、取り外した部品の一つを指先でつまみ上げた。


「これが出力を抑えてる部分だ」


「……そんな小さなものが?」


「ああ。こいつで魔力の流量を制御してる。無理に大量の魔力が流れ込まねぇようにな」


レオンはその部品を脇へ置き、代わりに別の部品を取り付けた。


「ただ外すだけじゃ、回路の流れが不安定になる。だから、こっちも調整する必要がある」


説明を聞いても、カイルには半分も理解できなかった。


それでも、レオンが単に安全装置を取り外しているだけではないことは分かった。


細かな接続部を一つずつ確かめ、必要に応じて部品を削り、別のものと交換する。


小さな金属片を固定する際には、指先ほどの器具を使って回路を繋ぎ直していた。


その作業はあまりに細かく、カイルが目を凝らしても、何をどう変えたのか見分けられないほどだった。


それなのに、レオンはまるで慣れ親しんだ日課でもこなすように、淡々と手を動かし続けている。


カイルはいつしか、自分の銃を預けた不安も忘れていた。


最後にレオンは、分解した部品を元の位置へ収め始めた。


あれほど複雑に見えた内部機構が、驚くほど滑らかな手つきで組み上がっていく。


外装を取り付け、留め具を締め、魔石を戻す。


そして、銃を手に取って何度か動作を確かめると、レオンは満足そうに頷いた。


「よし。終わりだ」


カイルは壁の時計を見た。


レオンが言った通り作業が始まってから、まだ二時間も経っていなかった。


「……もう終わったのか?」


「言っただろ。二時間もかからねぇって」


レオンは銃を作業台へ置いた。


「ほら、確認しろ」


カイルは恐る恐る銃を手に取った。


見た目はほとんど変わっていない。


だが、内部には先ほどまでとは違う機構が組み込まれている。


そう考えると、手にした銃が以前よりもずっと頼もしく感じられた。


「……本当に威力が上がってるんだよな?」


「上がってる。もっとも、ここじゃ試し撃ちはできねぇけどな」


レオンは手を差し出した。


「十万ルピーだ」


カイルは鞄から金を取り出し、数えて渡した。


レオンは受け取った金をざっと確認すると、そのまま引き出しへ放り込んだ。


「最後に一つだけ言っとくぞ」


帰り支度を始めたカイルに、レオンが声をかけた。


「あんまり連射はするなよ。銃身も回路も、元々はこんな出力を想定してねぇ」


「……分かった」


「それと、熱を持つようなことがあれば使うのは控えた方がいい。無理に撃てば、銃身が破裂してもおかしくねぇからな」


カイルは銃を見下ろした。


「気をつけるよ」


そう答えると、丁寧に布で包み直し、鞄へ収めた。


工房を出る頃には、カイルの胸を占めていた不安は、ほとんど期待へと変わっていた。


◇ ◇ ◇


翌日。


都市の外に広がる荒野で、カイルは一匹の魔物に狙いを定めていた。


岩陰の向こうにいるのは、硬い外皮を持つ四足の魔物だ。


これまでにも何度か狩ったことがある相手だったが、安物の魔道銃では一発で仕留めることは難しかった。


弱い部分を狙っても、通常は数発撃ち込む必要がある。


カイルは銃を構え、慎重に照準を合わせた。


心臓が早鐘を打っている。


本当に、威力は上がっているのだろうか。


レオンの技術を今更疑っているわけではない。


それでも、実際に撃ってみるまでは不安が勝る。


魔物がカイルに気付き顔を上げた。


それを見たカイルは息を止め、引き金を引いた。


次の瞬間、銃口から放たれた魔弾が、これまでとは比べものにならない勢いで荒野を駆け抜けた。


魔弾は魔物の胴体へ命中し、硬い外皮を容易く貫いた。


「……え?」


魔物は短い悲鳴を上げると、その場に崩れ落ちた。


一撃だった。


カイルは銃を構えたまま、しばらく動けなかった。


これまで何発も撃ち込んで、ようやく倒していた魔物が、たった一発で動かなくなった。


「……すげぇ」


震える声が漏れる。


「本当に……一発で……」


カイルは思わず笑った。


胸の奥から、抑えきれない喜びが込み上げてくる。


これならいける。


今まで倒せなかった魔物にも、きっと通用する。


その後の狩りも順調だった。


普段なら苦戦する相手を短時間で仕留め、これまで避けていた少し強い魔物にも挑戦した。


もちろん、すべてが一撃で倒せるわけではない。


それでも、以前とは明らかに違っていた。


一発ごとの威力が上がったことで、狩りにかかる時間が短くなり、消費する魔石の量も減った。自分の魔力の消費は上がったが、それでも許容範囲といえる程度の差だった。


カイルは何度も銃を眺め、そのたびに笑みを浮かべた。


夕方、都市へ戻って魔石を換金すると、提示された金額に思わず目を見開いた。


これまでの一日の稼ぎを、大きく上回った過去最高の収入額だった。


カイルは受け取った金を握りしめた。


ようやく、自分にも転機が訪れたんだ。


父親のように、毎日同じような魔物を狩り続ける必要はない。


これからは、もっと強い魔物を狩れる。


もっと稼げる。


もっと上へ行ける。


カイルは鞄の中の魔道銃に目を向けた。


昨日までとは違う、頼もしい武器。


その銃が、自分の未来を変えてくれる。


今のカイルには、そう思えるだけの自信があった。



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