4.今は何物でもないです
一度会った人との再会は、案外すぐに訪れるものだ。それほど会いたいと願う相手には、無意識のうちに注意深くなるからだろうか。
優にとっても、彼女との再会は必然の出会いだった。
あの奇妙な出会いから、一月が経とうとしていた頃。大学での講義を終えた優は、帰宅しようと教室で荷物をまとめていた。
「優くん、今帰り?」
声をかけられ振り返ると、そこには一つ上の先輩、遠野律がいた。
「そうです。律さんも帰りですか?」
「そうなの。よかったら駅まで一緒に帰らない?」
思いがけない誘いに、優は少し浮き足立った。実は、密かな憧れを律に抱いていたのだ。だが、変に期待してはだめだと、すぐに自分を戒める。
「いいですよ。ご一緒させてください」
そうして二人は大学を出て、駅まで歩き出した。時間にして十五分ほどの短い道のりだが、優は内心ひどく嬉しかった。これまで何人かのグループで歩くことはあっても、二人きりで帰るのは初めてだったからだ。
「最近どうですか?」なんともありきたりな話題だろう。優は沈黙を作らないように、ただ緊張を悟られないようにと言葉を絞り出した。
「んー。就職活動も動き出してるし、人生について色々考えてるかな」
そう言いながら、律は大人びた笑みを浮かべる。ぎこちなさを感じつつも、彼女が確実に『人生の岐路』に立っていることに、優は自分が社会人になっていくことの重い現実を突きつけられたような気がした。
「優くんと話したかったのも、聞いてみたかったんだ。将来、どうなりたいのかなって」
正直、優はまだ何も考えていなかった。どうなりたいか。何がしたいか。今は大学で心理理学を学んではいるが、それを活かした明確なビジョンがあるわけでもない。勉強とバイトの往復で、ただ本能のまま、モラトリアムを漂っているだけだった。
「まだ……何も決まっていないですね。人生ってほんとわからなくて、今は何者でもないです」
ついさっきまで浮かれていたのが馬鹿みたいに、ちっぽけな自分を突きつけられる。
「すみません、何も参考にならない話で」
自虐的に優は笑った。
「そんなことないよ。私も去年はそんな感じだったし。今が楽しければいいじゃんっていつも思ってた」
自分で空気を悪くしてしまったと思ったのか、律は「ごめんね」と優しくフォローを入れた。
「いえ、大事な話だと思うし、考えるきっかけをもらえました。ありがとうございます」
十五分なんて、本当にあっという間だった。いつのまにか駅前まで歩いてきていた。
「じゃあまたね、優くん。今日はありがとう。お疲れ様」
律は笑顔で手を振り、駅舎の中へ消えていった。彼女の背中を見送り、優は近くにある本屋へと向かうことにした。
自分の将来。なんとなくでしか考えていなかったが、真剣に向き合わなきゃなと思ったのだ。
そう思ったその時、不意に見覚えのある雰囲気を纏った女性が、優の目の前を通り過ぎていった。
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