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モグリの魔道具職人は今日も金を溶かす  作者: 山ノ上商会


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第6話 強さに憧れた男

カイルの父親は、中堅の──いや、平均よりはやや弱いハンターだった。


少なくとも、カイルはそう思っている。


父親がハンターとして働いていた十数年間、目立った功績を上げたという話は聞いたことがない。ギルドにも所属できず、狩ってくる相手は比較的弱い魔物ばかりだった。


それでも父親は毎朝仕事へ出かけ、日が暮れる頃には帰ってきた。


そして夕食を済ませると、決まって魔道剣の手入れを始める。


父親が初めてハンターになった時からずっと使っている剣だった。柄に使われている革はすっかり褪せてしまっているが、毎日の手入れのおかげか刀身は輝いている。親は、毎晩それをまるで高価な宝物でも扱うように丁寧に磨いていた。


幼い頃のカイルは、そんな父親の姿が好きだった。


けれど、成長するにつれて、その気持ちは少しずつ変わっていった。


「昨日は父ちゃん、こーんなでっかい魔物を仲間と倒したんだぜ!」


友人が両腕を大きく広げて自慢する。


「実は父さんがギルドにスカウトされたんだ。引っ越すことになりそう」


別の友人が寂しそうな、しかしそれ以上に嬉しさを隠せないという表情で話す。


もちろん、友人たちの父親が全員優秀なハンターだったわけではない。カイルの父親と似たような稼ぎの者もいれば、マイナーをしている者もいた。


それなのに、なぜか友人たちの中でも立派な父親の話ばかりが耳に残った。


自分の父親について聞かれると、カイルは決まって曖昧に笑った。


嘘をついてまで自慢したいとは思わなかったし、父親のことが嫌いだったわけでもない。


ただ、何も話せない自分が嫌だった。


家に帰れば、父親はいつもと変わらず剣を磨いている。


その姿を見るたび、カイルは段々と胸の奥に小さな苛立ちを覚えるようになった。


そんなに毎日磨いて、何になるんだろう。


もっと強い魔物を倒せるようになれば、もっといい剣を買えるのに。


そう思いながらも、口に出したことはなかった。


父親が家族のために働いていることくらい、カイルにも分かっていたからだ。


父親が死んだのは、カイルが十六歳のときだった。


いつものように狩りへ出かけ、そのまま帰ってこなかった。


仲間が持ち帰ったのは、使い古されているとは思えないほど綺麗な魔道剣だけだった。


葬儀の日、カイルはその剣を抱えていた。


父親の死を悲しんでいたはずなのに、頭の片隅では別のことを考えていた。


もっと強ければ、死なずに済んだのではないか。


そんな考えが浮かんだ自分が、ひどく嫌になった。


それから一年も経たないうちに、母親も亡くなった。


父親を失ってから目に見えて衰弱し、最後は眠るように息を引き取った。


十七歳になったカイルには、父親の剣と、両親が少しずつ貯めていた金だけが残された。


カイルは父親の剣を手に、ハンターとして働き始めていた。


先輩たちに混じって比較的安全な狩りに参加する。


最初のうちは、それなりに手応えもあった。


剣を振るい、魔物を倒し、自分の力で金を稼ぐ。初めて報酬を受け取った日は、帰り道で何度も財布の中身を確かめたものだった。


しかし、半年が過ぎても、一年が過ぎても、状況はほとんど変わらなかった。


カイルは身体能力に恵まれていなかった。


身体強化を使っても、熟練のハンターほど素早く動けず、剣を振るう力も弱い。魔物との距離を詰めることが苦手で、接近戦になると恐怖でどうしても動きが鈍くなった。


訓練を怠っていたわけではない。


人より早く起きて剣を振り、仕事の後にも練習を続けた。


それでも、後からハンターになった年下に追い抜かれることも多々あった。


「カイルは慎重だからな。無理せず今の調子でやればいい」


父親のことを知っているという先輩は励ますつもりで言ってくれたのだろう。


だが、カイルにはその言葉が慰めにしか聞こえなかった。


今の調子で。


つまり、今以上にはなれないということなのか。


狩りから帰ると、カイルも父親と同じように剣を手入れした。


刃を拭い、魔力回路に異常がないか確かめる。


ただ、疲れている日は途中で切り上げることもあった。


父親はどうして、あれほど丁寧に手入れを続けられたのだろう。


そんなことを考えていると、決まって嫌な想像が頭をよぎる。


自分も結局、父親と同じなのではないか。


目立った功績もなく、弱い魔物を狩り続け、いつか帰ってこなくなる。


父親が嫌いなわけではなかった。


むしろ、両親を失ってからは、あの何気ない日々を何度も思い出していた。


それでも、父親と同じ人生を歩みたいとは思えなかった。


何かを変えなければならない。


そう考えるようになった頃、カイルは魔道銃に興味を持ち始めた。


剣と違い、魔道銃なら魔物に近づく必要がない。


引き金を引けば魔弾が放たれる。もちろん狙いを定める技術は必要だが、剣を振るうほどの身体能力は求められないはずだった。


これなら、自分にも可能性がある。


そう思い始めると、もう剣を使い続ける気にはなれなかった。


だが、魔道銃は安くない。


中古でもまともな品を買おうと思えば、これまでの稼ぎだけでは到底足りなかった。


そこでカイルは、父親の形見である魔道剣を売ることにした。


買取店の店主は、剣を鞘から抜くと、少し驚いた顔をした。


「古い型だが、随分と状態がいいな」


店主は刃を確かめ、柄を調べ、魔力回路の状態まで丁寧に確認した。


「これだけ使い込まれているのに、ここまで綺麗なのは珍しい。大事に使われていたんだろうな」


カイルは何も答えなかった。


父親が毎晩剣を磨いていた姿を思い出したからだ。


疲れて帰ってきても、どれだけ遅い時間になっても、父親は手入れを欠かさなかった。


子供の頃は、そんなことをする暇があるなら、もっと強くなるための訓練をすればいいのにと思っていた。


その剣に、店主はカイルの予想を大きく上回る値段をつけた。


嬉しかった。


これで、欲しかった魔道銃が買える。


そう思った直後、胸の奥がわずかに痛んだ。


父親が長年大切にしてきた剣を、こんなにも簡単に手放していいのだろうか。


だが、カイルは迷いを振り払った。


剣を持っていたところで、父親が帰ってくるわけではない。


それに、自分は父親とは違うハンターになるのだ。


カイルは提示された金額を受け取り、店を後にした。


剣を売った金に両親の貯蓄を足し、カイルは念願の中古の魔道銃を購入した。


初めて狩りで使ったときは、感動した。


離れた場所から魔物を攻撃できる。剣を使っていた頃のように、相手の爪や牙を恐れながら接近する必要もない。


これならいける。


そう確信した。


しかし、現実はそれほど甘くなかった。


安価な魔道銃から放たれる魔弾は威力が低く、少し強い魔物には思うように通用しなかった。


倒すまでに何発も撃たなければならず、その分だけ魔力の消耗も激しくなる。


銃を使う技術も、簡単に身につくものではなかった。


距離が離れれば当然狙いは外れやすくなり、動きの速い魔物を相手にすると、引き金を引く前に射線から逃げられてしまう。


それでも、カイルは剣に戻ろうとは思わなかった。


何より、あの剣を手放してまで選んだ道が間違いだったとは認めたくなかった。


銃を購入してからも、稼ぎは大して変わらなかった。


周囲のハンターたちは少しずつ経験を積み、より強い魔物を狩るようになっていく。


カイルだけが、同じ場所に取り残されていた。


足りないのは腕なのか。


経験なのか。


それとも、才能なのか。


考えるたびに、父親の姿が浮かんだ。


自分もあの人と同じように、何年も弱い魔物を狩り続けるのだろうか。


そして、いつか何の功績も残せずに死ぬのだろうか。


そんな未来だけは、どうしても受け入れられなかった。


魔道銃には、安全のために出力を制限する機構が組み込まれている。


そのことを知ったのは、酒場で別のハンターたちが話しているのを耳にしたときだった。


『安全装置を外せば、魔弾の威力を大幅に引き上げられる』


もちろん危険な改造で、正規の職人が引き受けることはない。


だが、カイルの頭には、その話がいつまでも残った。


今の銃に、もっと威力があれば。


そうすれば、今まで倒せなかった魔物も倒せるのではないか。


カイルは改造を引き受ける職人を探し始めた。


何軒もの店で断られ、ようやく裏の情報屋に行き着いたのは、それからしばらく経った頃だった。


「魔道銃の出力制限を外したい?」


情報屋の男は、カイルの話を聞くと呆れたように眉を上げた。


「そんなことを頼む奴は珍しくないが、後悔する奴も多いぞ」


「……それでもいい。やってくれる職人を知らないか?」


男はしばらくカイルの顔を眺めていたが、やがて小さく息を吐いた。


「一人だけ、心当たりがある」


「本当か?」


「ああ。腕は確かだ。ただし、まともな職人じゃない」


男は紙片を取り出し、短い文字を書きつけた。


「明日の午後三時、ここに行け。話は通しておく」


紙片には、貧民街にあるというバーの場所が記されていた。


「職人の名前は?」


「X(エックス)と呼べばいい」


聞いたことのない名前だった。


それでもカイルは、ようやく道が開けたような気がした。


今度こそ、自分は変われる。


その思いを胸に、カイルは紙片を握りしめた。




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