Ep6-23 お宅探訪
浅野の提案で生き残りを賭けたバトルロワイヤルを回避した面々。だが、仲良く協力にはほど遠い雰囲気で――
「確認だが、互いに攻撃は無し、ロスト・アセットの奪い合いはしないということだな?」
「ええ、そうです」
「この先発見したロスト・アセットは早い者勝ちとさせてもらう。取得した情報も必要ない限り報告しない。それでいいな?」
「そうですね。ただし、ここから出る方法に関する情報だけは共有するようにしましょう」
「……承知した」
馴れ合わないと言った軒端さんが確認をとり、浅野氏が話をまとめる。季氏も特に異論はないようだ。ソロのレイダーにとって共闘と言っても協力するのは身の安全に関する部分までということなのだろう。ひとまずバトルロワイヤルは回避して、各々が洋館の中を探索することになった。
「やはり開かないか……」
ベランダから広い庭園を一望できるダンスホールに向かい、出口を試す。庭園に面した全面がベランダに出られるようになっており何枚ものフランス窓が連なっている。だが、そのどれもが固く閉ざされていてびくともしない。がたつきすらないところを見ると、単純に施錠されているというより結界のように封印されているのだろう。力押しでは開かない堅固な感触がある。
カットガラスのはまったきらびやかなフランス窓からは芝生の庭園が遠くまで続き、建物から漏れる明かりが届かない先で黒々とした木々に遮られている。遠くにわずかに建物の気配はあるが、薄い爪みたいに細く夜空にかかる月明かりでははっきりとしたものは何も見えなかった。
「星がきれいね」
遮るもののない空で、地平線すれすれまで星が滲む。プラネタリウムでしか見たことのないような天の川が頭上に架かっていた。
「大正時代の東京は街灯りも少なく、星が良く見えたといいます。この夜空は山下邸が健在だったころの夜景を映しているのでしょうな」
そういわれてみると確かに外の景色は書き割りのようで現実味がない。タイムトラベルをして大正時代に戻ったというより、大正時代の風景ごとこの洋館が結界に封じ込められているように感じる。
「出口はなさそうね。ひとまずお宝を探しましょう。そのためにレイドに参加しているんだから」
ダンスホールの玄関側の隣にはサロンがあり、その奥には応接室があった。どの部屋にもマントルピースがあり、サロンはチーク材の太い梁と腰壁が豪華な雰囲気を、応接室はダマスク柄の壁紙と黄色いカーテンが明るい雰囲気を演出し、それぞれの目的に沿った内装に設えられている。
「いいですねぇ」
喉まで出かかってこらえていた台詞が白田さんの口から洩れる。
ダンスホールの反対隣には小客室と大客室が連なっており、引き戸を解放することで一つの部屋として使用できるようになっていた。クリスタルガラスのシャンデリアが天井を飾り、金色を基調とした壁紙が豪奢な空気を生み出している。庭に向かって張り出した床まである出窓はサンルームのように三方をガラス窓が覆っていて、開放的であると同時に広い客間から少し切り離されたくつろげる空間を形作っている。
客間から角を曲がった位置に大食堂があり、部屋の壁の長辺を大きく占めて白大理石のマントルピースが鎮座している。大食堂は今はテーブルが片付けられていて、晩餐会などの特別な用途でのみ用いられる部屋のようだ。大食堂の奥に家族用の小食堂があり、こじんまりとしつつ壁に埋め込まれたショーケースを兼ねた棚が居心地のいい空間を演出している。
どこを見ても一流の造形で感嘆するばかりだった。
「この棚も開かないわね。ちぇっ」
片梨さんは臆することなく開口部を覗いたり棚を開けて中を物色しようと試みている。無神経……もとい、職業意識が高いのかそれともこういうセレブな空間に慣れているのか。
「サボってないで英太も探しなさいよ」
「へいへい」
結局一階にはめぼしいものは無かった。階段室の脇に怪しげな暗がりにつながる廊下があったが、そちらはケイタたちが出てきた方向で、ボイラー室や貯蔵室といった半地下のエリアになっており何もなさそうだった。
「やっぱり本命は二階よね。早く行きましょ」
赤絨毯が敷かれた大階段に足をかけて片梨さんが急かすように声をかけてくる。
「いま行く」
折り返し階段の下のスペースに設けられた小さな談話室のような意味ありげな空間が気になったが、片梨さんに続いて階段を上がった。
「やはりここは山下邸で間違いないですよ。大階段のステンドグラス、チーク材の透かし彫りが入った階段手すり、階段ホールに置かれた柱時計……。すべて記録にある通りだ。山下邸は関東大震災で一夜にして焼け落ちたと言われていますが、これほどの大邸宅が跡形もなく消えるなんておかしいと思っていたんです。それにいくら探しても見つからない蒐集品の数々。もし、山下邸が何らかの力で封印され現世から切り離されたとしたら?久兵衛氏が集めたロスト・アセットが忽然と消えた謎も説明がつく。建物丸ごとの神隠しですよ。しかも意図された神隠しだ。久兵衛氏はいったいどんなレリックを持っていたのでしょうか。ふふふ、興味が尽きませんな」
白田さんは終始周りをきょろきょろと見回しては発見したこと、気づいたことをオタク特有の早口で口にしながら後ろをついてきていた。
「ここが山下邸だとすると、こちらに書斎があるはずです」
興奮を隠しきれない白田さんが柱時計を覗き込んでいた片梨さんを追い抜いて奥へと進んでいく。
廊下の角にある開け放たれた扉から細長い前室を通り抜けた先に山下氏の書斎があった。
洋館の中を探索するノクターナルの二人。成り行きで白田氏もいっしょに行動することに。二階に上がった三人は山下氏が生前長い時間を過ごしたであろう書斎に向かう――




