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Ep6-30 ルール

暗闇の中で英太に襲いかかった凶刃をケイタが払いのけた。友情パワー?でなんとか乗り切った英太だが――

■アーバン・レイダース Ep6-30 ルール


 照明が戻る。

「へっ、やったぜ」

 ケイタが仁王立ちで拳を掲げていた。

 足下に砕けた白ヒスイの瓶の欠片が散らばる。

「英太はオレが護るって言っただろ?」

 それはレムナンツ・ハンズに所属していたときの約束だったけど、ケイタには関係ないようだ。ありがとう。

「助かったよ、ケイタ」

「いいってことよ。それより全員、面を見せろ。オレ様の一撃が入ったんだ。鼻が潰れたヤツが犯人だ」

 ビシッと指を突き付け、季氏から順番に見ていく。

「あれ?」

「ケイタ、時間が巻き戻ったら怪我も治っちゃうみたいだよ。トオノの切り傷、見たろ」

 ちょっとあきれたような写楽君の声。

 残念ながらその通りだ。みんなこの部屋に入ったばかりと同様の姿で座っている。

「くそったれレリックめ」

 ぷりぷりと怒りながら席に着く。

 俺は『羊脂玉浄瓶』の欠片を拾ってテーブルに置く。

「でもこの瓶はもとに戻りませんでしたね」

「そうだね。考えられる理由は『羊脂玉浄瓶』が完全な物質的存在ではないということかもしれない」

「というと?」

「我々の記憶が引き継がれるのは精神の連続性が担保されているからだと考えられます。『羊脂玉浄瓶』が精神的な構造を併せ持っているなら、その損傷もまた連続性をもって次のサイクルに引き継がれるのでしょう」

 魂を収納したまま『羊脂玉浄瓶』を破壊されたらどうなるのだろう?

 こぼれ落ちた魂は自然に肉体に戻るのだろうか。それとも……。

 運に任せるにはあまりに重大だ。俺は片梨さんの魂の入った瓶をポーチにしまった。

「それに、時間リセットが起きるたびに『羊脂玉浄瓶』だけが増えていることも関係があるのかもしれません」

 浅野氏がマントルピースを指差す。そこには鏡の前に新しい『羊脂玉浄瓶』が一本置かれていた。

 何らかの方法で『羊脂玉浄瓶』がコピーされているのだろう。明らかに物理法則から外れた存在だ。

「で?どうすんだ、英太」

 敵は倒せることは分かった。だけど並みのダメージでは時間リセットで復活する。きっとロープで縛りあげても時間リセットでロープは元の位置に戻って敵は解放されてしまうのだろう。

 俺はソファで眠る片梨さんを見つめた。

「『羊脂玉浄瓶』を使う」

「へえ」

「なるほどね」

「……」

「正解です、石守君」

「どういうこった?」

「物理的な拘束手段はリセットされてしまうし、実力行使は最悪全員でやり合う乱戦になる。乱戦を避けて犯人を拘束するには全員同意の上で『羊脂玉浄瓶』で意識を奪うやり方が最適です」

「馬鹿馬鹿しい。誰が『羊脂玉浄瓶』を使用するんだ?そのあとの安全は誰が担保するんだ?」

 季氏が吐き捨てる。

「俺が『羊脂玉浄瓶』を行使します。そのあとの安全も俺が担保します」

「信用できるかっ」

「その場合はまず最初にあなたを排除することになりますね」

「……」

 軒端さんは終始無言だが俺に反対はしないようだ。浅野氏は感心したように同意のうなずきを返す。

「そんな俺に不利なやり方が飲めるか」

「飲んでいただくしかありません。協議による方法ならまだ可能性が残りますが、実力行使なら季さんの排除は決定となります」

 俺は腹を据えていった。

「くっ、小僧が……。だがな、そっちは全員顔見知りのようじゃないか。多数決で決めるなら事実上おまえたちの独裁だ。口裏を合わせれば恣意的に誰でも排除できる。そんな決定方法にだれが従う?なあ?」

「……」

 軒端さんは無言のままうなずいた。

 浅野氏は興味深げに状況を静観する構えだ。

「『評決の羅針盤』で決めるのはどう?次に排除する人を指名するんだ。事前の示し合わせは禁止。投票も無言。これなら多数派工作は難しいし、ルールを破れば残りのメンバーで違反者を断罪できるでしょ?」

「俺はそれでいいですよ。俺は独裁をしたいんじゃない。秩序ある形で『夢幻演奏』を起動した人を探し出して排除したいだけです」

「……むう」

 季氏が腕を組んで背もたれに体を預ける。

「だが四対三という事実は変わらん。小僧の言葉に倣うなら、協議による方法でも実力行使でも俺が排除される可能性が高いなら秩序に従う理由など俺にはない」

「平行線ですね」

「お、交渉決裂か?やんのか?」

「……ケイタ」

 緊張が高まる。

「あれ?レリックは?」

 トオノさんの間の抜けた台詞ですっと季氏が身を引く。

 ケイタは自然体の構えを崩さず、だが明らかに緊張を解いた。

 俺は衝突の危機が去ったのを確認してからトオノさんの声の方を向いた。さっきまであった鏡の前の『羊脂玉浄瓶』が姿を消している。

「そんな。誰も円卓から離れなかったのに……」

 俺は慌てて鏡に駆け寄り、床やマントルピースの中を覗き込んだ。が、どこにも白ヒスイの小瓶は見当たらなかった。

 呆然と立つ俺の背後で無情に照明が落ちる。


 ドサリ


 再び照明が点いたとき、床には倒れていたのはケイタだった。

 蓄音機のホーンから、もう聞き慣れた歌の最初のフレーズが流れ出した。


打開策を探る英太たちに時間は味方しない。次に狙われたのはケイタだった――

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