第17話 【雪と妖精と猫の関係性】 その13
【お詫び】完結設定について、設定ミスを起こし【完結】表示がされていたようです。
皆さまに混乱を招いてしまい、大変申し訳ありません。
2021年! 明けましておめでとうございます(*´▽`*)
今年もよろしくお願いします!!!!
トレフルの執務室の扉に慎重な深いノックをしたが、扉の向こう側でガタガタと人が動く気配はするものの返事はなく、不思議に思いながらもシャドンは扉を開いた。
「失礼します。トレフル様・・・ご依頼されていた件で――――」
「許さん! こンのクッソネズミがああっ!!!!」
自分の眼前に振り下ろされたホウキを思わず“才”で勢いよく弾いた。
シャドンは咄嗟に力任せに“才”を振るってしまい、後悔をしたのだった。
「済みません・・・・・・・何事です? ロティス様」
ホウキは振り下ろした本人の顔面に跳ね返り、見事なヒットをしていた。
ロティスは幸いにも衝撃に持ち堪え、両膝を突く程度の軽傷だった。
「ッつ、捕まえて! その白ネズミ!」
慌てて後ろ手で扉を閉め、執務室内で飛び回る白い小さな残像をシャドンはあっさりと“見えぬ手”の力で自分の掌に閉じ込めた。
「・・・・・・・ネズミにしては、尻尾が・・・モフモフしてますが?」
怒りのあまり両肩を小刻みに震わせたロティスが、鼻を押さえながらゆっくりと立ち上がった。
「ただのげっ歯類だ・・・トレフル様がいない間に、息の根止めてやる・・・」
「あ、トレフル様はご不在でしたか・・・申し訳ありません・・・殺気がすごくて、命の危険を感じたので咄嗟に力を使ってしまいました」
「じゃあ、許してあげる代わりに、ソイツを今すぐ捻り潰して」
「は?」
シャドンは自分の掌にすっぽり収まっていた小動物を見下ろした。
白く小さなピンとした耳、ルビーのようなつぶらな赤い瞳、その狭い額の真ん中には薄い緑色の斑点がひとつ、全身を覆う柔らかい白い体毛、尻尾はネズミとは違いふわりとした毛が密集していた。
その尻尾を懸命にくるくると振り回し、頼りない突き出た前歯でシャドンの指をかじっているが、余り痛みは感じなかった。
「ふむ・・・たまに生まれるリスのアルビノですか? 眼が赤くて白兎のようにかわいいですね。おや・・・銀糸の縞模様に重なって・・・首のまわりにきれいな緑色が・・・」
「今すぐ殺して」
掌で顔を覆いながら、指の間から刺すような瞳で睨みつけた。
その小さな命は、ロティスの殺気に「キュ!?」と、少しの間震えながら硬直していた。
「ロティス様・・・たぶんコレ、殺しちゃいけないヤツです」
「ああああああっ!! ソイツが! 締め切り間近の決算書の数字を消しちゃったんだよ!!!!!」
「消した?」
ざっと、ロティスは室内にある鳥籠を指差した。
「ああ、あれに捕まえておけばよいのですね?」
「無理だった! 食い破られた!」
「え?」
よく見ると、鳥籠の小さな扉の横に、大きくもうひとつ出入り口が設けられていた。
けれど、手の中のソレはシャドンの指を傷つけてはいなかった。
続けて、ロティスは書類をひと掴みしてシャドンの目の前に突き出した。
ところどころ文字や数字が滲んだように抜けていて、良く分からない書類だが、見覚えは確かにあった。
「あ~~~~・・・徹夜で仕上げた報告書類・・・審査用の大事なヤツっ! 一体何があったんですか?」
「そいつ! そいつが乗っかった書類はみんなそうなった!!! きいぃいぃっ~~!!」
「文字を消す・・・インクを消してしまう特殊な脂でも分泌してるんですかね?」
「ただのリスが金属製の鳥籠なんか食い破らないよ!? きっと西側の変態研究員の実験動物が逃げ出したんじゃないの?」
「そんな話は聞いたこともございませんが・・・・・・問い合わせますか?」
「トレフル様が今、確認しに出かけてる・・・鳥籠を食い破る前だったから、トレフル様はコイツがそんな異常な生物だとはまだ知らない」
「はあ・・・そうなんですか」
手の中の小さな白いリスは、金属製の鳥籠を食い破ったはずの前歯で、シャドンの指を甘噛みしていたが、段々とつねられるような感覚へと変化していった。
足早に閉め切られていた部屋の窓を開け、シャドンはその手を開いた。
「えっと・・・俺の不注意で逃がしてしまったという事で――――」
シャドンがそう言い切るや否や、不思議な模様の白いリスは草むらに飛び込んで姿を消した。
「何で逃がしちゃうんだよ!?」
「あれをこの部屋に放置しておけば、書類が全てダメになると思いまして」
「――――ヒィッ!?」
現実を突きつけられ、ロティスは青ざめた。
「かと言って・・・俺がずっと捕まえていては衰弱死してしまうかもしれません。げっ歯類は意外とストレスに弱いんですよ」
シャドンの究極の選択は、小さな命を“殺すか”“逃がすか”だった。
今の所、小動物を閉じ込めておく手段がなかった。
鳥籠を変形させる能力があるならば、適当な箱に入れても結果は同じ。
誤って希少な生き物を殺してしまうよりは、後々見つかった持ち主に謝罪する時の言い訳は、当然後者である。
数分後、留守にしていたトレフルが鼻歌混じりで執務室に戻り、白いリスの逃走を知ると、哀し気に顔を曇らせ、再び肩を落とした。
どうやら捜索願いが出ている愛玩動物ではなかったので、トレフルは拾得物としてその生き物を所有する権利を得た・・・のだが、あの白いリスは姿を消していた。
ロティスとシャドンは罪悪感に苛まれ、無言で文字が消えた書類を修復する作業に取り掛かった。




