第22章:祭り、茶番、そして炎
あたし、何キロも歩きっぱなしで、木の下で寝泊まりして、挙句の果てにエルフに化けてるし…人生マジで楽じゃねえ。食料もとっくに食い尽くして、腹ペコだし。出発してから二日経つけど、文明の気配すらねえ…別に早く着きたかったわけじゃねえけど、この世界の街に足踏み入れた前回は、トラウマまみれだったからな。
やっと草むらじゃねえもんが見えたってもんだ。
でっかい看板の前に立ってんだけど、なんか書いてある。街の名前だろうよ。看板には酔っ払いが殴り書きしたみてえな落書きがあって…最悪なのは、そのクソみてえな文字がこの世界の言語だったってことだ。完璧じゃねえか。クラスで一番の優等生だったあたしが、文盲になるなんてな。どん底もいいとこだ。
リバーベンドの街に入る。すげえ綺麗で完璧すぎて、逆に汚したくなるような場所だった。生き生きとした手入れの行き届いた木々、可愛い広場があって、エルフのじいさんがハトに餌やってんのな。で、広場のど真ん中には魔王の像が鎮座してやがる。
その青銅の忌々しい像を睨みつけてた。偉大な救世主みたいなポーズ決めてやがって、周りにはそいつを崇拝してる子供や大人の像まで並んでやがる。プレートに何が書いてあるかなんて知るかよ。どうせ誰かが媚びへつらってる内容だろ。ここ、魔王の王国なんだしな。どうやらこの街の連中、魔王に心酔してるみてえだ。
街がやけに賑わってんのに気づいた。屋台が次々組み立てられてて、祭りでもあるのかね。
その時、ガラスが割れる音がした。
すぐに振り返ると、遠くで獣人族が窓から放り出されてるのが見えた。慎重に近づいてみると、ボロボロだったが、傷を見る限りただの喧嘩だろう。気絶してるだけみてえだ。
割れたガラスの方を見ると、バーだった。
完璧じゃねえか。噂話を聞くにはうってつけの場所だし、情報収集にもなる。エラリオン家の屋敷に侵入するアイデアも浮かぶかもしれねえ。誘拐は今夜決行だ。今のあたしのプランは、うまくいくことを祈るしかねえ。
ドアを開ける。
アルコールと汗の臭いが鼻を突く。
悪相の奴らが一斉にこっちを見てくる。店内は最悪だ。テーブルはろくに拭かれてねえし、油でギトギトしてやがる。床板は明らかに腐ってやがるし、客の面構えからして、ろくでなしばっかだ。
あたしは視線を無視して、奥へと進んだ。
カウンターの近くに座ると、バーテンダーは角の生えた悪魔といった風貌だった。
「強い酒ちょうだい。あと、ご飯もたっぷり」 腹が悲鳴を上げてる。限界だった。
すると、彼がショットグラスと皿を滑らせてよこした。あたし、酒なんて飲んだことなかったし、いい子ちゃんだったのにさ……。まあ、そんな時代は終わったってことで。場に馴染むために一気に煽ったら、もう最悪。不味いにもほどがある。よくこんなもん飲んでアル中になる奴がいるよね?
でも、バーテンダーがじっと見てた。
「何見てんの? あたし、あんたには高嶺の花だから」 不機嫌丸出しで言った。
「そんなに突っかからなくてもいいだろ。見ない顔だな、あんた」 バーテンダーはヌメヌメした手つきでグラスを拭きながら聞いてきた。
「通りすがりよ。で、広場に立ってるあの屋台って何?」
「魔王様を祝う祭りだ。この街は大戦で魔王様に救われたんだ」
「へー、感動的ね。で、そのお祭り、何時から?」
「もうすぐ夜だ。あと三時間くらいかな」
だけど、目に入ったものがある。ポスターに描かれた顔が、変装してるあたしに似てた。気づかれないでいてほしいけど。
「ねえ、このポスターの人、誰?」 興味本位で聞いた。
「兵士が貼ってったんだ。人間がエルフを大勢殺したらしい。まったく、物騒な話だ。あんたもエルフなら気をつけな。新しい連続殺人鬼かもしれないって噂だぞ」 バーテンダーは怯えた様子で答えた。
「連続殺人鬼? まあ、気をつけるわ。で、誰がやったか知ってる?」
「ああ、紗綾香 水野って女だ。昔は凄腕の剣闘士だったらしいが、今は『エルフ殺し』って呼ばれてる」
「そのポスター、くれない?」 手を差し出した。
「懸賞金目当てか?」
「懸賞金あるの? いくら?」
目が輝いた。自分の首に賞金がかかるなんて、そうそうないし、結構価値あるじゃん?
「金貨十万枚だ。ただし、生け捕りでな」
「十万枚!? だったら、この女捕まえて魔王様に突き出したら、一生安泰じゃん! ポスター、もらっていい?」
バーテンダーはポスターを渡してきた。
似顔絵だった。マジかよ、この絵のあたし、完全にサイコパスじゃん……。
まあ、ちょっとはそうなっちゃったかもだけど、もうちょっとマシな絵にしてくれてもよかったのに。
でも、生け捕りってところが気になる。なんでだろ? まあ、今考えても無駄か。
バーで少し時間を潰してから、地図を手に歩き出す。 辺りはもうトーチの明かりで満ち、人々でごった返していた。遠くでバンドの演奏が始まり、なかなかいい曲だ。つい踊りたくなる。
屋台も様々だ。ダーツのようなゲームの店、飯屋、そして……奴隷を売る店。
あたしはその屋台の前で足を止めた。奴隷を売る悪魔が、あたしを見る。
「お客さん、興味あるかい? こいつらは最高の状態だ。家事にはもってこいだよ」
「パス」あたしは素っ気なく答えた。
でも、ああいうの見るといつもムカつく。全部ぶっ壊してやりたい衝動に駆られる。けど、目的を思い出さなきゃ。
エラリオン邸の前に着いた。巨大な装飾鉄門と、ゴルフ場のような広い芝生。その先に屋敷が見える。警備らしきものは見当たらない。ただの壁だ。警備は全部屋敷の中か?
壁、飛び越えようかな。中に入ってから考える。
だが、その時—— ドォォォン!!!!
爆発音。それもエラリオン邸の方からだ。
何これ、マジかよ!? 攻撃されてんの!?
状況を把握する間もなく、背後で同時多発の爆発。いくつもの屋台が吹き飛んだ。爆風であたしは吹き飛ばされ、壁に背中を打ち付ける。しばらく何がなんだか分からず、耳鳴りだけがキーンと響く。
悲鳴、泣き声。人々が逃げ惑う。
なんなの、これ!?
目に入った土埃を拭い、ゆっくりと立ち上がる。 その時、声が聞こえた。
「攻撃しろ!! 皆殺しだ!!」
あたしは見た。そして、目を見開いた。
人間だった。
鎧を着た者もいる。動くもの全てを襲っていた。
人間が、この祭りを襲ってる……!?




