第17話 【雪と妖精と猫の関係性】 その10
「そうか・・・ネレは明日から出勤するのか、それは良かった! 引継ぎついでに、クロエ、すぐにネレの退勤表を作って報告してくれ」
モーヴは大げさに喜ぶふりをした。
「はい」
「ああ・・・・それと、ネレ・・・つい最近、更衣室でメモ紙が落ちていてな、間違えて私が捨ててしまったんだ。何かの材料の一覧のようだったんだが、申し訳ない事をしたかなと思っていてなあ・・・大丈夫か?」
ネレは軽く「あの事か・・・」と気が付き、
「大丈夫ですよ、どうせボクでは再現不可能なんですから、捨てて貰って助かりました」
「・・・・・・助かった?」
その言葉にモーヴは右眼の瞼をひくりと下げた。
「あっ! いえ、ただの落書きです」
ネレは再び一礼して、厨房の方に足を向けて小走りに去って行った。
「言ってない・・・よな? クロエ」
「・・・モーヴ料理長?」
「私は、『ネレが書いたメモ』などと一言も」
「え~と? みんなに訪ねていたメモ書きの事ですよねえ? あの子字が書けたんですね」
「ああ・・・落とし主がネレで、書いたのもネレという事か・・・そうか・・・」
彼は驚きと納得を同時に腹の中にしまいながら、椅子から重い腰を上げた。
厨房を覗くと、大口で勢いよく食事をかきこんでいたナトンとルイードとは対照的に、肩を力なく落としチビチビと丸いパンをちぎって口に運ぶニジェルの姿が見えた。
髪は寝ぐせではねた部分があり、顎髭も濃いままだった。
「お・・・お邪魔します! ネレです! あの、明日からまた――――」
ネレが言い切る前に、足が宙に浮いていた。
「ネ・レっぇ!!!!」
ものすごい勢いでニジェルに両手で持ち上げられていた。
「うわぁっ! びっくりするじゃないですか! いきなり持ち上げないで下さいよ! 舌を咬むかと!?」
「うぉお~っ! ネレ、ネレ、ネレ! 無事か?」
瞬間移動並みのニジェルの素早さに、ナトンとルイードはしばらく放心していた。
三十代後半のニジェルが両目に涙を浮かべている。
「え・・・え~と?」
現状が上手く呑み込めないネレが、皿を持ったまま固まっている二人に視線を向けた。
「まあ・・・その、感動の再会かな?」
ニヤリとルイードが笑う。
「ネレさ~ん!! 無事で何よりです! もう、お見舞いに何か差し入れしようにも意識不明で水も飲めないって聞いててみんな気が気じゃなかったんっスぅ!」
どうやら、しつこいぐらいにニジェルはプラタやルノンにネレの様子を聞き、食べ物を差し入れしようとしたが、全て断られていたらしい。
「おいおい、オッサン! 病み上がりのネレを振り回すな!! 可哀想だろ?」
「すま~んン! ネレがっ! ネレがっ! ついっ・・・」
ニジェルは持ち上げた勢いとは正反対に、壊れ物のようにゆっくりとネレを降ろした。
「ご心配かけてしまって申し訳ありません。もう、大丈夫です」
ぺこりと一礼した。
「ほ・・・細くなってないか? 本当に大丈夫か? ふらついたりしないか?」
「え? そうですか?」
「あのなオッサン、ネレの体型は普通だぞ? 今まで栄養を与えすぎてただけだって」
「・・・・・・え? ボク、今まで、もしかして太ってました!?」
ナトンとルイードが一瞬回答に詰まり、眼を合わせた。
「そんな事はないぞ! ぽっちゃりしてて可愛かったぞ!」
「ぽっちゃり?」
力強くうなずくニジェルと、微妙にゆっくりうなずく二人がいた。
倒れて意識が遠くなる寸前に目の前の銀髪の騎士が言った一言が脳内でリピートしていた。「赤毛のタヌキにそっくりだ」「顎の下がすぐに胸だ」と・・・。
「ボ、ボ、ボ、ボ、ボク! 首あるよね!?」
自分の頭と首を両手でさすりながら、確認する仕草をする。
「当たり前だろう?」
「赤毛のタヌキに似てるって言われたあっ!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・は?』
次の瞬間、厨房内の調理器具が振動するほどの笑い声が響いた。
ルイードは椅子に座ったまま腹を抱え、激しく足踏みをし、ナトンは吹き出しながらテーブルの上に額を付けていた。
ニジェルは鼻と口を両手で押さえながら、足がふらつき真横の壁に頭をぶつけた。
「ええええええええぇっ? なにその反応!?」
翌日、厨房に出勤したネレを最初に捉えたのは料理長のモーヴだった。
「ネレ、このカゴいっぱいに採取の森から食材を採ってきてくれ」
渡されたカゴは軽い素材でできていたが、ネレの頭ほどの大きさだった。
「えっと・・・何を採ってくれば良いですか?」
「賄いに使えるヤツなら何でもいい、そのカゴに満杯に必要だ。みんな結構食べるだろうからな」
「でも・・・下処理を考えると、すぐに食べられる食材は手に入りませんよ?」
「ああん? 別に今日の今日で支度するわけじゃない。経費削減の為だ、お前の賃金分ぐらいは採ってこい」
「このカゴいっぱいですかぁ」
何故かネレは「自分の賃金分」と言われ、納得してしまった。
カゴをぐいぐいと押し付けるモーヴの肩越しに、不安げな視線でこちらを見つめるナトンとルイードがいた。
ニジェルとクロエは遅番の為、まだ出勤していない。
そこを見計らって指示を出しているのだろう。
「ちょ・・・オレも」
そう声を上げたルイードを、モーヴはひと睨みして黙らせた。
「ネレ、早く一人で行ってこい」
「はぁい・・・・・・・」
ネレはカゴの底を見つめながら、そのまま採取の森へと向わなかった。
「あら・・・ネレ、今日から出勤じゃなかった?」
台所で片付けをしていたルノンが、カゴを抱えて戻ってきたネレの姿を見てそう言った。
「おつかいで・・・どうしても採取の森で採れた食材を持って行かなきゃならなくなったんだ」
鍋を磨いていたルノンは、ネレが何を言いたいのか即座に理解した。
手を汲み置きの水ですすぎ、踏み台を高い戸棚の前に置き、てっぺんの棚から大き目の筒状の容器を作業台の上に運んだ。
ネレの持っていたカゴに、白い清潔な布巾を敷き、その容器の中身をカゴのふちいっぱいまで移した。
「はい、どうぞ」
「ごめんね、大事な食糧じゃなかった?」
「いや・・・これだいぶ余ってるし、ほとんどネレと私が採ってきたものだから誰も文句言わないわよ」
ルノンは食材を入れたカゴの中で、布巾をすぼめて軽く結んだ。
「随分と早いな・・・もう怖気づいたか?」
厨房に30分もかからず戻ってきたネレの姿を見て、ため息混じりの呆れたような声をモーヴが出した。
「いえ、ご指定通りの採取の森で採れた食材を持って来ました」
ポン、と、モーヴの腹に乗っかるようにカゴを差し出して見せた。
受け取ったモーヴが直ぐに近くの作業台にカゴを置いて、布巾の結び目をほどき、それを目にした。
「これはっ・・・」
「はい、採取の森でボクが採ったシイタケを干したものです。別に今採ったばかりの食材だとは言われなかったので、間違っていませんよね?」
干しシイタケは軽いがカゴいっぱいとなると、小さなネレが運べるギリギリの重さだった。
「はあ? いつの間にこんな・・・」
「ご指定のものです」
「そんな・・・調理方法は知っているのか?」
「ええ、存じています」
「おまえが?」
「孤児院ではよく調理しますので」
「あ、それ自分がやっときまっス!」
ナトンが自分の顔を指差ししながら、元気よくもう一方の腕を上げた。
ルイードは鍋に向かいながら背中を向けていたが、必死に笑いを堪えていた。
まだまだ続くよ~・・・“転ゼロ”は!
体力がなさ過ぎて、長時間椅子に座ってられません。
たまに、ずっと歩いてる方が楽なんじゃないかと思います。
とりあえず、試験終わったんでポケ~っとしてたんですよ。
起きて会社行って、帰宅時に銭湯行って、夕食食べて家でテレビ見て寝っ転がって家事して・・・ああ、普通だな~と、幸せな時間を過ごしました。
でもまた、来年6月に向かって資格の勉強頑張ります。
半年に一度は休載が長いですが・・・すみませんがそれでも書きます。
ではではお休みなさいませ・・・あ、でも朝通勤で読む人多いんでしたね?
行ってらっしゃ~い!




