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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
三章 冒険者編

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黒炎との出会い

 温泉旅館一日目、覗き騒ぎのその夜。


 「第一回、枕投げ大会~!!」

 「たいかい~」


 俺とリンちゃんが枕を高々と掲げて、宣言する。


 「寝ろ」

 「はい……」


 ティルの一言で、あっさりと終了した枕投げ大会。

 皆はおふとんにて、安らかな眠りについた。






 明けて、清々しい翌朝。

 早めに目が覚めたが、既にシオンさんのふとんは畳まれていた。

 いつもの朝稽古にでも出たのだろう。

 俺はというと、ふとんから起き出そうとしても両側から掴まれているので不可能である。

 いや、不可能じゃないんだけど、無理やり起きるのも悪くって。

 まぁ、犯人は最年少と最年長の二人なのだけど。

 一度起きると二度寝というのが難しい体質で、困ったな。

 何か、ふと思ったのだけど、ティルがよく俺にくっついてくるのは俺が半分とはいえエルフだからだろうか?

 エルフの里とやらの外でエルフなんて、ほとんど居ないのだろう。

 でもエルフって、皆の口ぶりからするとハーフエルフは受付けないみたいな雰囲気だけど、ティルからは最初からそんな感じを受けないな。

 ……それとも、俺からエルフほいほいの匂いでも出ているのか?

 なんて、とりとめのない事を考えながら、朝のまどろんだ時間を過ごした。






 朝ごはんを食べた後、午後までは再び自由行動ということにした。

 シオンさんと俺は、おじさんとおばさんと合流してしばらく世間話。

 その後、俺だけ離脱。

 イリアとエクレアは二人でお買いもの。

 あの二人、結構仲が良い?

 黒ずくめとリンちゃんは、温泉街食い倒れツアー。

 ティルは失踪。




 ――そして現在。




 「特に変な動きは無いみたいですね」

 「ん、今のところは」


 俺はというと、エイムと合流してイリアとエクレアを尾行していた。

 ……気のせいか、昨日から犯罪まがいのことばかりしているような。

 うん、気のせいか。


 「ところでエイムは何を食べているの?」

 「お菓子、ここには珍しいお菓子が一杯ある」


 言いつつ手に持ったお菓子を見せてくれる。

 どら……焼き?

 そうか、温泉まんじゅうもそうだけど、ここは和菓子も色々揃っているのか。

 そう云えばシオンさんが刀を使っているのに、和菓子とか、和風の物が無い世界だって思い込んでいたのは大間違いだな。

 俺もミルクにあんぱんくらいは用意した方が良いだろうか?


 「あ」

 「えっ? 何かあった!?」


 エイムが、その全てを見通さんとする目を細めた。


 「あの男、今から浮気する」


 前方で、言われてみれば何処か落ち着かない様子の男が一軒の民家に入って行った所だった。


 「…………千里眼って、便利ですね」

 「違う、ただの勘。でも、良く当たるよ」


 探偵になっても生活出来そうですね、エイム。

 というか、そもそも二人が何処をどう歩いているのかも分からない程離れて尾行している。

 これはまさしく千里眼の賜物で、さすがにあの二人でも気付けまい。

 さすがにここまで周到な尾行なのだから、件の正体不明のエクレアを狙う人物にもこちらは捉えられていないと思う。


 「でも正体不明だから、結局誰が怪しいのかも分からないんだよね……小さいくらいしか特徴が分からないから」


 あの夜のフードを被った相手……

 いや、そもそも単独犯の可能性ばかりじゃない事を考えれば、その思い込みだけでミスリードさせられているけども。


 「あ」

 「…………今度は、修羅場でも発見しましたか?」

 「面白そうだけど、違う。マスターと同じ髪の色だ。珍しい」

 「――――小さい、十歳くらいの女の子?」

 「ん、そう。マスターもこの距離で見えるの?」

 「いえ」


 まさか?

 いや、フードの小柄な影を思い起こせば、それは確かにあり得る話だけど……

 でもおかしい、あの子はイリアが魔力無しと断定していた。

 そしてあの夜会った小柄な影は、凄い魔力だったとエクレアも証言している。

 辻褄が合わないが――無関係とも思えない。


 「エイム」

 「らじゃ。あれは、匂うね」


 なるほど。

 エイムの勘は本人曰く、良く当たるからな。


 「――訂正。マスター」

 「え?」

 「あれは、やばい……見つかった」


 あまり表情を変える事のないエイムの頬を、汗が伝った。


 「この距離で!?」

 「昔の仕事柄、やばい相手に手を出す時は胸がドキドキした。ちょうど、マスターを狙った時に似てる」

 「私……?」


 いや、初めて俺を狙った時ということは……ティルか!


 「そんなはず……」


 そんなにぽんぽんと、ティルと同レベルの相手が居てたまるか。

 どうする、一旦隠れる?


 「!? マスター! 来る!」


 やる気満々ですか!


 「街中は拙い! エイム、跳びますよ!」

 「らじゃっ」


 エイムを抱えて、思いっきりジャンプする。

 建物の屋根から屋根を足場に、急いで街の外に移動。

 ちらりと後ろを確認すると――確かに、銀の髪の少女が後ろを追って来ていた。


 「と、飛んでるし……」


 ティルの様に足場を作って爆ぜているのでもない。

 あれは……火魔法か?

 自分を囲むように球状の……黒い炎の膜。

 つまり、気球の要領か?

 球の中を温めて膨張させた空気を逃がして、その分空気を軽くしてるのか?


 「確かにとんでも無い相手みたいです……黒い炎に、覚えはありますかエイム?」

 「……魔炎。おとぎ話だと思ってたけど」

 「最強の一角……エクレアの師匠?」


 そんな訳ないか。

 エクレアの師匠がエクレアを狙うとかどんな事態だ。

 段々訳が分からなくなってきた。

 街の外の草原に降りて、振り返る。


 「先制出来るよ、マスター」


 エイムが弓を構えるが……


 「待ってください。敵対すると決まった訳ではありません。こちらから喧嘩を売るのは止めましょう」


 エイムが頷いて弓を下ろす。

 待たされることも無く、すぐに相手が俺たちの目の前に降りた。

 銀の髪を肩口で揃えた小柄な少女。

 赤い目……じゃない!

 銀の瞳!?

 人違い?


 「こんにちは」


 少女が、場違いともいえる挨拶を何でもない様に自然にしてくる。


 「それで、此方はどうして追いかけられていたの?」


 エイムの千里眼を使った尾行が気づかれていた時点で、相当な相手だ。

 出来れば下手に事を荒立てたくない。


 「すみません、あなたを追いかけていた訳でもないんです。少し事情があって、目ぼしい人をチェックしていました」

 「そう。敵対するつもりがないなら、大人しくしていてね――銀の雷精」

 「!?」


 この子、何なの……?


 「……敵対するかどうかは、あなたの事情によります。私は友達を狙う輩に、気を配っている所ですから」

 「――友達」

 

 少女は目を閉じて、小さくその言葉を繰り返しているようだった。

 それから、そう、と納得したように一人頷いた。


 「此方はレイミア」


 レイミア。

 それが、魔炎の名前?


 「私はアリス」

 「知っている、有名人」


 いつの間にかね……


 「あの魔族は、貴方の友達?」

 「そうです。とても大切な、友人です」


 小柄な銀の少女がもう一度だけ、目を閉じる。

 そして――


 「――なら、ここから先、此方と貴方達は敵」


 ……そう、なるのか。

 いつも戦いって……エイムと戦った時も、虚しさしかなかった。


 「――大丈夫。制圧するだけで良い。もう、殺し屋じゃない。そうでしょ? マスター」

 「……その通りですね、エイム! 目標を制圧します!」

 「らじゃ」


 返事と共に放ったエイムの一射が、戦闘開始の合図となった。

 その矢を、少女――レイミアは火魔法を展開して……上に逸らした!

 そうか、熱気流で!

 でもこの一瞬で?

 一体どんな熱量なんだ!?


 「……重い、厄介なスナイパー」


 レイミアがエイムの事を、目を細めて見据える。

 悪いけど、こっちも!


 「ライトニング!」


 しかし俺の魔法も、火の壁で防ぎながら受け切らずに逸らされた。

 戦い方が上手い!

 真正面から受け止めたり、避けるだけが戦いじゃないってことか。


 「銀の雷精。貴方は幸せな人。でも、そうじゃない人も一杯いる。貴方の魔法は――――ぬるい」


 レイミアが手を掲げる。


 「――マルチキャスト、ファイア、セット」


 瞬間、十数個の黒い火球が産みだされた!

 マルチ!?


 「もしかしたら、貴方は避けきれるかもしれないね。でも――」


 黒炎を漂わせながら、こちらに忠告してくる。

 言わんとする事は分かってる……


 「マスター、気にしないで。足を引っ張るつもりはない」

 「もちろん、信じてます」


 でも、俺の力は自分を守る事しか出来ない。

 ティルみたいに、氷魔法を選んでいれば良かったのか?


 ――いや、魔力だけは、誰にも負けていないんだ。


 ならば一つ一つの攻撃は受けられなくても、相手と同じように逸らすことは出来る。

 全ての攻撃を捌き切るのに、後は反射と予測の問題。


 「――数多の雷糸を司り、我ここに天の慧眼を顕現す! ライトニング・フィールド!」


 戦闘領域一体に、雷のフィールドを形成する。

 銀の雷糸を纏った空間が球状に展開された。

 攻撃の類の魔法ではない。

 結界を展開している間はこちらの魔力がどんどん消費され続けていく。

 ティルのアイシクル・ガーデンに似た系統の魔法。


 「ライト・エンチャント」


 両手に雷を纏わせる。

 準備完了。


 ――完了するまで、レイミアはずっと待っていた。


 でも、そんな相手の事情は置いておく。

 こっちは全力で行くだけだ。


 「……驚いた。訂正する、これだけの規模の魔法発動、その維持。噂に違わないね」

 「私たちは、やっぱり敵ですか?」

 「うん、そこは変わらない。死んだらそれまで――ファイア、ショット!」


 前方からだけでなく、浮遊している火球が立体的に襲い掛かる。

 正面から堂々と、死角から隙を突くように、あらゆる角度、あらゆる速度で生き物のように襲い来る。


 ――されど、この結界内で俺に死角は無い。


 全ての攻撃の軌道、映像が予知の様に頭に再生される。

 雷の力で敏捷を強化して、反射で身体を動かす。

 正面から突っ込んで来る火球を、雷のパンチで弾き飛ばし。

 流れる様に後ろに回って、もう一つ。

 更に時間差でその後ろに隠れていたもう一撃を慌てずに弾く。

 三方から同時に迫る火球に、時間よ止まれとばかりに魔力を身体に流してブーストをかける。

 己を叱咤して、疾走する。


 「あああぁあっ!!」


 合間にレイミアが追撃の魔法を唱えかけたのを感じ、ライトニングで足止めする。

 続けて、残りの火球を全て防ぎ――


 「エイム、肩!」

 「らじゃ、逸らさせない」


 俺が守りながら、強弓を引き絞っていたエイムが、ここぞとばかりに一射を放つ。


 「――つ、ぅ!」


 熱気流で逸らし切れなかった矢が、レイミアの肩口に刺さった。


 「痛い……雷精? そんな生易しいものじゃない。雷神でしょ」


 レイミアが呟いて、ふわりと追ってきた時の様に空に身体を浮かべる。


 「レイミア!」

 「あの魔族は、そのうち貴方と敵対する。そうなってからの方が、簡単ね」

 「待って! どうしても? また、戦うの?」

 「……それが、此方と貴方の出会いだから」


 何処となく悲しそうに呟いて、レイミアが身を翻す。

 ――そうしようとして、俺の伸ばした左手を注視して、目を見開いた。


 「――え? 何これ……どうして、涙が出るの?」


 レイミアは意味が分からない、という顔をして自分の目から流れた涙を掬い取る。


 「……不思議、またね。銀の雷精」

 「レイミア……」


 今度こそ、そのままレイミアは飛んで去って行く。

 それを確認して、結界を解く。

 ごっそりと魔力を持って行かれて、立眩みがする。

 何とか踏みとどまったが。


 「……マスター、撃ち落とす?」

 「いえ……止めましょう」

 「ん、そう言うと思った」


 エイムは分かっていたとばかりに、弓を下ろした。


 「ごめんね、甘いマスターで」


 苦笑して応えると、エイムがふるふると首を振った。


 「ん、構わない。それがマスター。とても良いと思う。それに……」


 何となくエイムの無表情な顔に、朱が入ったようにも見える。

 そんな表情を浮かべて。


 「マスター、強すぎ……惚れるかも」

 「……え?」


 エイムが熱っぽい視線を向けてくる。

 え、エイムさんは、強い人が好みですか!?

 そんな、私何てまだまだで!

 などと馬鹿な事を考えていると、イリアとエクレアが駆けつけてきた。


 「やっぱり、あんた達だったんだ! 大丈夫なの!?」

 「遅すぎ、むしろマスターの邪魔をしに来なくて正解」

 「な、なんですってえええ!?」

 「事実」


 何故、こうなるのだろう……


 「お嬢様、ご無事で何よりです」

 「うん、何ていうか……やっぱり、狙われてるんですね」


 揃ったことで姦しくなった二人を見ながら、イリアにそう零す。


 「エルフと魔族。お嬢様とエクレア様は、とても不思議な縁でございますね」

 「そうなのかな……」


 まぁ、俺はハーフだけど。


 「私とエクレアって……敵対するの?」

 「え?」


 イリアが不思議そうな顔をする。

 そうだよね……

 唯の、捨て台詞みたいなものだよね……?


 「アリス! あんたはどうなのよ! エクレアが来てあげた方が、良かったわよね!?」

 「いえ、別に?」


 じわっと、エクレアの目じりに涙が浮かぶ。


 「ふふ、ごめんなさい、冗談ですよエクレア。あなたが傍に居ると、私は嬉しいし、心強いです」

 「アリス……」


 少し大袈裟かと思ったけど、エクレアを抱きしめた。

 そうだ。

 どう考えたって、この子と敵対する筈がないよ。


 「ま、また……そうやってスキンシップで、誤魔化そうとするんだからぁ」


 なんて言ってくるエクレアの鼻にかかった高い声は、それでも満更でも無さそうだった。


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