第20章:傷跡に銀**
あの臭い小屋を出た後、体が妙に軽い。まるですべて吐き出してしまったみたいな感じ。
歩いていると、ルカンが目の前に立ち止まり、いつもと違う笑みを浮かべていた。あたしが乗り越えられたことを喜んでるのかもしれない。誰かに気持ちを読まれるの、ほんとに嫌なんだけど。
「まあ、見た目を気にするあたり、相当な見栄っ張りなんだろう? 身軽になったみたいだし」
「あんたには関係ないでしょ!」あたしは目を逸らして言い返した。
てか、気持ちを言い当てられる方がもっと嫌かも。
「俺の口は堅いからさ、信用していいよ、お嬢ちゃん。どんな深い秘密でも話してくれていいんだぜ」ルカンはおやつをねだる犬みたいな目であたしを見つめてきた。
「あんたが自分で言ったじゃん、あたしってオープンブックだって。なんで自分で見つけようとしないわけ?」
「見つけられるけどな。まあ、話は変わるけど…これが役に立つかわかんないけど、あんたが気に入るものがあるんだけど」
彼がポケットから小箱を取り出してよこす。あたしは半信半疑で受け取り、ゆっくりと蓋を開けた。
瞬間、目がくらむほどの輝きが飛び込んできた。
箱の中には歯――銀製の、鏡みたいにピカピカなやつが入ってやがった。自分の顔が映るほどツヤツヤしてる。
「……は?」眉をひそめてルカンを睨む。こいつ、何の冗談だよ。
「義歯だ」ルカンはさらりと言った。「欲しけりゃ入れてやる。そのガラガラの口で歩き回るよりマシだろ。どうよ?」
舌先で歯茎の穴をなぞる。あの隙間は、屈辱の証だ。
あたしの笑顔に、こんな印残させないんだから!
「受け入れるわ。見た目良くなるなら、損はないし」 あたしは、そっけない顔で言った。
「そりゃよかった。だが、言っておくが、つける時は少々痛むぞ」
「別に構わないわ。あたし、もっと酷い目に遭ってるし…」
「へえ、気になるな。どんなことだ?」 ルカンは首を傾げ、あのウザい好奇心丸出しの目でキラキラと輝かせた。
「何様のつもり? セラピスト? 暇なら他にやること探せよ」
「興ざめだなぁ…」 ルカンは不満げに呟いた。
「で、これからどうなんの? 訓練ってどうやるの?」
「さて、これからはマナを使って強くなる。葉っぱを揉む作業を何度も繰り返す…三ヶ月間だ」
「え、それだけ?」
「マナは筋肉のようなものだ。覚えているか? 強くするには鍛える必要がある。それに、あんたは魔法を本能的に使う。才能と言ってもいいくらいだ」
「あたしを奴隷にしたあのクソエルフどもは、あたしの魔法は体術魔法だって言ってたけど。魔法って、種類とかあるわけ?」
「ああ、ある。君の旅路で、きっとそういう魔法の使い手に出会うこともあるだろう」
「さっさとまとめて言ってよ。長い説明とか無理だし」
「ええと、魔法は五種類と、あと特殊なのが一つで、全部で六種類ある。あんたが使ってる体術魔法は、身体能力を向上させるものだ。それから元素魔法。これは自然の四元素、火、土、水、風に関連する魔法だ」
「ふーん、それは知ってるわ」 あたしは遮った。 「逃げた時、エルフたちがこの手の魔法で止めようとしてきたし」
「エルフは、この手の魔法に生まれつき親和性があるんだ。で、話は戻るけど、死霊魔法っていうのもある。これは死体を人形みたいに操るんだが…それだけじゃなくて、他にも色々できるんだけど、説明するのめんどくさいな」
「その魔法、キモいじゃん」
「実際、あまり良い目で見られない魔法なんだ。死体に関わるから、倫理的に間違ってるって考える人も多い。それから純粋魔法。これは魔法粒子を制御して具現化させるもので、魔法の弾丸にしたり、盾にしたりできる。かなりチート級の魔法で、あんたのちっちゃい頭には難しすぎるかな」
「あんたのために言っとくけど、あたしの世界じゃ、学校で一番の優等生だったんだからね」
「はいはい…」 全然疑いを隠そうともしてないくせに。
「続けて、封印魔法っていうのは、何かを封印する魔法だ。名前通りだから、説明は不要だろう」
「ふーん。で、固有魔法って何するの?」
「ちゃんと聞いてるじゃん…。褒美でもあげようか」
「いいからさっさと教えろってば」
「それは、場合によるんだ。固有魔法の使い手は、滅多にいないからな。簡単に言うと、今までの魔法の分類に当てはまらないような魔法を使う人、って感じかな。だから、もし固有魔法の使い手が敵になったら…まあ、厄介なことになるだろうな」
あの小さな授業の後、私たちは家に戻った。彼が連れて行った部屋には、椅子といくつかの道具があるだけだった。
まあ、その時点了よ。義歯を入れられるってね
場所はひどく汚くて、道具もまともに消毒されてないだろうし……。
椅子に座って、あとは神頼み。破傷風や細菌感染だけは勘弁してほしい。
言っとくけど、あの処置、クソ痛かったんだから。
二週間、薄いスープや味気ない液体ばっかり食わされてさ。こんな強制ダイエットになるってわかってたら、その前にあたしのために超豪華ディナーでも食っといたのに。
でも、おかげでちょっと痩せられたかもね。
銀歯をつけて、やっと鏡を見た。
最悪なのは、別に嫌じゃなかったこと。ワイルドな美しさがあって、威圧感もバッチリ。銀の笑顔って感じ?
でも、髪はボサボサだし……。まあ、ちゃんとした櫛があるだけマシか。
で、髪をとかし始めたら、ついでに葉っぱを集めて潰すのが日課になった。
やっと三ヶ月の訓練が終わった!
部屋で考え込んでいた。
次どうするか。
魔王を追う。
でも、どうやって?
その時、ドアをトントンとノックする音がした。
立ち上がってドアを開けると、ルカンがもたれかかっていた。
「もう出発かい? どこへ行くつもりだ?」
「なんで今だって思うわけ?」
あたしはベッドに戻りながら返す。
「君はいつもせっかちだからね。もう三ヶ月経ったし、てっきりもう出ると思ったよ。…だが、君の顔を見ると、どうも当てがないように見えるね」
「そんなに顔に出てる?」
「心配いらない。あたしが手伝ってあげるよ。…魔法を教えてくれって頼んだ時、対価はもらうと言ったのを覚えているかい?」
ルカンが、じりじりとあたしに近づいてくる。
「覚えてる。それが?」
「今、その対価を請求したい」
「で、何が欲しいわけ?」 rascunho
「エルフを一人、誘拐してここに連れてきてもらいたい」
その瞬間、あたしは呆気に取られてルカンを凝視した。
正直言って、どんなことでも覚悟してた。
…まさか、クソエルフを誘拐して、囚人みたいに差し出すなんて、思ってもみなかった。
…いや、むしろ。
このアイデア、悪くない。




