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路地裏の灯火  作者:
24/28

教皇の咆哮

 防護壁の扉が重々しく開き切ると、ガラムを先頭に前衛の面々は勢い良く飛び出した。

 直後、敵の侵入を遅らせる為に扉を閉じる。

 退路が断たれた事に、言いようもない緊張感が張り詰める。


「呆けるな!前を向け!」


 ガラムの声に視線を上げる…が、恐ろしい光景だ。出た事を後悔する様に、魔物の顔が恐ろしい。

 積み上がる魔物の死体に、自分の顔を幻視するのが容易な程の景色。

 どうやって生き延びれと言うのか…

 ロキはこの戦いに出た事を心底後悔していた。

 冒険者にならず、実家の手伝いに明け暮れていても良かったんじゃないか…?

 家は継げないが、細々と生きる分には充分だったはずだったのに…

「3人1組、支え合いだ。横並びに出る。人数が溢れた者は3人以上で構わないから、どこかのチームに入れ」

 若者達は、慌てて3人1組となり、移動する。

 が、気持ちはロキと同様で既に随分と低くなってしまった…


「行くぞっ!」

 ガラムはそう言うと、恐ろしいほど重厚で熱い咆哮を上げ、駆け出す。

 中堅グループもそれに合わせて、咆哮を上げ並ぶ。

 魂に直接届くような熱い響き。

 熱い響きに背中を叩かれ、若者達も知らずの内に咆哮を上げて、続いていた。

『俺等は行ける!ガラムさんと共に!』

 ロキは急激に高まる闘志に振り回されないよう、頭の芯は冷静に保ちながら各々の武器を構えて駆け続ける。

 ガラムから教えられていた戦い方だ。

 冒険者になると決めた時、ガラムに頼み込んで叩き込まれた生き方だ。

 忘れちゃならないものだったのにな。

「並べ!ガラムさんに合わせるんだっ!」

 声を掛け合い、後衛の攻撃からあぶれた魔物を狩っていく。 

 確実にとどめを刺し、仲間と連携を取りながら耐える。

 

「敵の混成部隊が複数!左方面から!オークとウルフで構成!」

 カイルからの声を聞き、周囲に目を走らせる。

 皆まだ横並びを保持していた。

「2チームで当たれ!」

 ガラムさんの指示で瞬時にチームを組み、構え、オークとウルフの特性を思い出す。

「オークの攻撃は受け止めずに流すぞ!まずウルフから削るぞ!」

「わかった!ウルフの特攻は盾で止めるから、とどめを頼む!」

「了解した!」

 チーム内で声を掛け合い、動きを合わせる。

 仲間の状態を常に意識しながら攻撃の機会を狙う。

 …ガラムさんから得た全てを活かすんだ!

 思えば最近のロキ達はガラムに甘えていた。

 声を掛けずともガラムが走る。

 合わせなくとも、自然に勝利が得られる…

 …その分の皺寄せは全てガラムに向かっていたのに。何をやってたんだ、俺達はっ!

 怒りを叩きつけるように敵にとどめを刺し、次の攻撃を放つ。

 連携している様で全く協力出来ない魔物の動きが、自分達を投影しているかに見えるのだ。

 全て潰さなければ、ガラムさんに申し訳なさ過ぎる。

「負けねぇぞっ!」

 ガラムの背中を視界に残しつつ、戦い続けた。


「左方面、地面の下から魔力複数が急上昇!」

 ドカーンッ!と地面を突き破り出て来たのは、アーススパイダーの眷属達。

 アーススパイダーの子供ではないかと言われている魔物だ。

 親より小さいとは言え、一体一体が牛程の大きさで人間なんかは簡単に糸で絡め獲る。

 粘着力も高い糸で、少しでも付いてしまったら動きが制限されてしまう。

 更に頑丈な手足で突き刺すように襲って来る。厄介過ぎる魔物だ。

「アーススパイダーは頑丈だが火に弱い!後衛の攻撃を中心に当たれ!あぶれる魔物が増える、前衛は注意しろっ!」

「「おうっ!」」

 オークを斬り伏せ、眷属の頭部に剣を突き立てる。

 どれ程とどめを刺しても、襲って来る魔物の数が減らない。 

 どうなってるんだ?

 スタンピートの認識が甘すぎたとしか言いようが無いな…

 敵の数は依然として多く、疲労の色が若者達の顔に滲み始めた。

 もう、長くは保たないかもしれない…

 

「左方面、地面下より再度、魔力複数が急上昇!」

 カイルの声に反応するが、もう腕が上がらなくなって来ている。

 オークの攻撃を流し、ウルフを叩き伏せようとした所を弾かれた。

 ウルフの上にゴブリンが棍棒を持って乗っていたのだ。

「なっ…!騎兵っ?!」

 瞬時にかわし、敵の攻撃は当らなかったが…

 炸裂音を立てアーススパイダーの眷属達も地面を突き破り現れる。

 絶望的な状況に、一瞬意識を離してしまい、オークの棍棒で殴り飛ばされた。

「ロキっ!クソがっ!」

 仲間がオークにとどめを刺すが、連携が1人外れてしまい、一気に窮地に陥た。

「まだだ…今、戻る…」

 朦朧とする頭でロキが戻ろうとするが、視点が定まらない。

「ダメだ!ロキっ!下がれ!」

 仲間の声に下がろうとするが、足元がおぼつかず下がり切れない所へ、ヒュッと音が聞こえ…

 多分、アーススパイダーの眷属の足が振り下ろされた音だろう。

「ロキっ!!」

 ガラムの怒号が響き、再び弾き飛ばされたロキがノロノロと頭を上げる。

 寸前でガラムに助けられたのだ。

「ガラムさんっ、俺っ…」

 ロキが言葉を出し切る前に、カイルの声が響く。


「後方に特大の魔力反応あり!大きめの魔力複数!前進を始めました!」

 まだ終わらない…

 いや、より強いのが来る…?

「そんな…もう、限界が…」

 若者達の顔に絶望が載る。

 諦めの空気にガラムが咆哮を上げる。

 全身が総毛立つ重厚な振動。

「生命を諦めるなっ!前を見ろっ!周りを見ろっ!考えろっ!生命を掴む為に動けっ!」

 ガラムの熱気がロキの魂を揺さぶる。

 他の若者達も同様に。

 そして一斉に咆哮を上げる。

 身体の芯からの熱い慟哭が噴き出るようだ。

「俺達は、生き残るっ!絶対にだっ!」

「「応っ!」」


 気持ちは切り替わったが、状況は圧倒的に悪い。

「俺達に出来る事をやるんだ!削り続けるぞっ!」

 ロキの叫びに、皆が応える。

「「おうっ!」」

 オークに眷属、ウルフにゴブリン。

 必死で倒していく。

 油断はない。

 だが、体力もない。

 気力だけで剣を振るい、生を掴む。

 それだけだ。


「敵、目視!アーススパイダーに騎乗したゴブリンキング!オークジェネラル多数!オーク、ウルフに騎乗したゴブリン多数!右側遠方に魔力反応多数あり!」

 ガラムの表情が歪む。

 若者達の表情も歪んだが、絶望には染まらなかった。

 変わりに、覚悟を決めた表情で口角を上げる。

「やる事は変わらんっ!生き残るぞっ!」

 より一層の咆哮をガラムが上げ、若者達がそれに続く。

 後衛も、投石機担当も防護壁にいる全ての者が、熱く吠える。

 

 その時、魔物の攻撃が途切れた。

 さらなる魔物の波が来るまでの、一瞬の空白。

 各々が持参している携帯食を噛じる。

 体力と気力の回復をはかる。

「回復薬が必要な者は?!」

 手を上げた者に弓矢で回復薬が届く。

 それが妙に可笑しくて、ロキは笑ってしまった。

「そんな渡し方があんのかよっ!」

「これが確実で早いんだよ!矢の如く、だ!」

 弓矢を撃った者も笑いながら答えた。

「何だそりゃ!」

 周りの者達も笑った。

 大笑いだ。

 笑いが一通り駆け抜ける。

「次に笑うのは、酒場でだ!」

「「応っ!!」」

 ガラムの言葉に返答する。

 酒を飲んで、笑い飛ばす。

 最高じゃねぇか!

 誰もが叶わないと思ってるが、期待を口にする。

「ギルドの奢り酒だ。たらふく飲むぞ!」

「朝までなっ!」

 そう言い放ち、武器を構える。

 そろそろ投石機の射程だ。

「来るぞ!踏ん張れっ!」

「「応っ!!」」


 そこからは一瞬の内に色々な事が起きた。

 ドッと言う振動が響き、魔物の軍勢が防護壁へと一直線に向かい。

 投石機が大量の岩に油壺をまぜたのか着弾と同時に爆発が起こり。

 さらに魔法と火矢が着弾して爆発が起こり。

 アーススパイダーに騎乗したゴブリンキングを騎士団が討ち取った。

 討ち取った…?

 えっ?

 ええっ?!

「呆けるなっ!さっきと同じだっ!抜けた魔物を削れっ!」

「「応っ!!」」

 ガラムの声に反応し、動く。

 今はこちらに集中だっ!

 確実に削る。

 それだけに力を注ぐのだ。


 …いや、騎士団だぞ?!

 騎士団なんて、いつ来たんだ?!

 今かぁ…

 いや、今?!

 瞬間移動かよっ!!


「さっきカイルが言ってたろ!右側の遠方の魔力だっ!騎馬で突っ込んだんだよっ!」

 オークを斬り伏せガラムさんが叫ぶ。

「えっ?ガラムさん、なんで俺の考えてる事が?!」

 ウルフの首筋に剣を通し、聞き返す。

 ウルフに騎乗したゴブリンにとどめを刺した仲間が堪らず叫ぶ。

「ロキ!この馬鹿がっ!全部くちから出てたぞ!」

「はあ?!」

「混乱し過ぎだ!頭の芯は冷静に保て!生き残るんだぞ!」

「了解ですっ!」

 半分納得して討伐を再開する。

 チラリと見たガラムの口角が上がっていたのが印象に残った。


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