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第8章:糸が切れる前に



まともに眠れなかった。動くたびに、折れた骨――たぶん肋骨にヒビが入ってる――と、それ以上にズタズタになったプライドが痛みを訴えてくる。でも、まあ、少なくともまだ息はしてる。これって一応、勝利ってことでいいんだよね?


薫様は心配そうな顔であたしを見て、「動くな」って手を伸ばしてきた。あたしは鼻で笑ったけど、言われた通りにした。


「ねえ、薫様。これからどうなんの?」


ちょっとビクついて聞いた。


「うむ……お前はチャンピオンだ。可能性は二つ。一つは、すぐに次の試合に出して殺したい場合。もう一つは、治るのを待って戦い方を覚えさせる場合。そっちの方が投資になるからな。技術的で、見応えのある試合になる」


「マジ最悪……どっちにしろ、あたし詰んでんじゃん」


「まあ、間違ってないな」


彼は何年もの囚われを背負ったような溜息をついた。


少し黙ってから、また口を開いた。


「あのさ、聞きたいことあるんだけど……」


目を逸らした。


「なんだ?」


「元軍人だったんだよね……誰か殺したこと、ある?」


薫様は昔の記憶を探るようにしばらく黙ってから、答えた。


「ああ」


「どうだった?」


「その話は、お前がグラディエーターを殺したことに罪悪感を抱いてるからか?」


全身が凍りついた。あの試合の記憶が一気に押し寄せてくる。その質問を聞いただけで、自分が化け物に思えた。あたしは彼の目を見据えて、冷たく言い放った。


「関係ない。あたしが何を感じようが、あたしの勝手でしょ」


「わしはお前のトレーナーだ。だから忠告してやる。罪悪感、同情、愛……そんなもんは全部お前を弱くする。過去は忘れろ。前だけを見ろ」


「ただ忘れろって? そんな簡単に? 何もしてないみたいに?」


「そうだ。忘れろ。そして、人生が美しいかのように笑って生きろ」


その時、わざとらしいほどゆっくりとした拍手が聞こえてきた。あたしを馬鹿にしてるのかってくらいの、嫌味ったらしい拍手だ。


顔を向けると、そこにいたのはあのクソ野郎——リサンディルだった。あたしを、棚に放り捨てられた壊れた玩具みたいに値踏みしてやがる。今すぐ殺せるなら殺してやりたい。後悔なんてこれっぽっちもしないだろうに。


「……なるほど、激戦であったな。しかし、見事と言わざるを得ない」


「お気に召して何よりです、薫様」


リサンディルはあたしを上から下まで、まるで競り市の家畜でも見るような目で品定めした。


「君には才があるようだ、小娘」


あたしは数秒、黙ったままだった。


「……光栄です。お気に召していただけて」内心、吐き気がするほどだったけど。


でも、あたしに選択肢なんかなかった。こいつのゲームに乗らなきゃ、その場で殺されかねない。


そいつ、なんか興奮してるし。


「君を侮っていたようだ。まあ、まだまだ未熟だがな。私が寛大ゆえ、成長の機会を与えよう。骨が砕けるまで鍛えろ……そして我が新たなチャンピオンとなれ。戦い、戦い続け、死ぬまで。栄光に満ちた人生だ。お前は幸運な娘だぞ」


そう言うと、そいつは去っていった。あたしはただ見送っただけ。


薫様があたしを見た。


「まあ……少なくとも、お前には適応するチャンスがある」


「もうちょっと寝てみる……」


首飾りを手に取ると、血がついているのに気づいた。自分の服で拭って、また横になった。


そうして、数ヶ月が過ぎた……ほぼ一年だ。


あたしはあの臭いベッドでずっと寝たきり、折れた骨を癒していた。もう治らないんじゃないかと思った。むしろ太ったかも。カロリー消費しなきゃ……せめて体型だけでも維持しないと。でも、やっと少しは動けるようになった。


あたしと薫様は闘技場にいた。大勢の衛兵がいて、みんなあたしをゴミでも見るような目で見てた。訓練中の剣闘士たちのひそひそ話も聞こえてくる……たぶん、チャンピオンを倒した小娘のことでも噂してるんだろう。中には、あたしを倒すべき標的みたいに睨んでくる奴もいた。


あたしがぼんやりしてると、薫様が木剣を一本取って、あたしに投げてきた。受け取ろうとしたけど、床に落ちた。しゃがんで拾い上げた。


「今日はお前に戦い方を教える。手加減はせん。わしの命はお前にかかっておる」


あたしはありったけの力で剣を握りしめた。


すると、そいつは小さな砂袋をいくつか投げつけてきた。ブレスレットみたいな形だけど、めちゃくちゃ重い。


「お前は一刻も早く強くならねばならん。だから、これをつけろ」


つけた……マジかよ、アンカー背負ってるみたいだ。


文句を言う暇もなかった。


薫様は素早く近づいてきて、あたしの腹にストレートパンチを叩き込んだ。あたしは四つん這いになって床に崩れ落ちた。胃がひっくり返るような感覚だ。


あたしは怒りに燃えてそいつを睨んだ。


「なんなのこれ!? 頭イカれてんの!?」


「これが訓練だ。強くなり、身を守る術を学べ。お前は特別な技や見栄えのいい攻撃は教わらん。お前の闘争本能が開花するだけだ。基本は教えてやるが、チャンピオンは本能で戦う」


「それって、ただの殺人未遂の言い訳じゃねえの?」


そいつはあたしの言葉を無視して、剣をあたしに向けた。


「剣を取ってわしを攻撃しろ。この老いぼれにすら勝てんとは、恥を知れ」


あたしはもう一度剣を握りしめた。


毎日毎日、あたしはそいつと訓練を続けた。ボコボコにされてバカみたいだったけど……でも、あたしは学んだ。


殴ること、避けること、痛みを燃料に変えること。


そして、まるで時間が加速したかのように……


九年の歳月が流れた。


勝利を重ね、無敗で……


あたしは新たなチャンピオンになった。



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