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Ep6-12 三泉記念美術館(3)

レムナンツ・ハンズは地下連絡通路に出ようとしたところで敵に囲まれていることに気づく。すべての出口を押さえられたレムナンツ・ハンズのとった行動は――

 帰りは待ち伏せを警戒して階段で降りる。

 とりあえず館内は問題なかったが、地下連絡通路に出るところで人影を発見した。

「不味いな。囲まれてるぞ、こりゃ」

「半蔵門線方面に五名」

「俺たちが入ってきた新日本橋側には二人いるな。狭くなってるところで待ち伏せしてるぜ」

「どうします、リーダー?ドローンで手薄な地上出口を探しましょうか?」

「いや、悠長にやっている暇はない。それにこの感じだと地上の出入り口は全部押さえられているだろう」

 三越前の地下連絡通路は比較的狭い面積で孤立している。大人数んで追い込み漁を行うにはちょうどいいと判断されたのだろう。

「最初っから追いはぎ狙いか。嫌な連中だぜ」

CROWS(クロウズ)でしょうか?」

「ああ、たぶんな」

 CROWSはお宝至上主義のソロ連中が集まった互助組織のようなものだったのが、いつの間にか複数の派閥が合議制で統治する窃盗団のような悪質な集団に変貌をとげたレイドチームだ。お宝を手に入れるためにはどんな手段も正当化されるとうそぶく連中である。

「連中はとくに大陸から持ち込まれたレリックに執心しているという噂もある。独自の情報網でここに『評決の羅針盤』があると目星をつけていたんだろう」

「くそっ、CROWSのやつら、大陸の勢力とつながっているのか?」

「全部が全部というわけじゃないらしいよ。僕はソロだからそっち方面の情報も入ってくるんだけど、CROWSって内実は呉越同舟の寄せ集めだから結構もめてるんだってさ。だけどそれなりに統制が効いていてレイド本番に出てくる連中はしっかりと協調して動くからやっかいだよね」

「敵は敵だろ?で、どうすんだい、リーダー。俺ならいつでも行けるぜ」

 ケイタがガチンと拳同士を打ち付ける。すでに硬化術式を発動しているのか、グローブの表面を青い光の線が走る。

「単純バカは置いておいて、実際どうしましょうか、リーダー」

「ううむ」

 どこかの出口に狙いを絞って一点突破は図れば地上に出ることは出来るだろう。だが今回のレイドは地上は結界の範囲外だ。術式適性の高い倣介はともかく、レムナンツ・ハンズのメンバーでは満足にガジェットを起動できない。地上を人海戦術で押さえられたらこちらは対抗手段がない。CROWSはそこまでやる連中だ。

「地上は範囲外。地下に逃げる」

 メイがつぶやくような声量で告げる。

「だから地下道も包囲されているっていってんだろ」

 ケイタの反論にメイが首を振って指を差す。そこには地下鉄の改札機が並んでいた。

「そうか、地下連絡通路は繋がってなくても地下鉄の線路は繋がっている。トンネル伝いなら銀座方面に逃げられるってことか」

「なるほどね」

「でかした、メイ。その案で行こう」

 トオノが煙幕弾を仕込んだ使い捨てのドローンをセットする。キュルルルとラジコンカーのような音を立てて滑らかな床をドローンが疾駆する。競技用ラジコンカーのモーターを使用したドローンは加速開始からわずか2.0秒で時速60キロメートルに達する。周囲を警戒しながらゆっくりと迫っていた黒ずくめの男たちが物音に視線を向けたときにはもう目の前までドローンは迫っていた。

「なっ」

 声を上げる隙を与えることなく男たちの目の前でドローンが破裂し、手で触れそうなほど濃密な白い煙りが一瞬で地下連絡通路に充満する。

「よし、Go!」

 カサギの指示で全員が地下鉄の改札口を飛び越え、さらに下のホームへと駆け下りる。

「銀座駅はどっち?」

「右だ」

 そのままホームの端まで走って軌道上に飛び降りる。

「右に寄って走れ!黄色いカバーがかかっている第三軌条に触れると感電するぞ」

 銀座線は東京の地下鉄の中でも一番古い世代で、大きなトンネルを掘削する技術がなかったため天井高が低い。一般的な電車のように頭上に架線を張る空間が確保できず、壁面の低い位置に大電流が流れる第三のレールが設置されているのだ。

「ひえ」

 珍しく倣介が声を上げる。余裕ぶっているのでつい勘違いしがちだが、彼は一番年少者だ。

「もっとゆっくり。走りにくい……」

 もともと歩幅が狭いので不利だが、鉄道の軌道上は枕木やケーブルがあってメイには走りづらい。それに地下連絡路と違ってほぼ暗闇だ。

「先行しているといってもここが袋小路であることには変わりない。すまんが急いでくれ」

「あぅ」

「そうだ、リーダー、アレが使えるかも」

 トオノが全員を集めてレクチャーする。

「八番の術式を起動してみて」

 全員が共通して装備している左腕のコントローラーの八番目のボタンを押す。術式が起動して靴底に青い光の線が走る。

「渦電流を制御して金属面との反発力を発生させる術式なんだ。レールの上なら摩擦抵抗無しで滑っていけるはずさ」

「いつの間にこんなのを仕込んでたんだ?」

「磁石で鉄にくっついて登るシューズはあるけど反発するシューズってないだろう?作ったら面白いかなって思って」

「滑る靴って意味ない……」

「……ことはない。ちょうどこの先は下り坂だ。これでかなりのアドバンテージが取れるぞ。でかした、トオノ」

「慣れないうちは転びやすいから気をつけてね。うわっと」

「あはは、これ、いいね。スケボーのグラインド技みたいだ。ヒュ~」

 倣介はさっそく滑る靴を乗りこなして地下鉄の線路を滑り下りていく。

「よおっし、オレも……。あれ?滑らないぞ?どうなってんだ?」

「あ、ごめん、ケイタ。材料が足りなくてキミの分の改造は間に合ってないんだ。悪いけど走ってついてきて――」

 トオノが無情な台詞を残して滑り下りていく。

「こんにゃろぉー、待ちやがれぇ~」

 ケイタは足場の悪い中、懸命に走ってみんなについて行った。

メイの機転とトオノのガジェットで難を逃れたレムナンツ・ハンズはその足で銀座駅方面へと移動する――

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