Ep6-22 共闘
共闘を申し出た浅野を筆頭に自己紹介をする面々。誰もが一癖ありそうな雰囲気で――
「浅野です。ここには『軍靴の片足』の導きで参りました」
コートの下からくたびれたブーツを取り出して優雅に一礼をする。
「ノクターナルの石守です。僕が持っているのは『悔鳴懐中時計』だと思います。たぶん」
こういう自己紹介は苦手だ。浅野氏の真似をしてとっとと終わらせる。
「桔花よ。ノクターナル所属。ロスト・アセットは『主筆の手跡』よ。借りものだけどね」
「借りもの?」
浅野氏が片眉を上げる。
「そ。こちらの白田さんのご厚意で借りてるだけ。だからここでいいお宝が見つからなかったらあんたが持って行ったブーツ、返しなさいよ」
ふん、と鼻を鳴らす片梨さんに浅野氏は何も言わず笑顔で返す。片梨さんも返事を期待したわけではないようで、そのまま目を背けてスルーする。俺があんな態度を取ったら即ボコられるよ。やはり片梨さんもあの見えない糸の技には一目置いているようだ。
「ただいまご紹介にあずかりました白田です。フリーのライターをやっております。こういうイベントへの参加は初めてでして、新参者ですがよろしくお願いします」
ぺこぺことバッタのようにお辞儀をしながら挨拶をする。
「白田さんはフリーライターが本業ですか」
浅野氏の視線が心なしか強くなった気がする。
「はい。オカルトや都市伝説のようなものを主に扱ってまして。山下氏ゆかりの名刺入れを入手した縁でこのイベントにたどり着いた次第で、はい」
「『よすがの名刺入れ』ですね。ふむ、興味深い。ですが、レイドの内容を公表することはあきらめた方がいいですよ。方々から圧力がかかって結局潰されます」
何やら苦い経験があるような表情が浅野氏のアルカイックスマイルを一瞬曇らせる。
「いやいや、それはもちろんわきまえていますよ。知り得た情報をそのまま公表するなんてことはしません。小間切れの断片を脚色して少しずつ小出しにするんです。私のようなライターが扱うジャンルの読者は答えを求めているんじゃないんです。謎を求めているんです。考察できるネタを薄く長くってわけです」
「なるほどね」
浅野氏が興味深い視点を得たと言わんばかりに顎に手をやる。
「ねえ、これってただの自己紹介でしょ?入手したロスト・アセットを公表する必要なんてあるの?」
ケイタたちと固まって立っている最年少であろう彼がしびれを切らしたように会話に割り込んできた。
「倣介くん、穏便に、穏便にね」
トオノさんがフォローするように愛想笑いをふりまく。
「だってそうでしょう?どんなロスト・アセットを持っているか教えるなんて手の内を晒すようなものじゃないですか。共闘って言ったっていつまで紳士協定が守られるかわからないし、土壇場で自分のロスト・アセットを奪われちゃ、たまったもんじゃないですよ」
「確かに少年のいう通りです。秘密にしたければそれでいいと思いますよ。ただ、紳士協定は互いの信頼の上に成り立つものです。腹の底の知れない相手がどこまで信頼できるか測る意味でも、今回のレイドの成果くらいは公表してもいいのではないかな?」
「ご説ごもっともですけどね。何か裏があるんじゃないですか?」
浅野氏に食い下がる彼を見ていると、自分がまだまだレイダーとして考えが甘いなとわからせられる。年下だけど彼は百戦錬磨の実力者に見えた。
浅野氏が降参というように肩をすくめた。
「確かに、信頼を得るという以外にも狙いはあります。と言ってもそんな後ろ暗いことではありません。知的探求心というやつですよ。私はレリックの機能に興味がありましてね。様々なレリックに触れ、それらを活用するためにレイドに参加しているようなものなのです。レリックに金持ちたちがどのような値段をつけるかには興味がありません。そのレリックがどのような不可能を可能にするのか、それを見届けたいのです。ですからこの先の困難を打開するためにどのようなロスト・アセットが使用可能なのかを知りたいというのが実は本音だったりします」
「おうおう、なにを小難しいこと言ってんだ倣介。共闘しようってんなら力を貸そうじゃねーか。裏切るってんならオレが返り討ちにしてやんよ」
ケイタがずいっと前に出て啖呵を切る。
「オレぁ、レムナンツ・ハンズの特攻隊長、ケイタだ。ロスト・アセットは持ってねえ!」
「え?そんなわけないでしょ?持っていないと幻の扉のところで弾かれるじゃない。あんたどうやって入ってきたの?」
「気合いだよ、気合い」
「馬鹿じゃないの?いくら脳筋の駄犬でも、ありえないでしょ」
「おまえの気合が足りなかったんじゃねーのか?赤毛女」
「なんですって!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。ケイタのロスト・アセットは『未明の鍵束』だと思うよ」
「あん?でもこれはレイド前に露店で買ったもんだぜ?」
「そこはほら、ケイタの引きが強かったっていうか、幸運値が高かったんじゃないの?」
「そっか、へへん。オレ様は運がいいからな」
気の抜けた会話のおかげで片梨さんも毒気が抜けたように身を引いた。二人が落ち着いたところでトオノさんがすかさず自己紹介を先に進める。
「僕はレムナンツ・ハンズのトオノです。取得したロスト・アセットは『評決の羅針盤』ですね。正確な機能は分かっていませんが、来歴を考えるとレリックとしてよりも学術的な史料としての価値のほうが高いかもしれません」
「ほほう、興味深いですね」
「写楽倣介です。レムナンツ・ハンズ所属。ボクのロスト・アセットは『不可視哨』かな。気に入っているので絶対ゆずりません」
厳しい目で大人たちを牽制する年少の男子はやはりレムナンツ・ハンズの新しいメンバーのようだ。自分から抜けた席だけど、すぐに埋まっているのを見るのはちょっと心に来るものがある。しかも俺より有能そうだし。
つい見つめてしまう俺に写楽君がぺこりと目礼をし、ケイタがにかっと安心させるように笑いかけてくる。愛想笑いを浮かべる俺の後頭部を片梨さんがペシッと叩く。
「しゃきっとしなさいよ。ノクターナルが他のチームに舐められるなんて許さないんだからね」
「お、おう」
いかんいかん、俺は今ノクターナルの看板を背負っているんだ。レムナンツ・ハンズと対立する必要はないけど、俺が第一義的に責任を持つ先はノクターナルのチームだ。しっかりしないと。
自己紹介が大人組に移る。
「軒端だ。共闘には応じよう。だが馴れ合うつもりはない。ロスト・アセットは……」
「『未済報告書』、ですね?」
「……そうだ」
浅野氏の突っ込みに苦虫を潰した顔で軒端さんが答える。どうやら軒端さんはロスト・アセットを秘匿したままにしたかったようだ。浅野氏にバラされた以上、変に隠して疑われても得るものがないと判断したのだろう。
そして最後に大きなネズミみたいな印象を与える男性が自己紹介する。
「季という。ロスト・アセットは公表しない」
「……」
浅野氏が肩をすくめる。軒端さんは興味なさげに一瞥して視線を戻す。
「へえ、信用は要らねってわけか。分かりやすくていいな」
ケイタがへへっと笑う。
俺は……とりあえず得体のしれない人という印象で今後とも警戒するよう頭の中のメモに書き込んだ。
自らの自覚の足りなさを痛感した英太はより一層ノクターナルの看板を背負っていることを意識してレイドに臨むのだった――




