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Ep6-17 未明の鍵束

一方そのころ、地下鉄銀座線のトンネルを逃走中のレムナンツ・ハンズ一行は――

「ちょっと、休憩。なあ、ちょっと待てって」

 非常灯が十メートルおきにポツポツと灯る薄暗い地下鉄の軌道に、はあ、はあ、と荒い息が響く。

「ケイタのくせにだらしないなあ」

「おま、トオノ、ふざけんなよ。オレだけ滑る靴、なしにしたの、おまえだろうが」

「しょうがないじゃん。ケイタが倣介を連れてくるから材料が足りなくなったんじゃないか。それとも、せっかく呼んだ倣介を仲間外れにするのかい?」

「そりゃ、しょうがねぇけど」

 ケイタが自分の蒔いた種と言われてそれ以上反論できなくなる。

「ちょっと待て、トオノ、おめぇ、オレ様を仲間外れにしたってことか?」

「あはは、言葉の綾だよ」

「てんめぇっ!」

 ぶんぶんと無駄に振りかぶるケイタを滑る靴でひょいひょいとトオノが避ける。

「あはは、仲がいいんだねぇ」

 倣介が声を上げて笑う。

「おい、ケイタ。休憩しないならもう行くぞ」

 カサギがいつものこととはいえあきれた声を上げる。

「あれ?メイは?」

 トオノがケイタから逃げて隠れたカサマの背中から顔を出して訪ねた。

「そんな台詞でごまかされねぇぞ」

「いや、ホントだって。さっきまでそこにいたんだけど」

「こんなところで単独行動なんて、レムナンツ・ハンズって結構自由なチームなんですね」

 倣介の顔を見ると褒めているというより、大丈夫かこのチームといぶかしんでいる様子だ。

「あいつは危険に対する嗅覚が特別に敏感でね。いわば船のネズミだ。姿が見えなくなったということは、この先に危険があるってことだ」

「本当ですか?」

 カサギの台詞に倣介がケイタの意見を確認する。

「ああ、本当だ。いつも気づいたら居なくなってやがるからあんまり助けにはならねーけどな」

「でもまあ、ウチのチーム生存率の高さはメイの功績が大きいよね。なんせ僕たちが全滅していてもメイは生き残っているからレイド終了時点のチーム残存ポイントは彼女がほとんど稼いでるっていっても過言ではなーい」

「すごいのか、情けないのか判断に困るチームだね」

「お、メイ、そこにいたのか。どした、何かあったか?」

 ケイタが少し戻ったところで壁に手を当てているメイに近づく。

「ここ、出口がある」

「ん?」

「ああ、確かに。すいぶん錆びた扉だな」

 通常、こういった施設の扉にはどこにつながる出口かを示す記号や通し番号が記されているが、この扉は錆と油汚れがひどくてどこにもそういった記号は読み取れない。

「位置的には八重洲通辺りですね。地下鉄の下を八重洲駐車場の入り口につながるスロープが走っています」

「地下鉄の下に駐車場があるのか?」

 ケイタが不思議そうな顔をする。

「銀座線はとくに変な地下鉄なんだ。なんせ、終点の渋谷駅は地上三階にあるからね」

 トオノの説明にケイタの目がはてなマークになる。地上三階にある地下鉄とは?哲学的な問答はケイタには荷が重かった。

「ふむ。ちょうどいいかもしれん。今頃俺たちが地下鉄軌道に逃げたことはCROWSにもバレているだろう。追ってくる気配がないということは、この先の駅の出口で待ち伏せている可能性が高い。滑る靴があるといっても車には勝てん」

「滑る靴ってダサいよね。何かもっといい名前つけないの?」

「んー、この靴、もっといろんなモードがあるんだよね。強いてあげるならマルチシューズかな」

「えー、それじゃ特徴が伝わんないよ。もっとこう、ぐっとくるようなの、ないの?」

「倣介が考えてくれていいよ。いい名前が出来たら商標登録するか」

「いいねぇ」

 トオノと倣介が和んでいる間にカサマさんが扉を調べる。

「ダメだな。蝶番はともかく錠がサビてびくともしねぇ」

 古いタイプの鍵穴で、錠の仕組み自体は前時代的なものだから開かないのは壊れているせいだろうというのがリーダーの見解だ。

「ぶっ飛ばして開けりゃいいじゃん」

「阿保か。こんな扉でも壊したらルール違反だ。罰金取られて、最悪せっかく手に入れたロスト・アセットも取り上げられるぞ」

「じゃあ、適当に合う鍵突っ込んで回しゃあ開くんじゃね?細っこいツールじゃ力が足りなかったんだって」

「そんな脳筋な……」

 メカ好きとしてはそんな乱暴な案には到底承服しかねるとトオノが顔をしかめる。

「あ、このまえ骨董市で買ったやつだね」

 倣介が先日の下見での出来事を思い出していった。

「おうよ。こんなこともあろうかと、買っておいたんだぜ」

 ケイタが腰にジャラリと下げていた鍵束を取り出す。

「ケイタ、適当言ってる」

「まあ、見てろって」

 その中から一本、手探りで適当に選んで鍵穴に差し込む。

 鍵はあつらえたようにぴったりとはまった。

 ケイタがぐっと力をこめるとびっくりするほど素直にするりと回り、カチリと鍵が開く。

「へっ、みたか」

「うーん、科学の敗北……」

「っていうより、リーダーの敗北」

 メイの余計な一言に顔をしかめつつ、結果オーライで先に進む。

「いくぞ、この下を左だ」

 地下の車道トンネルの脇にある保線用の歩道に飛び降りる。なぜが扉と歩道との間には梯子もステップも無く、車道側からは入れない。なんとも中途半端な造りで設計ミスか施工ミスで付けた扉をそのまま放置しているようなちぐはぐ感がある。が、今はCROWSが予測できないルートで逃走することに意味がある。

「このまま地下駐車場から八重洲口地下街にあがる」

「はい」「よっしゃ」「うぃ」「了解」

 八重洲口地下街はいくつもの通りに分かれた広大な地下街だ。が、今回のレイドの対象になるような古いアイテムを扱う店は少ない。唯一、それらしい店は中古カメラ店くらいか。レムナンツ・ハンズも地下街を走って通過するだけで立ち寄るところはなかった。

「このまま三矩一号館美術館を目指す。東京駅の中を抜けるルートは複数あるが、黒服の連中が詰めている可能性が高い。あまり知られていない京葉線側のルートを行くぞ」

 南北に長い八重洲口地下街の南端は東京駅に詳しい人間でも滅多に足を運ばないエリアだ。その先にさらに地下四階まで降りると京葉線東京駅のコンコースがある。そこを西に進んで東京駅の西側に出ることができる。知る人ぞ知るルートだ。

 シャッターの下りた中古カメラ店の前を通るとき、トオノが店頭のポスターに目をやった。そこにはクラシックカメラの歴史を語る展示を紹介する写真が掲載されており、写真機のフィルムが発明される以前の古い幻燈機の艶やかな姿があった。

「幻燈機……『幻燈少女』」

 立ち止まったトオノを促す声がかかる。

「トオノ、先を急ぐぞ」

「あ、はい」

 八重洲口地下街をあとにしたレムナンツ・ハンズは地下四階のパスを通って三矩一号館美術館への最短コースをたどった。

黒ずくめの男達の包囲網をくぐって八重洲口地下街に抜け出したレムナンツ・ハンズは別の経路を辿って三矩一号館美術館を目指す――

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