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路地裏の灯火  作者:
19/22

無冠の皇帝

 路地裏に、月の雫の香りが漂う午後。

 カランと、小さく鈴が鳴った。

 恐る恐る入って来たのは、8歳位だろうか?

 服装は町民風であるが、どう見ても仕立ての良い物を着ている少年が1人。

 金髪サラサラにパッチリ碧眼…拐われたらどうするのだろうか?


「御一人ですか?」

 コクリと頷く。

 迷子だろうか?

 まさかのお客?

「ここは占い屋ですが、よろしいのですか?」

 コクリと頷く。

 お客だった…

「どうぞ、こちらへ」

 トコトコと対面の椅子に座る。


「お代はこれで足りますか?」

 ポンと出された1枚の金貨に、目が飛び出る程驚いた。

 心臓に悪い…

 金銭感覚がまだわからない模様。

「ここでは、銅貨数枚で大丈夫です。それ以上ですと、釣銭が御用意できないのです…庶民には金貨が大き過ぎるのです」

「えっ…」


 驚き目を見開いた後、必死にポケットをゴソゴソして、出てきたのは銅貨1枚と銀貨1枚。

 …多分、見本用のお金だろう。

「これしか無くて…」

 …こんなにある、の間違いですよ、坊っちゃん。

 銅貨を1枚だけ残し、銀貨を少年へと戻す。

「この銅貨だけ頂きます。町では銅貨1枚でパンが1つ買えます」

「そうなんだ…」

「お連れ様はいらっしゃらないのですか?」

 少年は少し戸惑いながらモゴモゴ答える。

「…お店に置いて来た。ここで色々教えて貰えるって他の人が話しているのを聞いて、すぐ行かなきゃって」


 …大変です。

 私、巻き込まれ事故です。

 意図せず誘拐犯になってしまいました。

「誰にも告げず出て来たのは良くない事ですよ?」

「うっ…後で謝る…」

「…残された者は、管理が出来なかったとお咎めを受けるかも知れませんけど?」

「そうなの?!」

 まだそこまでの教育は無かったのか…

「私も、人攫いの罪で裁かれる事になるかも知れません」

「えっ?!僕が自分できたのに?!」

「はい。誰にも私が犯人でないとはわかりませんし、何処にいるかわかりませんから」

 顔色を変えた少年はオロオロし始めた。


 窓の外に護衛らしき人が見えてはいるが…

 視線を向けると護衛らしき人が頷いた。

 このまま坊っちゃんとお付き合いしても良いらしい。

 だが、この坊っちゃん。多分、かなり良い所の坊っちゃんだろうな…

「坊っちゃんは多分、とても高貴な生まれだと思います。あっ、おいそれと名を口にしてはなりません。お金目的やお家に恨みを持つ者がいては、大変な事になります。お連れ様は、そんな坊っちゃんを命に変えてお守りする義務と責任があります…できなければ、最悪生命を持ってお詫びする事になる程のお仕事です」

「そ…そんな…」

「坊っちゃんは、それ程大事な存在だと覚えておいて下さい。自分の事も周りの事も、しっかりと考えてあげて下さい」

「うん…わかった…」

「まず、坊っちゃんのお話しを聞くのは、お連れ様の許可を得てからになりますね…」


 カランと鈴が鳴る。

 護衛の1人が入店した。

「失礼致します。我が主の保護、ありがとうございます」

「あ、はい…」

 説教しまくりましたが、許して下さい。

 気持ちが伝わったのか、その後何も言わない。

 セーフ!NO不敬罪!

 大事な事を伝えたと認められましたよ!

 まぁ、不敬罪でもこんな可愛い坊っちゃんには説教しちゃうよ。

 外は危ない。可愛い子には超危険。

「ごめんなさい!…僕のせいで、大変な事になって、ごっ、ごめんなざい!」

 涙声な坊っちゃん。

 …このまま育てば良い大人になるよ。

 良い子、良い子。

 スッと護衛がしゃがみ、坊っちゃんと目を合わせて話し始めた。

「坊ちゃま。今回は、良識のある店主で助かりましたが、外は危ない考えを持つ者も、たくさんおります。できれば我々に坊ちゃまを守らせて貰えませんか?」

「わがったよぉ…ごめんっ」


 月の雫をミルで挽き、お茶を2つのカップに淹れる。

 一応、カップ2つ共に護衛の方へ差し出す。

 形ばかりの毒見をして貰ってから、坊っちゃんに差し出す。

「月の雫のハーブティーです。お毒見も終わりました。心が落ち着く作用があります。飲まなくとも、香りを感じて頂けると嬉しいです」

 坊っちゃんは、コクリと頷くと一口飲む。

 ホッ…気に入って貰えたらしく、もう一口飲んだ。


 穏やかに微笑みながら、坊っちゃんに問う。

「坊っちゃんは、1人で抜け出す程、何を求めていたのですか?ゆっくりで良いですからね?」

 坊っちゃんは、ぐっと背筋を伸ばして答えた。

「僕の妹が、今年の儀式で魔力も文字も素晴らしかったんだ。けど僕は去年、魔力はあっても…文字は無かったんだ…」

 ぐっと胸に刺さる言葉。

 どれ程ツラい思いでいた事か…

「父様も母様も変わらず優しくて、僕を愛してくれているのだけど…友達から『お前は魔力だけの文字無しだ。無能だ』って言われて…」


 坊っちゃんの口が一文字になる。

 感情を抑えているのだろう。

 何と健気な事か…

 私も感情は出ない様にしてる。

 般若の面にならない様に…って護衛さん、顔に盛大なる憤怒が乗ってます…坊っちゃんが見てないから良いけども。

 坊っちゃんがお茶を飲み、一息つく。


「家を継ぐ事もできず、誰かの役にも立てない僕なんて、本当に必要なのかな…って思って」

「なっ!」

 護衛さんが声を上げようとしたのを視線で留める。

 怒鳴りたい気持ち、良くわかる。

 こんな小さな坊っちゃんにそんな事を考えさせるヤツは友達とは言わない。クズである。

 私の元兄達並みのクズ。ドクズだ。

 だが、今坊っちゃんが求めているのは、そんな事じゃない。

 辛さを知らない人間からの下手な慰めなんか要らないのだ。

「…文字が無く辛い気持ち、私にも良くわかります。けれど、文字が無い事は、決して無能という事ではありませんよ?」

「え…?」

 穏やかに微笑みかけて1つ頷く。


 タロットカードを広げて、ゆっくりと混ぜる。

 1つにまとめ、3つに分け、再び1つにする。

 ワンオラクル。


「この中から、あなたの運命の可能性を1枚選んで下さい」

「運命…」

 一気に張り詰めた表情を浮かべる坊っちゃん。

 小さな子を追い詰める訳には行かない。

「はい。あくまで、運命の可能性の1つです」

「たくさんあるの…?」

 少し涙目なのが申し訳なく思う。

 もっと幼稚園の先生的な感じにすれば良かった…

 …いや、無理でしょ。

 あぁ…ごめんね、ごめんね。

「はい。未来とは、その時その時、自分がどんな行動をしたかで変わっていきます。幾つもの枝が分かれるような先。その可能性の1つです」

「自分でかえれるの?」

「そこはどうでしょうか。御自身の考え方で変わる物があるとしか言えません」


 坊っちゃんはムッと口を尖らせた。

「案外いい加減なんだね…」

 痛い一言だ。

 ズバッと効いたよ。

「残念ながら、それが占いですからね。ただ、目安にはできると思いますよ?」

 う〜ん、と考えてから、頷く坊っちゃん。

 大分緊張がほぐれたみたいだ。

「これにする」

 指差した1枚を机に残す。

「では、こちらの札を視てみましょう」

 ゆっくりとめくる。


 皇帝のカードだ。

 地上の支配者である事を明確に示しているカード。

 そして、安定、支配、責任感、意志の強さを意味したものだ。

「この札は皇帝の絵柄です」

「ふぇ?!」

 坊っちゃんが可愛く声を上げる。

 護衛さんは、息を留めたようだ。

「この札は、支配、権威。そして責任を持って自らの国を築き上げる者を指します」

「??」

 坊っちゃんが絶賛混乱中だ。


「この札が語りかけてくるのは、目標に向かって迷わず行動し、責任を持って周囲を引っ張っていく事が重要です。自信を持って安定を築いていく姿勢が、よい結果に繋がります。ただし、その結果はあなたの努力や行動が正確に影響したものであると心得ておいて下さい、と伝えてきています」

「僕の、目標…?」

コテンと首を傾げる。

「多分坊っちゃんの中には、もう定めた目標があるのではありませんか?」

 目がこぼれ落ちそうなほど見開く坊っちゃん。

 それを見て、護衛さんも目を見開いている。


 坊っちゃんと視線を合わせ、ゆっくりと頷く。

 坊っちゃんはコクリと頷き、ゆっくりと話し出した。


「…無理かなって思ってたのだけど。僕はね?家の為に、それよりも妹の力になれるように頑張りたいと思ってたんだ…何をすれば良いかわからなかったんだけどね…」

 照れる顔も可愛い。

 え…護衛さんが涙を溢しそうなんですけども…

 まぁ、うん。

 こんなに小さいのに、しっかりと考えていたなんて感動するよね。

「何をすれば良いか。それは、坊っちゃんの周りにいる、素晴らし御味方様達に聞いて行けば良いのではないでしょうか?」

 ハッとして護衛さんへと振り向く。

 凄い!護衛さんの表情がシュンッて変わりましたよ?!

 凄まじいスキルをお持ちだ…


「色々と教えてくれる?」

「勿論で御座います!」

 コクリと頷くと、坊っちゃんはスッと立ち上がった。

 そして、礼…

 …あぁ、見惚れる程に素晴らしい礼。

 高位貴族様で御座いましたか…

「ありがとうございました!」

 元気回復で良かったですよ…


 くるりと出口に向かう坊っちゃんに合わせるように外で人が動く気配がする。

 大勢いたんですね…

 思わず白目になりかけた。

 護衛さんも略式の礼をし、机の上にそっと銅貨を数枚置いて…え?

「ありがとうございました。御内密に」

 坊っちゃんの方を見ながらウインクをした…?!

「っ!」

 人生初ウインクにパニックですがっ?!

 何かっ?!

 あっ、坊っちゃんに内緒で?

 あっ、足りない分の補足ね?

 あぁ…ビックリよぉ…

 …あれ?れ?略式の礼…?

 っ?!


 パニックを起こしている内に、坊っちゃん達は去って行った。

 坊っちゃんの身分は考えない事にした。


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