1. 母子家庭で育った俺
「清太。お母さん離婚するわ。」
また小学校に入った俺でも、やっぱりな、と感じた。母さんにとって、父さんとの婚姻関係を続ける理由なんて、これっぽっちもないからだ。
「ごめんなさいね。」
母さんは俺に謝った。俺はそのときなんて答えただろう。
ーーー
今は高校1年目、はじめての昼ご飯だ。クラスの皆はまだよそよそしくて、大体は同じ中学の仲間同士でつるんでいる。
「よぉ、清太。高校でもアレ、もってきてるのか?」
悪友の理央が俺の首に腕をかけて、声をかけてくる。こいつとは小中高と同じ学校で、気のおけない仲だ。
「ああ、もちろんだ。母さんに負担はかけられないからな。」
俺は鞄から弁当を取り出して、机の上で開けた。
「マジでうまそっ!おまえ、本当に料理うまいよな!」
そう言いながら理央が弁当のおかずを取ろうとするので、その手をバシッとはたき落とす。
「ふっふっふっ。そうだろう、そうだろう!」
俺は弁当の中身を見てほくそ笑む。大好きなだし巻き卵に、梅干しごはん、作り置きしていた唐揚げに、昨日の晩の残りのきんぴらごぼう。
「自分で作ると好きなものばっか詰められるからいいぞ!おまえもやってみろ。」
「むりむりむり!みんながお前みたいにできると思うなよっ。」
俺たちは、わははと笑い合いながら昼メシを食べる。
「そういえば知ってるか?学校の近くにめちゃくちゃ上手いラーメン屋があるんだってよ。兄ちゃんが言ってたんだ。放課後行かねぇ?」
理央は兄貴がいて、その兄貴も同じ高校に通っていたらしい。既に卒業はしているが、こういう情報を提供してくれるのは嬉しい。
「今日は母さんも遅いって言っていたし、行ってみるか。」
午後の授業中は、ラーメンを麺大盛りにするか、チャーシュー大盛にするかで悩んでいて、ろくに授業が聞けなかった。午後は1限しかなくて良かったな。
「きたぞ、きたぞ!放課後ラーメン!」
理央が店の前で両手を上げて叫んでいる。恥ずかしいからやめてほしい。
ラーメン屋には2人とも私服に着替えてから来た。高校入学早々、立ち寄りで教師に怒られたくないからな。
「先に入るぞー。」
理央を無視して俺は店内に入った。店員さんから『好きな席にどうぞ!』と言われた俺は、比較的空いている手前のカウンターに座ることにした。
「兄弟で来てくれたのか?注文は何にする?」
店員さんがお冷やを出しながら聞いてきた。
「あはは、そう見えます?あ、俺は塩ラーメン、麺は普通で。」
「俺は豚骨ラーメン、麺は硬めで。おっちゃん、俺は弟じゃないです。こいつと同級生です。」
実は俺は身長が低めで、理央は高めだ。だから、2人で私服でいると、兄弟に間違えられることがよくある。
「それはすまなかったな!」
店員さんは手のひらを立てて、ごめんのジェスチャーをしている。
俺は、はぁっ、とため息をついた。
「昔は同じぐらいだったのに、なんでお前だけ伸びてんだよ。」
「わからーんっ。」
兄弟に間違われること自体は構わない。だが俺が弟だと思われるのは腹が立つ。生活力は俺の方が上だ。兄貴はむしろ俺の方だろう!
俺はジロリと理央を睨む。理央は注文した後にも関わらず、メニュー表を楽しそうにみている。きっと次回来店時に何を注文するか、今から考えているに違いない。
俺はお冷やを手に取りゴクリと1口飲んだ。
「あいよ。こっちが塩ラーメン、こっちが豚骨ラーメンね。で、これがお詫びの煮卵。」
「やった!おっちゃん、気が利くね。ありがとう!」
俺は嬉しくて椅子を後ろに下げ、勢いよく立ち上がった。
「きゃあっ!」
やばっ。誰かにぶつかった気がする。
振り返るとツインテールの女の子がいた。俺より身長が低いから中学生かな?
「美結、だいじょうぶ?」
今度はポニーテールの女の子が来た。俺は見上げるように彼女をみる。
「すみません、俺が急に立ったせいで。」
俺は2人に謝った。それを聞いて、美結と呼ばれた女の子もあわてて謝った。
「あ、すみません。あたしがちゃんと前を見ていなかっただけなので。」
ポニーテールの女の子が慌ててこちらに来た。
「すみませんでした。お怪我はないですか?」
彼女は俺をみて、心配そうにしてくれる。
「特に何もないです。お気遣いなく。」
「ありがとうございます。」
俺が言うと、彼女はフワッと笑った。すると、美結という子の頭に手を伸ばし、幾度か撫でた。
「美結、謝れてえらいね。」
「うん、もちろんだよ。」
褒められた方はニパッと笑ってうれしそうだ。
彼女はくるりと回って店員さんに向かって言った。
「お騒がせしました。ごちそうさまでした。」
女の子たちはペコリとお辞儀をして店を出ていった。周りの客は何があったのかとこちらを見ていたらしく、一瞬静かになった。
そこに理央が大きな声を出した。
「清太!今の姉の方?めっちゃ美人じゃねぇ?」
「…姉妹って決めつけは良くない。」
彼女の容姿については触れずに、俺は理央を嗜める。
「ラーメン、のびるぞ。」
俺はチラッと店の入り口を見た。
女子といえば大抵、俺より身長の高い理央の方と親しげにする。状況が状況とはいえ、理央を置いて俺だけと会話する女子は珍しい。
また会えるといいな。




