表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

第7章:闘技場の最初の叫び


あたし、部屋のベッドでゴロゴロしてた。ジュース飲みながら勉強。


くそっ……あのクソ遼、まだあたしより上だし。 生意気な野郎、自分があたしより頭いいとか勘違いしてんじゃん。 あのチビ、思い知らせてやんないと。 あたしがクラスで一番なんだから、そう簡単に王座渡すわけないじゃん。


そこへ、ドアをコンコンとノックする音。


開けると、母が立ってた。


母はあたしを優しく見つめて、


「まだ勉強してるの?もう遅い時間よ。寝るのも大事なんだから」


「分かってるって、お母さん……でも、やめらんない。遼がもうすぐ追い越してくんだから。そんなの許せるわけないじゃん」


母はあたしを見て、ふっと笑った。


「あなた、ほんとにプライド高いわね……きっとお父さん譲りよ。あなたは絶対に諦めない。それがあなたの一番の長所のひとつ」


「本当にそう思う?もしあたしが抜かれたら?クラスで一番になっちゃったら?」


「言ったでしょ。あなたは努力する子よ。もしそうなっても、また立ち上がって一番になるまで戦うんでしょ。それが私の育てた娘なんだから」


母の言葉が、頭にじんわり染みる……


そして、全部がよみがえった。



アリーナの歓声が、また耳に突き刺さる。


剣闘士がアリーナの壁から剣を引き抜く。起き上がろうにも、体が動かない。トラックに轢かれたみたいだ。


骨、折れてんじゃねーの?


息するのも痛え。 動くのも痛え。


要するに、あたしゃもう詰んでる。


冷え切った、もう我慢の限界って目で、奴があたしを睨む。


「地べた這いつくばってろ、ガキが……もうお前の出し物は終わりだ」


奴は剣を砂に引きずりながら歩き出す。


金属音がキィン、キィンと耳障りに響く。パニックが押し寄せてくる。振り向かないまま、横に手を伸ばす。パチンコを掴む。奴に気づかれねえよう、石をセット。


一か八かだ。


外したら、マジで終わりだ。


奴を止められる急所を狙う。


奴があたしの真上で止まる。とどめの一撃、剣を振り上げた。


あたしは振り返って石を放つ。


石は奴の目に、ド真ん中。


甲高い叫び声がアリーナを切り裂く。剣がガシャンと落ちる。聞こえるのは、奴の苦痛の叫びと、あたしへの罵声だけ。


胸の焼けるような痛みを無視して、ふらつきながら立ち上がり、ブーツに隠したナイフを掴む。


痛みなんて感じてる場合じゃねえ。


チャンスは一度きりだ。


もうためらわねえ。


このクソ野郎に、あたしは殺されねえ!


奴は次の攻撃に備えようとする。けど、目の痛みが奴を鈍らせる。その一瞬……あたしの方が速い。


ナイフで急所を突く。


膝から崩れ落ちる。息が切れ、手が震える。


これがあたしの全てだ。 効かなかったら……もう終わりだ。


ゆっくりと顔を上げる。


奴はまだ立ってた……あたしを睨んでる。


クソ……あたしの攻撃、無駄だった。終わりだ。


奴があたしの方に一歩踏み出して……


そして、崩れ落ちる。


奴は死んでいた。


群衆が狂ったように叫び出す。まるで最高の見世物だとでもいうように。


血まみれのナイフを手に見つめ、すぐに手放した。


視界がぼやけ始める。全てが真っ暗になる直前、頭が地面にぶつかる衝撃だけが残った。


誰かが頭を触る感触で目が覚めた。


動こうとした──致命的なミスだ。全身に激痛が走る。横を見れば、薫様がいた。


あたしの体は全身包帯だらけ。マジで……ミイラじゃん。せめて葬式くらい可愛くしてくれりゃよかったのに。


薫様が、明らかに驚いた顔であたしを見つめる。


「本当にチャンピオンに勝ったのか?」


「カラスの餌になってないなら……多分、そうなんじゃね?」


でも、あたしは全然嬉しくない。


自分がしたこと、思い出すだけで手が震える。罪悪感が込み上げてくる。あたしは、あんなことしたくなかった……あの人も、このイカれた見世物で、ただ生き残りたかっただけなのに。


薫様はあたしの震える手に気づき、そっと握る。


「自分を責めるな。お前は必要なことをしただけだ」


「……うん」


それから薫様は、あたしの手を握ったまま、そこにいてくれた。


無言で。


あたしが眠りに落ちるまで。


多分……あたし、また同じことをしなきゃいけないんだろうな。


何度も、何度も。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ