第12話 【氷雪に綴る王への手紙】 その8
「さて・・・こちらのお菓子ですが、小さなタルトカップの中にジャムや、キャラメルアーモンドなどを詰めた様々な種類がありますので、お好みの物を召し上がって下さい。ちなみに、沢山作りましたが、なくなり次第終了ですので早い者勝ちです」
そう説明された文官達が足早に席から立ち上がり、デザートのプティフールに群がって行く。
立ったままトレフルの傍にいる黒い手袋をしたコルシックが、干し肉のホットサンドを食んでいた。
その隣で、トレフルが温かいアップルティーを味わっている。
「トレフル・・・」
「なんです?」
「これ・・・予算オーバーじゃないのか?」
「夕食の見積もり依頼をされた覚えはないですけど?」
「おいおい!」
「立ち合いに必要な人件費は請求しませんが、こちらで出した人員分の夕食代ぐらいは当然、請求しますよ」
いつの間にか、二人分のプティフールを皿に山盛りにし、ロティスがしっかり確保していた。
「トレフル様ぁ~、とりあえず全種類二人分を執務室に運んでおきますね!」
「おおっ、気が利くな! よろしく頼む」
トレフルは再びアップルティーで喉を潤す。
「トレフル、あの子供用の白い制服も・・・ネレ専用に作ったのか?」
「ご冗談を・・・察してあげて下さいよ、あの服は誘拐されたセレポレの物ですよ」
「そんな指示をしたのか?」
「勘弁して下さい、私はそこまで歪んだ性格ではないですよ・・・」
「ふん・・・随分と肝の据わった子供だな。其方が傍で飼っているワケだ」
「別に飼っているワケでは・・・」
サンドイッチの横には、口をさっぱりさせる為のチェリートマトと、楊枝に刺さったピクルスが準備されていた。
コルシックはそれと一緒にサンドイッチの追加を取りに行き、ネレに替えのカップと温かい無糖紅茶を頼んだ。
注文されたのは20人前・・・それよりも多めに準備しておいたが、皿の上はきれいさっぱり全てが消えていた。
立食式に並べられたテーブルを片付け始め、ガラスのドリンクサーバーにルイードが常温の麦茶を足し、他の温かい飲み物の準備は会議室専属の女中と交代をした。
そして、デザートのプティフールも品切れとなっていたが、ワゴンの下の段に隠されたもう一種類の菓子を、片付けられた後のテーブルに女中の準備した飲み物と一緒に並べた。
ぎょっとして、貴族文官達はその菓子に注目する。
ニジェルはにこやかに付け加えた。
「こちらのお菓子は一人ひとつでございます。アーモンドの粉末を使ったサックリとした焼き菓子に、プラリネクリームを挟んだ希少なお菓子は・・・ブロンシュ様からの差し入れでございます。『皆さまの仕事の成果にとても期待しています』と、言伝を承っております」
ニジェル、ルイード、ネレが揃って並び、深く頭を垂れた。
「またのご利用をお待ちしております。ありがとうございました・・・それでは失礼いたします」
ゆっくりと頭を上げたニジェルがトレフルと視線を合わせ、不敵な笑みを浮かべた。
静まり返った会議室を後にし、三人は退出して行った。
次第に会議室内は騒めき立っていく――――。
ロティスはさっさとダッコワーズを皿に二枚乗せた。
「トレフル様、二人分執務室に運んでおきますね!」
「ああ、よろしく頼む」
トレフルは捜査係に渡す書類を記録し、思考が停止しているコルシックに、ネレが先日まとめたばかりの分厚いファイルを手渡した。
思わず素直に受け取ったコルシックの両腕が僅かに沈んだ。
「な・・・なんなのだ!」
「仕事です。頑張って下さい。管理業務が滞るので、遅くとも明日の夕方の5時までに返却して下さい」
「ちがう! そうじゃない! 今・・・“ブロンシュ”と!?」
「ああ、“ブロンシュ”が皆様の仕事具合を心配して、差し入れしてくれたようですね」
「先ほど決定した我々の仕事を、何故ブロンシュが知っているのだ!」
「そりゃ・・・噂では“魔女”と言われていますからね、たまたま知っただけでしょう」
「魔女・・・ただの設計技師ではなかったのか?」
「只の可愛い通り名ですよ、今は私専属の技術士ですので・・・」
「年齢は? どのような女性だ? 美人か?」
「おやおや・・・これでも貴族の端くれです。苦労して囲っている技術士を他人に紹介する訳がないでしょう」
「埒が明かん!」
コルシックは分厚いファイルを部下に渡し、右手の黒い手袋を外した。
壁際にあるテーブルの上のダッコワーズを手に取り、ひとかじりした。
「コルシック・・・そんな事で“確認の才”を使うのか・・・」
“確認の才”とは、その道具などに刻まれた過去を読み取る“時の属性”の魔法である。
だが、最近発見されたこの“時の属性”の魔法はトレフルなどが持つ“鑑定の才”では見つかりにくい。
そして、魔力の消費が激しい為、持ち主は大変苦労をする。
「・・・美味いな・・・コレ」
コルシックの手に直に触れた物に、自動的に“確認の才”が発動しないよう、特別製の黒手袋をはめていた。
その手袋を外し、菓子の過去見を始めたコルシックに周囲は動揺していた。
「で? 何か見えました?」
トレフルがあきれ顔で尋ねた。
「なんも分からん!」
ガタンッ――――。
その時、先ほどからもの凄い速さで複写を行っていた若い女性文官が、勢いよく立ち上がった。
「コルシック様っ! さっきからアナタかなり邪魔なんですけどぉ?」
水色のツインテールに、エメラルドグリーンの瞳をした美少女が、豪快にキレた。
「なに!?」
「アナタ監査官長でしょう! 責任者なんだから指示だけ出して、さっさと自分の執務室に戻って自席に山積みの書類を片付けて下さいよ!」
「・・・なに?」
周囲の部下達の乾いた視線がコルシックに刺さった。
「その能力もここで使ってる場合じゃないでしょう! 他にもいっぱい証拠品の確認が残ってるしょーが! 大体アナタが沢山の人間の触れた書類は確認不可能なんだから、それ以外のモノを部下達が手に触れないように証拠品を色々集めてるんですよ? さっさと自分の仕事をしろおぉぉぉっ!!」
「わ、わかった! 後は副監査官に任す! では、失礼!」
烈火のごとく怒り狂うその少女に、即座に負けを認め、コルシックは黒手袋をはめ直し、自分の上着を抱えて会議室を出て行った。
トレフルは腕組みをしながら脱力し、壁にもたれ掛かった。
あの菓子から過去見ができるはずがなかった。
何故ならば・・・ニジェルともう一人の“才”の持ち主が何かを仕掛けたのだから。
「で? 副監査官はどなたかな?」
「ほい、ワシです」
しわの目立つ右手を上げたのは、白髪と長めの白髭が特徴の背の低い老人だった。
「マテオ様・・・あなたまだ現役で働いていたんですか、しかも副監査官のままで、今年でお幾つになりました?」
「確か・・・79歳? だったかの・・・」
「お身体、大丈夫ですか?」
「ほっほっほ、陛下が辞めさせてくれなくてのお」
白髭を撫でながら、ゆっくりとした動作で立ち上がり、捜査係である部下達の顔を一周り見まわし、低く響く声を出した。
「疲れた者はもう帰りなさい、そして明日早く出勤して、まずはこの仕事をきちんと片付けましょうか。もう少し頑張れる者は、あと一刻半ほどワシに力を貸しておくれ・・・先ほどこの現場の指揮権を賜ったので、明日の昼食を注文しておきます。ここで食事を希望する者は、昼食の希望を出すように、セリア、人数の確認をしてくれるかね?」
「はい、マテオ様!」
先ほど、コルシックを怒鳴りつけた水色の髪のセリアが、笑顔で可愛らしく返事をした。
「これぞ・・・“サーバントリーダー”なのではっ!!」
会議室に隣接する、トレフルの執務室でロティスと一緒に壁に付けたコップに耳を付けて、ネレは感動に打ち震えていた。
「え? ナニそれ?」
「あのね、なんというか・・・権力に任せて力ずくで人を従わせるパワーリーダーとは違って、みんなと支え合って協力できて、押し上げてくれる部下を持つ事のできる人を、サーバントリーダーって言うんですよぉ!」
「それって・・・キミもじゃない?」
「・・・え? いや、ボク部下はいませんし」
「あ、しもべ?」
「え? あの・・・どういう意味ですか?」
二人のいる部屋にノックが聞こえた。
「どなたですか?」
ロティスがその音に答えた。
「シャドンです。ネレちゃんを迎えに来ましたぁ」
「あ、しもべ1号!」
「ちがいます!」
こんばんはもりしたです。
台風を言い訳にして、明日・・・いや既に本日。
会社を休みたいのですが、仕事が沢山あるので休めません。
とりあえず、とっても腹の立つ営業のAさんを「ギャフン!」と言わせる準備をします。
そして、悪役に出演させて殺そうと思います。
ふっ・・・どうやら、私の数々の資格と年収と副業で何やってるか知らない・・・よな? たぶん。
覚えてろよ! イジメてやるからな! 妄想で!
ではでは、おやすみなさい。
また・・・来週?




