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路地裏の灯火  作者:
5/9

塔の崩壊と星の閃き

路地裏に月の雫の香りが混じる昼下がり。

平穏な日常を突き破るように、ドアの鈴が派手に鳴らされた。

飛び込んで来たのは、1人の若者だった。


「よし!ここだな!」


ゴーグルを頭に乗せ、店内をキョロキョロと見回している。


「む?水晶か…これは先代の物か?僅かだが魔力の残渣が…あるのか?ふむ」


これはかなり珍しい。

ゴーグルなんかは、手に入れるにはかなりの金額になるはずだ。

それなりの職業、もしくは身分を持つ者だろう。

路地裏に来る人種ではなさそうなのだが。


パチリ


キョロキョロとしていた若者の視線が私を捉えた。


「見つけたぞ!魔法を一切使わずに、未来を視覚化する未知の魔導具を持つ店主!」


…なんだろうか。

珍獣に珍獣認定されるような、微妙な気持ちになるのは…


「俺は魔導具師だ!魔導具師のゼノだ!」


そう名乗りを上げると、スタスタと対面の椅子へと座った。

…濃い。濃い人種だ。

引きつりそうになる顔面に力を入れて、穏やかな表情を心掛ける。

だが若者の勢いは止まらない。

座るなり、机に置かれたタロットカードを穴が開くほどに観察し、ぶつぶつと呟いている。


「これだな?これが噂に聞く未知の魔導具…これは、札か?ふむ…」


「まずは落ち着いて下さい?」


ペースを崩されてしまったが、いつものようにお茶を淹れ、差し出す。


「む?ふむ…」


そう言ってゼノは、お茶を一口含み飲み込んだ。


「ふむ。神経を鎮静化させる薬草だな。苦味もなく、効果は上々。配合が実に合理的だ!」


実に感心したと頷いている。

…これはきっと変人の(たぐい)の身分のある人だと思う。

ペースが乱されたが、失礼がないように細心の注意が必要だろう。


ゼノはカップを置くと、タロットから視線を変えて、身を乗り出して私の事を観察し始めた。


「ふむ…」


「何かありましたか?」


ジロジロと観察されると、居心地がよくない。

まるで実験動物にでもなったみたいだ。


「それにしても…君」


「はい」


「君は、ここらの路地裏には似つかわしくないね」


ゼノの視線が色を変えた。

ひやりとした。

内心の冷や汗を隠し、表情を維持した。

口は開かず、視線で何故?と問う。


「その灰色の毛色。元は銀髪だろ?顔立ちだって整ってる。どこかの貴族のお姫様だって言われたって仕方がないんじゃない?」


一族から逃げ出したあの日。

泥まみれで辿り着いたこの場所。

正体を隠し馴染もうとした路地裏。

走馬灯のように頭を駆ける。

彼は危険。

彼のように、鋭い観察眼を持つ者から見ればすぐ暴かれてしまうだろう。

だが。

私はゆっくりと頷く。


「路地裏にはよくある事、ではありませんか?」


貴族の御落胤、追放者、逃げ出した者だって少なくない。身分を隠して実地調査する者だって、挙げればキリがない。

その中のどれかに特定されなければ良いだけ。


「ふむ。あるな。よく、あるな」


ゼノは数回頷き「ある」をぶつぶつと繰り返している。

実例を重々と御存知の様子。深くは突くまい。


「私はただの占い師です…改めまして、ようこそ。今日はどのような運命をお探しですか?」


虚を突かれた顔を素早く切り替え、再びタロットカードに熱い視線を送り始めた。

 

「ふむ。この札…かすかに魔力を感じる。ここにある数で全てか?」


しばらくは、タロット談義からになりそうだ…


「はい。この札はこれで全てです。全部で78枚になります」


「ふむ…手に取っても?」


「…どうぞ」


本当は他人に大切な相棒を触らせたくはないのだが…下手に騒ぎ立てられ、大事になる方が厄介だ。


「ふむ…絵札だな…剣、杖、コイン、ゴブレットが表記されたのが、それぞれ14枚…記号?文字が表記されたのが22枚…ふむ…これで合っているか?」


「はい。(ソード)(ロッド)、コインまたはペンタクルと呼びます。そしてゴブレットではなく、カップ。これが56枚。文字が表記された札が22枚で合っています」


「ペンタクル?…ふむ。確かに五芒星だな…これが術式に?…いや、関係がないな。全て均等に魔力がある…独立しているわけでも、かといって全てで1つというわけでもない…今まで見てきた魔導具とは全く別の系統だな…これがあれば未来視ができるのだな?」


「未来視…とまではいきません。未来の可能性を感じとる…くらいのものですね」


「確定した未来ではないのか?」


「それがでるのは、もう神様の領域では?」


「その通りだな…ふむ」


ぶつぶつ、さわさわタロットカードを触っては考えてを繰り返している。

…ゼノの念が相棒に染み込んで行きそうなので、後でもう一度浄化しようと思う。


「これで可能性を占うのか…」


「幾つもの枝分かれした未来の可能性、その1つですかね…結局どれを選ぶかは本人ですから」


「聞くも良し、聞かぬも良し…という事か?」


「はい。占いとは、そういうものではありませんか?」


「ふむ…」


そう言って思い出したかの様にお茶を一口飲み込み、軽く息を吐き話し始めた。


「相談というよりも、興味本位な話しなんだがな?俺が今手掛けている魔導具を完成させるべきか、爆発する前に捨てるべきかどちらが良いと思う?」


「ば…爆発?」


「ふむ。爆発。どちらかを占ってみてくれ」


爆発という凶悪ワードに心を乱されてしまった。

最初からペースを崩されていたが、これも酷い。

この類の人と関わるのは、これっきりにしてもらいたいが…仕事である。

しっかりと集中をしなければ。


円を描くようにタロットカードを混ぜながら、爆発という凶悪ワードを追い払い、完成させるべきか否かに意識を絞る。集中。

1つにまとめ、3つの山に分けてから、再度1つにまとめる。

ありがたい事にゼノは沈黙しているので、集中してシャッフルする事ができた…いや手順を観察しているのだろうが。

再度、集中。

二者択一のV字スプレッド

 

「まずこれが、あなたの現状を表す札」


最初の1枚をめくる。


「ペンタクル8の逆位置。これは職人の札ですが今は逆さまに出ています。あなたは本来、非常に高い技術を持った魔導具師です。しかし今回は完成を焦り、丁寧な仕上げを怠ってしまった。…手抜きや見落としがあったのではありませんか?」


「むっ…魔導回路の確認を怠ったな…」


ゼノの目はまだタロットカードに釘付けだ。


「ここからそれぞれの選択後を視ていきます。まずこちら。これは捨てた場合どうなるか、です」


最初のカードの左上をめくる。


「むっ?!」


「死神の逆位置。一般的にみると不吉に見える札ですが…今回の事は失敗である、と受け止めて執着せず、一度潔く終わらせることで希望が取り戻せるでしょう」


ゼノの軽い呼吸音を確認してから、死神の右側のカードをめくる。


「こちらは捨てずに手を加えていった場合ですね。(ワンド)騎士(ナイト)の逆位置。目的地を失ったまま、突き進む様子を示しています。今の回路のまま無理を重ねれば、あなたの意図しない方向に力が噴出し、手が付けられない状態に陥るでしょう」


「……ふむ」


ゼノがお茶を飲む。ふう。少し大きめの息だ。

捨てた選択をしたカードの斜め上。

死神の上にくるカードをめくる。


「捨てた場合に起こる結果は、星。捨てる決断をした先にあるのは、眩しいばかりの希望。一度全てを終わらせたことで、あなたに新しい刺激や閃きが訪れるでしょう」


ゼノは動かない。静かに呼吸している。

最後のカード。

(ワンド)騎士(ナイト)の上。


「捨てずに手を加えた結果は、塔。突発的な問題発生(トラブル)、事故、強制的な初期化(リセット)…つまり、派手に爆発しますね。積み上げた物も家も。大怪我を負う危険性もあります」


「……あり得る未来だな」


「ええ」


「派手に爆発するのか?」


ふと受け取ったイメージはオーバーフローだった。


「ええ。盛大に。大爆発の情景が頭に浮かびました…」


ゼノは一気にお茶を飲み干し、スッと立ち上がった。数枚の銅貨を置くと、速やかに撤収していった。


夜、魔石のランプの下で日記を書く。


『塔が告げる崩壊、星が告げる希望…出来れば希望に満ちた、良い未来であるように、祈らずには居られない…』


多分、あの様子だと大丈夫だと思うが…

本日2度も浄化される事になった相棒が、やや不機嫌そうにみえる。

少し笑ってしまった。

きっと、大丈夫。

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