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第12章:逃げるとは限らない

あたしの腕、クソヤバい。あの土の杭、地獄からのお土産ってか。痛えし、動かすのもやっとだ。血が止まんねえ。壊れた蛇口みてえだ。このままだと血の道ができちまう。あんなレベルの戦い、もう一回やったら終わりだ。早く手当てしねえと。


適当なドアの前で立ち止まる。もうちょっとで迷子だわ。探索するしかねえよな?


ゆっくりドアを開ける。


キッチンだった。料理の匂いが最高で、腹減ってきちまった。暖炉がパチパチいってて、奴隷どもがアリみたいに働いてやがる。あたしが入っていくと、全員ピタッと止まった。


シーンと静まり返る。


まあ、血まみれだもんな。B級ホラーの登場人物みてえだろ。


「そんなジロジロ見んなって。あたしが美人なのは自分でも知ってるから」って、場を和ませようとしたけど、みんなの顔見てりゃ無駄だってわかった。


暖炉に直行して、テーブルにあった肉切り包丁を掴んだ。映画で見たことあるし、芸術は人生を模倣するって言うだろ? 刃を炭に突っ込んで、傷口に当てた。痛みはヤバかったけど、まあ耐えられる。みんなの前で泣き顔晒すわけにはいかねえし。奴隷ども、その光景見てビビってやがる。軟弱者め。


「おい、みんな」痛みで声が掠れてる。「このボロ屋の他の奴隷はどこだ?」


みんなの足に鎖がついてるの気づいた。剣じゃ切れねえな。


「誰か斧かなんかねえのか? この鎖切れるようなもん」イライラしながら聞いた。


「お嬢さん、何をしてるんです?」奴隷の一人が死んだ魚みたいな目で聞いてきた。


「逃げるんだよ」ぶっきらぼうに答えた。


みんなショック受けてやがる。あっちこっちでヒソヒソ声。「外に出たら死ぬぞ」とか「絶対ヤバい」とか。臆病で諦めきった奴らだ。


「お前らはここでお利口奴隷やってりゃいいだろ。あたしは誰も強制しねえよ。クソ耳長どもに従ってりゃいいんだ。でもあたしは行く。ついてきたい奴は来い」超イライラしながら言った。


一人の女がゆっくり近づいてきた。体震えてやがる。深く息吸って、


「あの引き出しに鉈があります。大きな動物の骨も切れるから、鎖も切れるはずです」って、引き出しを指差した。


行って引き出し開けて鉈を掴んだ。


何度か荒っぽく振り下ろすと、耳がキーンとするような金属音がして、鎖が切れた。みんなポカンと見てやがる。奴隷の一人が膝ついて、切れた鎖を握りしめてた。まだ理解できてねえみたいだな。


「今日の善行は終わり。好きにしろ」そう言って、やるべきことに集中した。



その後、あたしに肉切り包丁を渡した奴隷に目をやった。


「剣闘士はどこ?」 あたし、この場所全然知らなかったし。


「ここ、厨房です。剣闘士の牢へ続く階段があります」


「よし。とりあえず黙ってろ。衛兵が来たら、仕事してるフリして怪しまれないようにしとけ。剣闘士が来れば、逃げるのに十分な戦力になるから」


あたしは厨房の奥へ向かう。言われた階段を見つけた。中は真っ暗で、松明の炎が揺れてるだけ。 ゆっくりと階段を降りていく。下に着くと、鍵番のエルフ衛兵がいた。まだあたしに気づいてない。完璧。これで楽になる。


影のように忍び寄り、剣を奴の背中に突き刺した。


奴は力なく崩れ落ちた。死体を漁って鍵を手に入れた。これで楽勝だ。


ゆっくり歩いて、剣闘士たちがいた場所に着いた。全員があたしを睨みつけ、軽蔑の目で見ている。まあ、剣闘士同士ならこんなもんか。


檻に近づき、奴らを解放しようとすると、一人の剣闘士がすぐそばまで来た。


「ここを出たら、てめえを殺す。俺の恋人を殺したな」


「たくさん殺した。誰だったかなんて知らないし、どうでもいい」


「あんたは、あたしの大切な人も殺した」別の女剣闘士が言う。


その瞬間、あたしは檻の格子を思い切り殴りつけた。ガシャンと響く音に、全員が静まり返る。アリーナで殺した奴らのフラッシュバックが頭を駆け巡った。檻に近づき、一人ひとりを睨みつける。


「自分の命を守るために戦って、あたしが悪役だって? そんな偽善的な説教、聞きたくもないね。あんたたちを誘拐してこんなクソゲーに放り込んだのはあたしじゃない。エルフの仕業だろ。もし元の世界で生きてたら、こんな話してないし、そもそも出会ってすらいないかもな」


「じゃあ、俺たちを解放したからって、友達になれるとでも思ってんのか?」剣闘士が吐き捨てるように言う。


「あたしの顔見てみろよ。誰かと友達になりたがってるように見えるか? あんたがどう思おうと、同じ船に乗ってるんだよ」


鍵を回す。檻の扉がギィッと音を立てて開いた。


「好きにしろ。あたしを殺したいなら試してみな。でも、あたしはここから生きて出るから」 こんなやり取り、時間の無駄だと思いながら。


恋人を殺されたって男が一歩前に出た。そいつの憎悪がひしひしと伝わってくる。あたしは剣を強く握りしめ、何か仕掛けてきたら即座に斬りかかる構えを取る。だが、彼らは出て行き始めた。


「階段を上がれば厨房だ。そこにはあたしが解放した奴隷がまだ何人かいる。助けてやってくれ」


一人の剣闘士が、ただ頷いた。


あたしは、自分の檻──薫様がいる場所へと近づいていく。


「逃げろと言ったはずだ。なぜ戻った?」薫様が、わずかに驚いた様子で問う。


「道に迷っただけ。それに、あたしが約束したのは『逃げるチャンスがあれば一人で逃げる』ってことだけ。まだそのチャンスは来てないから、約束は破ってない」


檻が開く。あたしは手を差し出した。


「一緒に逃げよう!」わくわくと。


薫様があたしの手を取った。


この瞬間、あたしは確信した。


本当の脱走が、今、始まる。

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