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Ep6-29 騎士

桔花が倒れた。『夢幻演奏』はただループするのではなく、攻撃を伴った罠だった。事態を解決すべく現場を掌握しようと奮闘する英太だったが――

「片梨さん?」

 腰を浮かせて肩を揺するが目覚めない。

 耳を口元に近づける。大丈夫、息はしている。

 ノクターナル標準装備のコンソールを思い出して片梨さんのバイタルサインをチェックする。よかった、意識がない以外はどこにも異常はない。

「そいつは犯人じゃなかったようだな」

 季氏が嘲笑を含んだ声を投げかける。俺は季氏をきつく睨みつけたが、ぐっとこらえた。

「皆さん動かないでください」

 ここにいる面子はノクターナルとレムナンツ・ハンズが過半数を占め、残りはソロのレイダーだ。密約で協力関係にある可能性は残るが、言動を見る限り誰も信じないタイプの人たちで間違いないだろう。バトルロワイアルの基本は一番強いヤツを最初に全員でやることだ。つまり片梨さんは狙われてやられたということ。これでノクターナルは一番の新参者である俺だけが残り、最強の一角から最弱の雑魚に転落だ。油断ではないが現場での状況判断が甘かったことは否めない。漣さんから預かり、片梨さんから任されたリーダーの役割をまっとうできなかったことに唇を嚙む。

(あきらめてんじゃないわよ。まだやれることはあるでしょ?)

 ああ、そうだ。火力も経験値も最弱だが、ここで弱気になってはリーダーを任せてくれた桔花に合わせる顔がない。頭を使うんだ、俺。いま無力な彼女を守れるのは俺しかいないのだから。

(無力ってなによ、舐めないでよね!)

 想像の中でも彼女は強気だった。くすりと笑い、焦る気持ちを建て直す。

「何かさっきまでと違っている点はありませんか?」

 俺は立ちあがり、円卓から少し離れて状況を検分する。

 全員の座っている位置もコーヒーカップに残るコーヒーの量も一巡前の状態に戻っているように見える。

 ほかに何かないか。

 違和感のあるところがないか、部屋中を見回す。

 蓄音機の針は円盤の外側の溝を拾ってホワイトノイズを発している。すぐにオペラの最初のフレーズが流れ出す。

 マントルピースに目を向ける。何か違和感が……。間違い探しをするように記憶の中の光景を必死に思い出して当てはめていく。

「『羊脂玉浄瓶』が増えている!」

 全員の視線を受けながらマントルピースに近づく。上に乗った乳白色の瓶が四本に増えていた。手を伸ばし、右の二本を手に取る。左の二本は最初にあったもののようで、結界に守られ動かすことができない。

 円卓に戻り、光に透かすと片方の瓶には何か液体のようなものが入っているようだった。

「このレリックの使い方は分かりますか?」

「ん?ああ」

 軒端さんが手元に取り戻していた黒革の帳面を開いて該当する記述を読み上げる。


『羊脂玉浄瓶』

 西遊記で銀角が所有した神仙宝具になぞらえたレリック。

 瓶の口を向けて呼びかけられた者は魂を吸い込まれる。

 こんが抜けても肉体にははくが残るため植物状態で保持される。


「戻し方は?」

「西遊記の話だと、栓を抜くと勝手に戻るんだっけ?」

 俺は急いで栓を抜く。瓶の口から中を覗くと、とろりとしたスライム状の白い液体が入っているのが見える。だが、それ以上のことは起こらない。

「これを飲ませればいいのかな?」

「待ちたまえ」

 急いで瓶の中身を片梨さんに飲ませようとした俺を浅野氏が制止する。なぜ?と問いかける俺に浅野氏が推測を語った。

「魂の取り扱いは慎重に行ったほうがいい。万が一の場合、取り返しがつかなくなりますよ」

 俺の手が止まる。

「それにその魂を戻しても時間が巻き戻ったときに今の状態に戻る可能性があります」

「そんな……」

「時間が巻き戻ったのに魂が肉体に戻っていない。ただの推測だが一度『羊脂玉浄瓶』に囚われた魂はそこに縛り付けられた状態で記録されて時間リセットを迎えるのではないだろうか」

「このまま彼女を放置しろというんですか?」

「冷静になりたまえ。先に『夢幻演奏』を解除すべきと言っているんだ。優先順位を誤ってはいけない」

「……」

 確かに説得力はあるけど……。

「彼女が復帰すると困るから、という理由では?」

「信用がないのは承知しているよ。私のアドバイスを受け入れるかどうかは君の判断に任せよう」

 考えろ。

 片梨さんをすぐにでも助けたいが、無事復帰しても事態がもとに戻るだけだ。片梨さんが最初に狙われる状況は変わらない。敵が誰なのかわからない状態では、いわゆる千日手に陥る危険性がある。

 俺は片梨さんの魂が入った瓶と空の瓶を並べて頭を抱えた。

「悩んでいるところ恐縮だが、時間を意識したほうがいい」

 曲はすでに終盤にかかっていた。

 いい案が浮かばない。

 大人組はそれぞれ思惑を持っているようだが、まだ様子見をしているようだ。

 レムナンツ・ハンズは比較的好意的な目で俺の動きを見守っている。

 こちらを攻撃する意志を持つ人間がいることは確かだ。そいつが『夢幻演奏』を起動した本人で間違いないだろう。物理的な手段による攻撃は不利だ。俺の実力では返り討ちにあってお終いだろう。

「くそっ」

 とりあえず片梨さんを呼び覚ますのは後回しにしよう。

 俺は彼女の体をソファに運んで楽な姿勢で横たえ、ブランケットをかける。

 席に戻り、二つの瓶を両手に握り締める。

 何も決断できないまま、次のターンが訪れた。


 パチン

 照明が落ちる。

「あっ」

 暗闇の中で誰かの手が俺の右手から空のほうの『羊脂玉浄瓶』を奪い取ろうとつかみかかる。抵抗するが、簡単に腕を捻りあげられ手の中から瓶がこぼれ落ちる。

「しゃらくせぇっ!」

 ケイタの怒声が轟き、ガツンと誰かを殴る鈍い音に続いて瓶が砕ける音が響いた。

 また世界がぐらりと回転した。

次に狙われたのは英太だった。再度訪れた暗闇の中でケイタの力強い一撃が英太を窮地から救う――

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