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Ep6-10 二人だけの参戦

今回のレイドは英太と桔花、二人だけでの参戦だ。移動に車が使えない二人は、山手線の最終電車で東京駅へと向かった――

「本当に二人だけで大丈夫かしら」

 ユナが心配気につぶやく。

「ドンパチは禁止だし、今回は建物の損壊も禁じられている。大丈夫だろ」

 手元で何か作業をしながらなのか、カチャカチャと背景音を鳴らしながら昭三ショーが答える。映像が切られたチャットルーム越しに響く昭三の声は飄々としていた。

「でも漣とは当分連絡がつかないんでしょう?何かあったときのフォローがないのは不安ね」

「リーダーがいけるって判断したんだ。俺たちは外野に徹するさ」

 チャットルーム画面に踊る不定形の模様を映したユナの瞳からは未成年の仲間を憂う影が消えない。ユナは前々から予定していた用事で現在アメリカ東海岸に滞在中だ。何かあっても駆けつけることができないもどかしさに爪を噛む思いだった。

「とりあえず俺は休暇中だ。娘は祖母の家にお泊りに行っているし、久しぶりにのんびりと深夜のドライブにでも行ってくるよ。皇居のあたりなんかは道も空いているだろう」

 カシャン、と何かを組み立てるような金属音が鳴る。

「ショー……」

「まあそういうわけだから、そっちも気にせずにゆっくり休め。っと、そっちはちょうど昼時ランチタイムかな」

「そうね。せっかくだからルームサービスを取って部屋でゆっくりと食事を楽しもうかしら」

 少しほっとした声でユナが答えた。


 ***


 8月第三週日曜日 0時39分 東京駅


 山手線内回りの最終電車で東京駅に降り立つ。帰省のUターンラッシュで賑わった構内もさすがにひと気が無くなっており閑散としていた。

「さて、と。あと一時間くらいあるわね。どこかで時間潰さないと」

 大人チーム不在なので移動は電車になった。最初のターゲットが東京駅直結のステーションギャラリーになるのでこのまま構内で隠れていたいところだが、他のレイダーたちも同様のことを考えているとなると鉢合わせになる危険性がある。俺たちは一旦改札を抜けて空いている店を探すことにした。

「さすがにどこも閉まってるな」

 昼間は多くの人が行き交うオフィス街だが、夜は閑散としている。夜中の十二時を回って開いている店のほうが珍しい。

「どうすんのよ。外をうろうろしていたら最悪警察に補導されちゃうわよ?」

 うーん、早まったか?やっぱり駅構内で潜むほうが良かったかも。

 うろうろと歩いていたら、一軒だけLEDサインの灯る店を見つけた。

「あら、いい感じの店じゃない。朝四時までやっているみたいだし、ここで時間潰そうよ」

 アメリカン・ダイナーというのだろうか、少し高級なハンバーガーやフライドポテトの他に夜のバータイムに相応しいメニューが並んでいる。

「高校生が入っても追い出されないかな?」

 俺は履き慣れたスニーカーにジーンズ、洗いざらしのTシャツに綿シャツという普段着姿だった。片梨さんのほうはドクターマーチンブーツに黒のレギンス、同系色のデニムショートパンツにボーダーのインナーを着てへそ丈の真っ赤なエナメルジャケットを羽織っている。髪型はいつもと少し変えていて、長い髪の一部をお団子にしてまとめ残りをおさげふうに左右に垂らしている。なんというか、そのままアメリカン・ダイナーに入っても違和感がないスタイルだった。

「ん-、英太はダメかもね。まあ追い出されたらそのときよ。ダメもとで入りましょ」

 腕を引かれるようにして店内に入る。

 重いガラス戸を押し開けると焙煎したコーヒー豆と木材の香りが漂ってくる。高い天井は梁がむき出しになっていて黒いダクトが意味ありげに走っている。床はウォルナットのフローリングで歩くと柔らかい音が返る。照明は暖かい色合いのペンダントライトがぽつぽつと吊るされていて、テーブルの上だけをプライベートな舞台のように照らしている。

 深夜だからか客はほとんどおらず、QRコードで注文するスタイルも相まってほとんど他人と顔を合わせることなく過ごせた。

「わあ、このピンクカレーってなに?カワイイ」

「今から体を動かすんだから満腹にならないほうがいいよ」

「わかってるわよ。もう、興ざめね。今度ユナさんと二人で来ようっと」

 うむ。気を使って忠告したのに怒られた。オンナゴコロというやつだろうか。

 俺たちは注文したクリームソーダとコーラフロートを飲みながら、ゆっくりと時間が過ぎるのを待った。どこにどんな目と耳があるかわからないからレイドに関する発言はできない。身バレするような個人情報を漏らすのもご法度なので世間話もできず、ただ黙って夜の街を眺めながらエアコンの効いたダイナーの横長のテーブルに並んで座り、ソーダの上に浮かんだアイスクリームをつついていた。

「ね、こうやって黙ってアイスつついているとさ、なんだか別れ話を切り出せずにいるカップルみたいね」

 そのシチュエーションの何が嬉しんだか、片梨さんはにまにまと笑みを浮かべている。

「その線だと俺たち付き合ってることになるけど?」

 自分で言って恥ずかしくなった。

「ちょ、馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!」

 鉄拳が飛んでくるのを覚悟して目をつぶったが、一向に衝撃は訪れなかった。薄目を開けて隣を見ると、耳まで真っ赤になって顔を伏せている片梨さんがいた。

「そ、そろそろ時間ね。油を売っていて乗り遅れたんじゃリーダーに合わせる顔がないわ。いくわよ」

 照れ隠しなのか手持ちのカードでまとめて会計を済ませると、さっさと店を出ていく。俺は慌てて後を追った。

 オフィスビルの谷間を抜けて東京駅の北端を目指す。歩いている途中で背中を逆なでするような冷気を感じた。


〔つづく〕

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