Ep6-33 評決(裏切りの決着)
浅野氏を排除したことで残る大人組は季氏だけとなった。決着のときが迫る――
照明が戻った瞬間、俺はマントルピースに向かって走った。
視界の端に先の尖った金属のつぶてが迫ってくるのをとらえる。
つぶてに結び着いた細い鎖が獲物に飛び掛かる蛇のように伸びる。
だが俺の意識は新たに鏡の前に出現した『羊脂玉浄瓶』を確保することに集中した。
この際防御は無視だ。最悪怪我をしても次のターンで復活できる。開き直ってそのまま目標を目指した。
ギンッ
金属同士が擦れる音が響く。
季が放った細い鎖分銅を写楽がクナイのようなもので巻き取る。
写楽が季の初撃をガードしたのだ。
「ちっ」
季が舌打ちする。
「やはりお前だったか」
「それ、こっちの台詞なんですけど」
季が両手で振るう銀線ほども細い鎖分銅の予測がつかない軌道を写楽が器用に手のひらでさばいていく。マントルピースからロスト・アセットを確保して転げるように距離を取った英太には見えなかったが、写楽の手のひらには鉄製の暗器が忍ばせてあるようだ。
季の鎖分銅は狭い室内に特化したもので、常人の目では追えない末端速度で動く分銅と空間を支配する鎖の組み合わせが攻防一体となっており、一見互角に見えて写楽のほうは季の攻撃をさばくのが精一杯だった。
ヒュンヒュンと唸る風切り音と、ときどき金属同士がぶつかる硬質な音が休みなく鳴り響く。
激しくやり合う二人を残して英太とトオノは円卓の反対側に退避した。
写楽は季に押されて次第に円卓のほうへ追い詰められていく。
ニヤリと嗤う季に写楽も笑いを浮かべて言い放った。
「僕は勝つ必要がないんだ。負けなければ勝ちなんだからね」
はっと、円卓の中央を見た季の目に、自分を指し示す『評決の羅針盤』の針が映る。
「シャァァァ」
奇声をあげ人間離れした跳躍力で円卓を飛び越えた季が英太に襲い掛かる。
英太は栓を抜いた白ヒスイの小瓶を向けて季の名を呼んだ。
ドサッ
空中で魂が抜けたようになり、季が落下する。
受け身を取らない落下は致命傷まではいかなくとも確実に季に重傷を負わせた。彼にとって幸いなことに、その痛みを感じることはなかった。
「終わったね」
写楽君が戦いの高揚に上気した顔で笑う。アドレナリンの影響でハイになっているようだ。怪我もないみたいだし、結果オーライだろう。
「ありがとう、助かったよ」
「まあね。共闘っていう約束だったし、この罠は本来のレイドとは関係ないからね。結界が解除されてからがレイドの本番だよ」
グータッチで健闘を讃える。
年下だけどソロ・レイダーでやっていただけあって修羅場は相当数くぐっているようだ。
「強いね。写楽君」
「たまたま彼の得意分野とボクの戦闘スタイルが同じだっただけさ。運がよかったよ」
それにしたって二回りも年が離れていそうなプロを相手に無傷なのは凄い。
「さてと、これでようやく『夢幻演奏』から解放されるな。みんなを起こそう」
正しい起こし方は分かっていないけど、試してみる価値はある。
「ちょっと待ちなよ、英太。犯人はコイツかもしれないけど、他の大人組も信用はできないよ。グルかもしれないし」
トオノさんが慎重な意見を述べる。
「そうだね。分け前も減るし、レイドが終わってからでいいんじゃないかな」
写楽君は利己的な視点で賛同する。
少し悩んだが、もっともだと納得する。
「じゃあ、片梨さんとケイタだけ起こそうか」
そういって俺から近いほうのケイタに歩み寄る。
「いや、それだと大人組に不義理でしょ?」
「え?」
「仲間だけ起こしたんじゃ、英太が約束した身贔屓しないっていう条件に抵触しない?」
「それはそうだけど……じゃあやっぱり全員起こすべきかな」
「それは絶対反対」
「えー……」
こんなに我を通そうとするトオノさんは初めてだ。困惑して写楽君を見る。彼も英太を起こそうとしないトオノさんに違和感を感じつつ、チームオーダーとしてトオノさんの意見を尊重する構えのようだ。
「とりあえずケイタを起こして意見を聞こうよ。卑怯だっていうことになるなら正々堂々レイドをすればいいんだしさ」
「いや、ケイタを最初の実験台にしちゃだめでしょ。ちゃんとした起こし方を確認できてないのに」
パチン
喧々諤々とやり合っているうちに照明が暗転した。
『夢幻演奏』が停止しても停電は止まらないのか。
やっかいだなぁ。どうやって停電を直そうか。
ドサリ
暗闇に誰かが倒れる音が響いた。
遠回りをしたが、何とか無事に大人組を排除できた。『夢幻演奏』から抜け出したあとの対応を話し合っていた三人に停電が闇を落とす。二度と聞くはずの無かった、誰かが倒れる音が暗闇に響く――




