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Ep6-16 地獄銭

中庭に拘束された男を発見した英太たち。彼はレイドに関するある重要な情報を持っていた――

「うう、助かりました」

 身を起こしてベンチに座った中年男性がヨレヨレのジャケットを脱いで汗だくの首筋をハンカチで拭う。夜とはいえ真夏の屋外に拘束されて転がされていたのだ、仕方がないと同情したいところだが、たぶん男はもともとこんなふうにくたびれた風体なのだろう。

「なあ、この人助けても良かったのかな」

 レイドの結界内にいるということはこの人もレイダーだ。弱っちく見えてもどんな手段を隠しているかわからない。味方以外は全部敵だと片梨さんも言っていたんだけど……。

「あいつがぐるぐる巻きにした相手なんだからいいのよ」

 いいようにあしらわれた浅野に対する意趣返しのつもりらしい。相手が見てなければ意味がないと思うが、片梨さんがそれで溜飲が下がるというなら逆らうまい。

「で、あなたもレイダーなんですか?」

「レイダー?あ、ああ、そうですね。そうでした。そういう名前なんでしたっけ。このイベントへの参加権が欲しくて知り合いに頼み込んだんですが、こんなに乱暴なものだとは知りませんでした。いやはや」

 止まらない汗を拭う。

 イベントって……まあすごく大きなくくりだとそうなるか。なるか?

「わたし、こういう者でして」

 今日は名刺に縁がある日だ。渡された名刺には『フリーライター 白田記一』と書かれていた。

「都市伝説とか陰謀論みたいなものを取材している物書きみたいなもんです」

「あ、知ってる。ムーだっけ?隣のクラスのオタク君がそんな雑誌を持ってきていて先生に取り上げられていたやつだ」

 オタク君って、もはや死語的存在では?

「いや、そんなメジャーな雑誌には……。ネット動画サイトの『都市伝承アーカイブス』とか『開けてはいけない話』っていうチャンネルに少しネタを提供したことがあるんですが……知らないですよね、あはは」

 ムーがメジャーか。まあ、ね。

「それで?」

 脱線しそうな話を本筋に戻す。

「それで私、山下久兵衛という大正時代の富豪の隠し資産の伝説につながる手がかりを得まして。いつもならそれだけで記事の一、二本書いてお終いなんですが、この話がどうにも引っかかりまして。深堀をしていたところ、ロスト・アセットっていうんですか?この業界にいるとレリックという言葉はよく聞くのですが、何やら特別なレリックのジャンルがあるっていうじゃないですか。ますます興味を引かれて調べていったんです。そうしてレイダース?のことを知ったんですが、まあ組織に潜入して調査なんてアクティブなことは考えていませんでした。私はあくまでも仕事として都市伝説を扱っているだけですから、はい。ただ、近々行われるイベント、いえ、レイドっていうんでしたね、それが山下久兵衛の隠し資産に係わるものだっていうじゃないですか。わたし、独自の取材で山下久兵衛の埋蔵金につながる手がかりを入手していまして。それが本当かどうか、どうしてもこの目で確かめたくて。それで、取材で知り合った人に頼み込んで……ああ、このくだりはもうお話しましたね」

 とりとめのない話がループしそうになって、思わず片梨さんがあくびをかみ殺す。

 これは話を聞いたのは失敗だったかな。

「それでですね、山下氏の埋蔵金っていうのがここだけの話、金じゃないんです。いえ、何千億っていう金よりももっとすごいものなんです」

 白田氏は調子が出て来たのか、次第に抑揚の効いた流暢な語り口調になっていた。

「『地獄銭』。この名前に聞き覚えは?ああ、御存じないですか。いえ、オカルト業界では有名なアイテムでして。もとは古代中国の風習から来ているらしいのですが、日本にも伝わっておりまして、亡くなった家人に地獄の役人に渡す袖の下として貨幣をいっしょに埋葬したというものなんです。それが一般的な地獄銭なんですが、レリックとして有名なのが……」

「有名なのが?」

 ごくり。


『地獄銭』

 手に入れると金運が急上昇する護符の一種。これを持つ者は商売や金銭に関して絶対的な幸運に恵まれ、すべての望みが叶うという。ただし、使用者が幸運を得る代わりに“誰か”の命を代償にする。一枚ごとに呪詛が宿るレリック。取得後、二十四時間以内に供物を捧げないければ使用者自身が発狂し命を落とす。


「噂によると、本物の『地獄銭」は秦の始皇帝の陵墓に埋葬されるはずだったものだそうです。始皇帝は死後赴く冥府でも覇を唱えるべく万の兵士と千の軍馬をその陵墓に埋葬しました。ええ、兵馬俑というヤツですね。そこには億を超える貨幣もいっしょに埋葬する予定でした。ただの貨幣ではありません。冥府でも通用するような入念な術を織り込んだ貨幣だったそうです。それを埋葬前にひと箱持ち出した不届き者がいた。これを身に着けた者はたちどころにすべてがうまく行き、巨万の富を築いたという伝説です。長い歴史の中で歴代の中国皇帝が手に入れたとか、溥儀はそれを失ったせいで落日の憂き目にあったとか言われています。ええ、もちろん山下氏の立身出世もきっと『地獄銭』のおかげでしょう」

「それだけ?うまく行くっていっても自分で稼がないといけないんでしょう?掘り出すなら一千億の小判のほうがすぐにお金が手に入っていいんじゃない?」

「それは違いますよ、お嬢さん。すでに千億という富を手に入れた者にとって金額はあまり意味を持たないんです。そのような真の金持ちたちは運命を操作する力を欲するようになるんです。ええ、ですから文字通り、金に糸目をつけずに『地獄銭』を求めるのです」

 金額はともかく、運命を操作する力と人の命を代償にするという物騒な欠点がロスト・アセットの中でも特級のヤバさを持っているように思える。

「にわかには信じられないな」

「あはは、もちろん、これは都市伝説です。本当にそんなものがあるなんて私も信じていません。ですが、『地獄銭』が本物かどうかは私にとってはどうでもいいんです」

「なら、なぜ危険を冒してレイドに参加してまで探してるんですか?」

「『地獄銭』の伝説を真実と信じて、具体的に行動を起こしている人々がいるという事実が、『地獄銭』を本物にするんです」

 きょとんとする俺と片梨さんに白田さんが熱っぽく語る。

「いいですか。『地獄銭』で誰かが金持ちになったとして、それが本当に『地獄銭』の効果かどうかなんて証明しようがないじゃないですか。ですが、『地獄銭』を本物と信じて追い求める人の欲求が『地獄銭』を本物として存在させるんです。信じる者は『地獄銭』を持つ者が成功したときにそれを『地獄銭』のおかげと考え、失敗したときにはその者が偽物の『地獄銭』を手にしたんだと嘲笑う。この記事をものにすれば私が本物の『地獄銭』を世に示すことになる。すごいじゃないですか、まさにオカルトが現実になる場に私は立ち会えるんです。真実を追い求めるジャーナリストの端くれとして、こんな大チャンスは逃せませんっ!」

 目はギラギラと怪しい光を灯し、しょぼくれてうなだれていた猫背がしゃんとして立ち上がり、拳を握り締める姿は十歳も若返ったようだった。俺には白田さんの考えがどこかねじくれているように感じたが、それを指摘させない危うさと熱量に圧倒されていた。

「それで、私が手に入れたヒントっていうのがですね、山下氏の残したロスト・アセットが埋蔵金の隠された場所に入るための鍵になっている、っていう話なんです」

 俺は思わず片梨さんと顔を見合わせた。


レイダーとしてはずぶの素人の白田だったが、彼が執念で調べ上げた情報がボーナス・レイドの裏に隠されたもう一つのお宝をあぶり出す――

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