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『負けたくないのに、抱かれるたび好きになる』 獅堂零一 × 藤咲優牙 #3

##3


****


夜。


「優牙」


零一に名前を呼ばれた瞬間、背筋が熱くなった。

それがまず腹立たしい。


名前を呼ばれただけで反応するなんて、負けたみたいだ。


「……何だよ」

「顔、赤い」


「赤くねぇ」

「嘘」


零一が笑う。

いつもの余裕のある笑い方。


学年一位の顔。

何でも先に読んで、こっちが噛みつくのを楽しんでいる顔。


優牙はその胸倉を掴んだ。


「今日は俺が勝つ」


「何に?」

「全部だよ」


零一の目が、楽しそうに細くなる。


「いいな。そういう優牙、好き」

「勝負前に口説くな」


「事実だから」

「うるせぇ」


そのまま引き寄せられて、キスされた。


深い。

最初から逃がす気のないキス。


「んっ……♡」


唇を離した瞬間、零一が低く笑った。


「今の、先に声出したの優牙」


「ノーカンだろ!」

「何で」


「不意打ちは反則」

「優牙に反則って言われるの、悪くない」


「腹立つ……♡」


言い返そうとしたのに、またキスで塞がれる。

零一は本当にずるい。


喧嘩で勝てないなら、キスで黙らせればいいと思っている。

しかも、それが効くのが一番腹立たしい。


****


ベッドへ押し倒されても、優牙は睨むのをやめなかった。


「上から見下ろすな」


「じゃあ優牙が上になる?」

「なる」


「できるなら」


その一言で、火がついた。


「言ったな」


優牙は零一の肩を押し返し、体勢を入れ替えようとする。

けれど、腰を掴まれた。


強い。

逃げられない。


「っ……おい♡」


「惜しい」

「何が惜しいだ!」


「今、ちょっと勝てそうだった」

「煽んな!」


零一の手が、優牙の腰を撫でる。

その触れ方が、悔しいくらい慣れている。


どこに触れれば優牙が黙るか。

どこを辿れば強がりが崩れるか。


全部、知っている手だった。


「っ♡ そこ、触んな……♡」

「弱いから?」


「違ぇ♡」

「違うなら平気だろ」


「平気じゃ、な……っ♡」


奥を深く突かれて、声が跳ねた。


「あっ♡」


零一が笑う。


「また声出た」

「っ、今のは……♡」


「何?」

「お前が悪い♡」


「じゃあ俺の勝ち?」

「違う!」


優牙は零一の肩へ爪を立てた。


負けたくない。

絶対に負けたくない。


なのに身体だけが、零一の触れ方を覚えている。

腹立たしいくらい、素直に反応してしまう。


****


「優牙」


零一の声が耳元に落ちる。


「俺を見ろ」


「命令すんな……♡」

「勝負中だろ」


「見るのと勝負、関係ねぇだろ♡」

「ある」


零一が、優牙の顎を持ち上げる。


視線が絡む。

逃げられない。


「優牙が目ぇ逸らしたら、俺の勝ち」


「は……っ、そんなルール、聞いてねぇ♡」

「今決めた」


「勝手に決めんな!」


言い返した瞬間、深く突き上げられる。


「ぁっ♡♡」


視界が揺れる。

それでも、優牙は歯を食いしばって零一を見る。


逸らしたら負けだ。

ここで目を伏せたら、全部負けた気がする。


「……いい顔」


零一の声が掠れた。

その余裕のなさに、優牙の胸が跳ねる。


「お前もな……♡」

「何が」


「余裕ぶってるけど、顔、崩れてんぞ♡」


零一が一瞬だけ黙った。


勝った。

そう思ったのに。


零一はすぐ、悔しそうに笑った。


「やっぱ優牙、反則」

「それ、俺の台詞……っ♡」


「優牙相手だと、勝ってるのか負けてるのか分かんなくなる」


その言葉が、胸に刺さった。

言い返そうとしたのに、奥を擦られて声が崩れる。


「ぁ♡♡ っ、ばか……♡」

「でも、悪くない」


「何が……♡」

「優牙に負けるの」


また深く突き上げられる。


「あっ♡♡」

「ただし、隣は譲らない」


その声が、どうしようもなく熱かった。


****


優牙は零一の腕にしがみついた。


悔しい。

本当に悔しい。


自分から勝負を仕掛けたはずなのに、いつの間にか全部零一のペースだ。

でも、零一の呼吸も乱れている。


額に汗が滲んでいる。

余裕ぶった顔の奥で、確かに自分に揺さぶられている。


それだけが救いだった。


「零一……♡」

「ん?」


「俺にばっか、勝った顔すんな……♡」

「じゃあ優牙も勝てばいい」


「勝つ……っ♡」

「どうやって?」


零一が挑発する。

優牙は、震える手で零一の頬を掴んだ。


そして、自分からキスした。


「っ……」


零一が息を呑む。

珍しく、動きが止まった。


優牙は唇を離し、荒い息のまま笑った。


「今の、俺の勝ち」


零一は黙っていた。

それから、ひどく嬉しそうに笑った。


「……今のは負けた」

「よし」


「でも、取り返す」

「は、ちょっと待……っ♡」


待たれなかった。

腰を抱え込まれ、さらに深く突き上げられる。


「ぁっ♡♡♡」


「優牙」

「っ、なに……♡」


「勝った顔、可愛かった」

「可愛いって言うな♡」


「じゃあ、腹立つくらい好きだった」


そっちの方が、ずっと駄目だった。

胸が熱くなって、身体の奥まで甘く痺れる。


「っ♡ 言い方、ずる……♡」


「優牙には勝ちたいから」

「だからって、そういう……っ♡」


「全部本音」


またキス。


深い。

息が奪われる。


「んっ♡♡」


勝ちたい。

負けたくない。


でも、こんなふうに本気で向かってこられると、嬉しくてたまらない。


零一が自分相手にだけ余裕を崩す。

自分にだけ、勝ちたい顔をする。


それが、悔しいくらい幸せだった。


****


「優牙」

「っ、はいとか言わねぇからな……♡」


「言わなくていい」


零一の手が、優牙の指を絡め取る。

恋人繋ぎ。


逃げられない形。


「離すなよ」

「命令するなって……♡」


「頼んでる」

「頼み方が偉そうなんだよ♡」


それでも、優牙は握り返した。

零一の目が揺れる。


ほんの一瞬。

その一瞬だけで、優牙は胸がいっぱいになる。


「……零一」

「何」


「お前、俺が握り返すとすぐそういう顔するよな」

「どういう顔?」


「負けたみたいな顔」


零一は少し黙った。

それから、低く笑う。


「してるかもな」


「認めんのかよ」

「優牙に握り返されたら、勝てない」


その言葉と同時に、また奥を突かれた。


「あっ♡♡」


「でも、勝てなくていいとは思ってない」

「どっちだよ……♡」


「優牙には負けてもいい。でも、優牙を誰かに譲る勝負だけは絶対しない」


その声が、胸の奥へ落ちた。

独占欲。


真っ直ぐで、熱くて、逃げ場のない独占欲。

優牙は視線を逸らせなかった。


「……譲られる気、ねぇよ♡」

「うん」


「俺の隣、お前以外が来たら蹴る」


零一が笑った。


「それは見たい」

「笑うな……っ♡」


「嬉しい」

「すぐ嬉しがんな♡」


「優牙が俺の隣を選んだ」


零一の声が低くなる。


「それだけで、嬉しい」


その瞬間、優牙の中で何かが崩れた。


****


深く。

何度も。


零一の熱が、逃げ場のない場所まで届く。


「ぁっ♡♡ そこ、やば……♡」

「ここ?」


「っ♡ 聞くな……♡」


「優牙が声出すから」

「お前が、そういう……っ♡」


また突き上げられる。


「あぁっ♡♡」


身体が跳ねる。

零一の手がすぐ背中を支える。


落とさない。

逃がさない。


でも、壊さない。


「優牙」

「っ、なに……♡」


「目、逸らすな」

「むり……♡」


「逸らしたら俺の勝ち」

「ほんと、性格悪……っ♡」


「優牙相手だから」


それなら仕方ない、なんて思いそうになってしまうのが悔しい。

優牙は必死に零一を見た。


目が合う。

零一の余裕がない。


自分と同じくらい、熱に飲まれている。


「……零一」

「ん」


「俺も、お前に勝ちたい……♡」

「うん」


「でも」


声が震える。


「お前じゃないと、勝負にならねぇ……♡」


零一の目が大きく揺れた。


「優牙」


「お前以外に勝っても、つまんねぇ……♡」


言った瞬間、零一の腕が強くなる。


「それ、俺の勝ちにしていい?」

「すんな……♡」


「無理」

「っ♡」


「今のは、俺が欲しかった言葉だ」


胸が熱くなる。

言わせたくせに。


欲しかったなんて言うな。

そんな顔をするな。


「……じゃあ」


優牙は、息を乱しながら言った。


「今のは引き分け」


零一が笑った。


「いいな」

「だろ……♡」


「じゃあ、このあと決着つけるか」

「っ、まだやる気かよ……♡」


「当然」


「負けねぇ……っ♡」

「俺も」


零一が、優牙の額へ自分の額を押し付ける。


「一生やるだろ、俺たち」


その言葉で、優牙の奥が甘く震えた。


****


「ぁっ♡♡ 零一、もう……♡」

「うん」


「やば、ほんと……♡」

「限界?」


「ちが……っ♡」

「嘘」


「うるせぇ♡」


そう言いながら、優牙の指は零一の手を握り返している。


離せない。

悔しい。

悔しいのに、離したくない。


「優牙」

「っ、何……♡」


「好きだ」


一番深いところを突かれる。


「あっ♡♡♡」

「好きだ、優牙」


また。


「ぁっ♡♡」

「俺の隣、譲るな」


その言葉で、優牙の身体が大きく震えた。


「譲るかよ……っ♡」

「うん」


「俺だって、お前の隣……誰にも、渡さねぇ……♡」


零一の目が熱くなる。


「なら、俺たちの勝ちだな」


「勝ち負け、そこで使うな……♡」

「いいだろ」


「……まあ」


優牙は、息を乱しながら笑った。


「それなら、悪くねぇ……♡」


次の瞬間、零一が深く突き上げた。


「あぁっ♡♡♡!」


熱が弾ける。

視界が白く滲む。


優牙は零一の腕にしがみついたまま、完全に力を抜いた。


負けた。

そう思った。


でも、零一の顔も崩れていた。

余裕なんてどこにもない。


優牙を抱き締める腕が震えている。

だから、これは負けじゃない。


たぶん、引き分けだ。

かなり悔しい引き分け。


でも、悪くない。


****


しばらくして。

優牙は、零一の胸に額を押し付けていた。


息がまだ少し乱れている。

零一の手が、優牙の髪を撫でる。


「優牙」

「何だよ……」


「俺の勝ち?」

「は?」


優牙は顔を上げて睨んだ。


「どこがだよ」


「先に崩れたの、優牙」

「お前も崩れてただろ」


「俺は耐えた」

「嘘つけ。顔、完全に負けてた」


零一が笑う。


「じゃあ引き分け?」


「……今回はな」

「今回は」


「次は俺が勝つ」

「次も俺が勝つ」


「言ったな」

「言った」


二人は睨み合った。


けれど、すぐに笑ってしまう。

こういうところは、きっと一生変わらない。


勝ちたい。

負けたくない。


でも、相手がいなければ勝負にならない。

それが、自分たちの恋なのだ。


「零一」

「ん?」


「明日の朝、模擬問題やるぞ」

「この流れで?」


「勝負だろ」


零一は少し笑った。


「いいよ」


「負けた方が朝飯作る」


「じゃあ優牙が作るかもな」

「何でそうなる!」


零一の手が、優牙の腰を抱き寄せる。


「どっちでもいい」

「よくねぇ」


「優牙と朝飯食えるなら」


その言葉に、優牙の顔が熱くなる。


「……そういうの、不意打ちで言うな」


「反則?」

「反則」


「じゃあ俺の勝ち?」

「違ぇ」


優牙は零一の胸を軽く叩いた。


「それは、俺が嬉しくなっただけだ」


零一が黙った。

珍しく、言葉に詰まっている。


優牙は勝った気分になった。


「今の俺の勝ち」


零一は少し悔しそうに笑った。


「……そうだな」


優牙は満足して、零一の胸に顔を戻した。


「明日は勝つ」

「俺も」


「ずっと勝負してやる」

「望むところ」


零一の腕が、優牙を深く抱き締める。

その温度が、悔しいくらい落ち着く。


優牙は目を閉じた。


勝っても、負けても、引き分けても。

隣にいるのが零一なら、それでいい。


でも。


「……次は絶対勝つ」


「寝言?」

「起きてる」


「じゃあ俺も言う」


零一が、優牙の耳元で低く囁く。


「次も、俺が優牙を崩す」


優牙の顔が一気に熱くなる。


「寝ろ!!」


零一は笑った。

優牙も、結局笑ってしまった。


喧嘩みたいで。

勝負みたいで。


でも、どこまでも恋だった。


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