表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/3

2. 母さんの再婚報告

高校に入学してしばらく経ち、俺は無事に理央以外にも友達ができた。その1人が拓斗だ。


「せーいた!今日の放課後、カラオケ行こうぜ。」


拓斗が誘ってきた。


「今日はむり。早く帰って来てって母さんが。」


最近、母さんは休日に出掛けることが増えた。俺も友達と出てることが多いから、休日はお互い自由に過ごしている感じだ。


理央が言う。


「清太の母さんって、夜遅くまで仕事しているって言ってなかったか?」


「昔はね。最近は、リモートで好きなタイミングで仕事ができるから、そんなに遅くない日もあるんだ。」


母さんは、俺との時間を作るために残業をしない日を作ってくれている。うれしいが、残業をしない分は夜中に仕事をしているようで、余計な負担をかけてないか心配だ。


「ええと、場所は…。」


昼に、母さんからレストランに来るようにと連絡が来ていた。行ったことの無いレストランだ。俺はスマホで地図を見ながら道を歩いて向かった。


…高級そうなレストランだ。


今日は特別な日だっただろうか。思い当たるものも無くて、心臓が嫌な音を立てている。


「すみません、連れが中にいるのですが。紺色の服を着た女性なのですが。」


お店に着くと、店員さんに声をかけた。紺色の服を来ていくと言っていたので、その通りに伝えた。


「ああ、さきほどの。ご案内しますね。」


コツ、コツ、コツ…


「せ、清太!」


お母さんが慌てたように椅子を立って俺を呼んだ。どうしたんだ。


テーブルに近づくと、母さんの前にスーツの男性が座っている。


「え?」


俺は驚きのあまり、その人を凝視してしまった。


「座ってくれる?清太。」


母さんが、俺の視線を遮るように席を立ち、声をかけてきた。俺は状況が分からず言われるままに座る。なにが、なにが起ころうとしているんだ。


「もうひとり来るから、もう少し待ってね。」


もうひとり?知らない男がふたりに増えるってことか!?


俺は頭を抱えて唸りたい気持ちをぐっと抑え込んだ。


他のテーブルからは楽しそうな声が聞こえるのに、俺のテーブルは誰も何も言わない。ただ、隣に座る母さんからはソワソワしたような雰囲気を感じる。


「梨花さん、清太くん。うちの凪紗(なぎさ)が遅くて申し訳ない。」


男性は腕時計で時間を確認すると、なぜか謝ってきた。


凪紗(なぎさ)はまだ来ていないが、話を始めようか。」


男性が居ずまいを正した。


「こんにちは、清太くん。私はー。」


「遅くなりました!」


被さるように、他の女性の声がした。俺は声の主を見ようと振り返った。


はぁ、はぁ…。


少し息を乱しながら、乱れる長い髪を耳にかける女性がいた。外はそれほど暑くはないけれど、走ってきたのか頬がほんのり赤くなっている。


凪紗(なぎさ)はここに座ってくれるか。」


「はい。」


凪紗(なぎさ)と呼ばれた女性は、スカートの下に手を入れ、シワがつかないよう椅子に座った。上品そうな女性だ。


「揃ったから、もう一度、始めたいと思う。」


男性が固い表情で話し始めた。俺はゴクリと唾を飲み込む。


「わたし、飯野忠司は、髙城梨花さんと交際させていただいている。」


…え、ええ!?


髙城梨花は母さんの名前だ。つまり母さんがこの人と付き合っているということになる。


俺は思わず母さんを見た。母さんは真剣な表情で肯定するように頷く。


「そして。」


な、なんだ?まだあるのかよ。俺は身構えた。


「ふたりとも、ひとり親家庭という状況ではあるが。…結婚を、させていただきたいと考えている。」


男性は、俺と凪紗(なぎさ)と呼ばれた女性と、ゆっくり見て、それぞれと目を合わせた。


「…うん。なんとなくね、わかってたの。」


凪紗(なぎさ)さんは悲しそうな顔をしながらも納得した表情をしている。


はい!?ちょっと待て。これって、もしかして修羅場というやつか?


「貴方はそれでいいんですか!」


凪紗(なぎさ)さんは不倫されて捨てられそうになっているんじゃないか?


あまりにも物わかりの良い態度でいる凪紗(なぎさ)さんが心配で、俺は声を上げた。


「え?…あ、はい。」


凪紗(なぎさ)さんは寂しそうにそっと目を伏せた。


このきれいな女性を捨てて母さんと結婚したいだと?


俺は母さんを見る。不安そうな顔の母さんと目があった。


母さんは少し抜けたところがある。けれど、付き合っている男性が既に結婚しているなら諦めるはずだ。


もしかして、母さんはこいつに騙されていた!?


「母さん!不倫する男と再婚なんて絶対にダメだ!」


母さん、大丈夫。俺が止めてやる。


俺が力を込めて反論すると、皆は鳩が豆鉄砲を食らったように驚いている。


なんでそんな反応なんだよ、俺の言っていることは普通だろ!?


真剣な顔をする俺とは対照的に、母さんはワナワナと震えている。


「バカ清太!なにを勘違いしてるの。誰も不倫なんかしていないから。」


母さんが顔を赤くして俺の言葉を否定する。


え?


「もう本当に…。忠司さん、ごめんなさい。」


母さんは顔を覆って謝った。凪紗(なぎさ)は俺と母さんをみてクスクスと笑っている。


「すまない。きちんと紹介できていなかったな。わたしの隣のこの子は娘の凪紗(なぎさ)と言う。妻は凪紗(なぎさ)を産むと同時に亡くなってね。いまは君たち同様、ひとり親家庭として暮らしているんだ。」


む、むすめさん…?


俺は思わず凪紗(なぎさ)さんをみた。


「私、年上に見られることは多いけれど、父さんの妻に見られたのは初めてかも。」


凪紗(なぎさ)さんは尚もクスクスと笑っている。


俺はかあっと顔が熱くなる。


「す、すみません。俺、失礼なことを言いました。」


「本当よ、もう。」


お母さんは顔を覆い隠すことを止めて、恥ずかしそうに俺を見ている。俺は母さんに念のために尋ねる。


「じゃあ、不倫じゃなくて普通に再婚するだけってこと?」


「そうよ。」


お母さんが頷く。


そっか。なら俺の答えは迷うこともない。


「母さんの好きにしたらいいよ。母さんの人生は母さんのものだ。」


母さんがほっとしたように肩の力を抜いて、椅子の背もたれに身体を預けた。


「よかった。…ありがとう、清太。」


そうして母さんは再婚することとなり、俺には新しい父さんと姉さんができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ