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Ep6-32 評決(疑心暗鬼)

英太にとって予想外の人物が指名された。だがそれは確かに多数決によって決定されたこの場の総意で――

「はっはっは、小僧ども、分かっているじゃないか」

 季氏が上機嫌で嗤う。

 軒端さん自身が自分に投票することはない。浅野氏が軒端さんに投票したのだとしても、多数決で軒端さんが選ばれるには最低一票はレムナンツ・ハンズから入らなければならない。それとも、俺に入れた?いや、どっちにしても二人のどちらか、あるいは両方が季氏に入れていないことは確かだ。

「意外な結果ではありましたが、余裕をかましていていいんですか?次は確実にあなたですよ」

 写楽君が嗤う季氏を睨みつける。

「おいおい、根拠もなく結果を断じるのは誘導じゃないのか?ルール違反だぞ。おまえたちが言い出したルールを破るつもりか?やはりしょせん小僧は小僧か」

 ふふんと鼻で嗤う。

「ボクは最初からあなたを疑っていますよ。意見を変えていないから誘導ではありません」

「ならなぜ俺で決まりなんだ?前回選ばれなかったのに?」

「……」

「ぐうの音も出ないか。俺は前回も言った通り、犯人じゃない。こんなあからさまな犯人がいるわけないしな」

「どうでしょうか。候補が絞られてくると前回と同じ言い訳は通用しなくなりますよ」

 浅野氏がつっこむ。

「そういうおまえはどうなんだ?ご意見番のように振舞って高いところから見下みおろしているようだが、その態度こそが怪しくないか?信じやすい小僧どもを誘導して思い通りの絵を描いているんじゃないのか?」

 季氏が、浅野氏ではなく俺の方を見て鼻で嗤う。

「たしかにね。コーヒー出してくれたし」

 トオノさんの台詞に片梨さんの言葉が甦る。

(『ふん、まるで主催者ホスト気取りね』)

 何もか見通した態度。罠であることを指摘しつつ余裕を見せる姿勢。不自然に用意された飲み物を躊躇なく飲む行動。

 俺はソロ・レイダーの胆力と評価したけど、罠を用意した側ならそれこそ余裕の態度でこなして当然だ。

「なるほど。確かに客観的に整理すればそういう意見もあるのかもしれませんね。ですが、自らの首を絞めるようなヒントをいくつも出す理由がありません。もちろん、疑い出せばどんな可能性でもありうることになりますがね。そんな不確かな情報ではなく確実な情報で判断すべきではないですか?」

 浅野氏がそこで言葉を切って、写楽君を見据えて言葉を続ける。

「私は前回の投票では軒端氏を選択していません。軒端氏がどこに入れたかは不明ですが、自分に入れなかったのは確実です。私の見立てでは石守君の投票先は季氏でしょう。彼は腹芸ができるような性格ではないし、私や軒端氏に共感を持っている。当然君たちにも。もし君が宣言通り季氏に投票したのなら季氏とトオノ氏の二票が軒端氏に入ったとしても得票数は同点で評決は出なかったはずです」

「……何が言いたいんですか?」

「君は季氏が疑わしいと言ったが、季氏に投票したとは言っていない。もし言葉と行動を分けているとしたらその行動は君のような若い少年には似つかわしくない。レイダーなのだから当然といえばそれまでですが、それほどまでに老獪な理由はほかにあるのでは?例えば、この罠を用意した本人とか」

 いつの間にかモノクルをかけた浅野氏の目が鋭く光る。

「ボクの頭が切れるのは認めますよ。でもIQが高いことを理由に犯人扱いは短絡的じゃないですか?もっともらしいことを言いますが、よく聞けばあなたの根拠はすべて推測とあなた自身しか知らない事実だ。あなたが本当はどこに投票したのかは誰にも分らない。あなたの票読みはあなたの投票先次第でどうにでもなる話ですよね?そんな推測でボクに対する印象を操作しようとしている。そう取られても仕方ありませんよ」

「ふっふっふ。その通りだ。所詮俺たちはレイダーだ。正直に話していると考える方がおかしい。だから言ったろう?こんな多数決に正しさを求めるのは小僧だけだよ」

 季氏が悦に入ったように嗤う。

 しゃくだが、推測と嘘の錯綜する会話の中で季氏の言葉が一番説得力がある。だけどそれは犯人をあぶりだす役には立たず、事態を混沌とさせるだけだった。

 くっ……

 俺が迷ううちに、『評決の羅針盤』が動き出す。

 驚きに目を見開く俺の前で針の中央が赤く光り、針が回りだしたと思ったらすぐに停止した。

「やられました。私もまだまだ未熟ですね」

 浅野氏が落ち着いた声で話す。

 『評決の羅針盤』の針は浅野氏を指していた。

「そんな……」

「ルールはルールです。この罠は私たちの命までは取ろうとしていないでしょう。解決したらぜひ答えを教えてください」

 こんなときでも浅野氏には余裕があるように見える。だからこそ余計に訳が分からなくなる。これは結末を知っている犯人だからこその余裕だろうか。それとも俺が感じていた浅野氏の胆力のなせる業だろうか。

 迷いを抑えてルール通り、白ヒスイの小瓶を浅野氏に向けて名前を呼ぶ。

 彼もまた、糸の切れた操り人形のようにくたっと崩れ落ちた。


 そしてまた音楽の演奏が終わる。

 暗転と明転の繰り返し。

 わずかに抱いた期待を裏切り、大きく予想した通り、時間のリセットは続いていた。

 浅野氏は犯人ではなかった。


疑心暗鬼の言葉が飛び交い、真犯人はあぶりだされるどころか混沌の中に巧妙に身を隠す。英太は自らが決めたルールに従い、ロスト・アセットの示す者の魂を粛々と拘束するのだった――

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