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路地裏の灯火  作者:
11/28

真実の探求と支える者達

 機密文書室で私は、相手方の輸出関税の申告を探す。詳しい数値こそ書かれない事もあるが。

 買い付けた穀物類の半数ともなればざっくりとした物であっても、中々の金額になるはずだが。

 …明らかに少ない。

 申告漏れの量では無いだろう。

 王宮の情報量では無いにしてもだ。

 裏を通じて入る情報は各領地の目安とする為、大 まかではあるがズレは少ない。

 我が家門は辺境を守る武の伯爵家。

 武に寄り過ぎないよう、代々嫁ぐ者は知に優れた者が来る事もあり、裏の動きは確かなはずだ。

 ほぼ得られる情報のはず…

 ズレが大きいのは…穀物類…穀物類…


 相手方の災害・疫病・飢饉記録の有無、土木事業記録と鉱山開発報告の記述を指で追う。

 大きな災害の類はない。

 疫病発生は季節の物と予測。既に収束。

 飢饉は無しと言ってよい。

 土木事業では道の整備を進めている。王都までの悪路部分を重点的に着手。

 鉱山開発は特に可もなく不可もなく。


 穀物類は領に留めた量で充分に足りる。

 では残りは何処に消えたと言うのか…

 追跡の指を止める。

 動きを止める訳には行かないのに。

 これ以上は進めない。

 お茶の時間にしよう…

「おや?御嬢様、休憩でございますな?」

「我々の事を思い出して頂けて幸いでございますな」

「もう!皆んなで休憩にしましょう」

「御嬢様、休憩には甘い物も大事でございますよ?」

「まあ!私だけ食べるのは悪いわね?」

「そこは御嬢様の心1つでございます」

 すまし顔の文官に溜息を吐く。

「随分とできた忠義ですこと」

 誰からともなく笑いが広がる。

 顔に渋さが載れば、いつも柔らかい言葉をくれる。

 大切な者達…

 彼等だけではない。

 たくさんの者達に心を温められているのだ。

 母から聞いた占い結果を思いだす。

 悪魔の鎖。

 我が家門が絡め取られれば、皆も無事では済むまい。

 守らねばならない。

 ただ、どうすれば良いのか…


 メイドが運んで来たお茶とお菓子を皆に配る。

 木の実と蜂蜜を使用した焼き菓子。

 歯にかなりベッタリと付くので顎が疲れるのだが。

 これくらいの甘さが欲しかったので有り難い。

「おぉ!これは丁度欲していた甘さ!頭に染み入りますなぁ…」

「本当ね…顎は頑丈になりそうだけど…」

「良いではないですか!顎を動かせば、頭も回り、知恵が泉の如く湧き出ますぞ?」

「泉に辿り着くまで、困難で険しいわ…甘くて良いのだけど…」

「それもまた、この菓子の魅力でございましょう?」

「むぅ…」

 笑い合いながら、温かい時間を堪能する。

 コンコンコン。

「どなたでしょうかな?」

「失礼致します。御嬢様にお客様がいらっしゃいました」

 執事が直接やって来たのだ。

 多分、ベルンだろう。

「わかったわ。…では、私はこれで」

「御嬢様。ご馳走様でございました。またお茶の時間を期待していますよ」

「もう!この、忠義者!」

 大きな笑いを起こし、退席した。

「ベルンかしら?」

「はい。至急にお伝えしたい事がある、と。先触れを出さず申し訳ありませんとのことです」

「かまわないわ」

 執事と会話しながら応接室へ急ぐ。

 何か見つけたか、事が起きたか。

 焦る気持ちを出さないように、表情に力を加える。

「待たせてごめんなさい」

「いえ。こちらの方こそ急にお伺いしまして、」

「大丈夫よ。大切な事ですもの」

 執事が目配せし、メイドが下がる。

 ドアが閉まったのを確認し、ベルンが頭を深く下げる。

 厳かなそれでいて焦燥を滲ませた声で話し出す。

「アリシア御嬢様。お忙しい所を大変恐縮にございます。まず私が受けた毒の欠片の写しを。アリシア御嬢様の一助に加えて頂ければと」

「これは…っ」

 ベルンが取り出したのは、隣国の侯爵から提案された独占契約書の写しだった。

「私が受けた契約の内容です。前段階では、極一般的な契約です。ただ、侯爵側からこの伯爵領を通過する際の『全倉庫の独占管理権』と『特定貨物の検問免除』を要求していました。その対価は、零細商人が一生かかっても稼ぎ出せぬほどの莫大なもの。…まさに甘い誘惑そのものにございましょう」

 ベルンは苦い顔で続ける。

「さらに不可解な条項もございます。『商隊の護衛には、侯爵家の指定する傭兵団を使用すること』という項目。商売敵や不穏な輩から護る為に必要だと聞かされていましたが。今、改めて考えますと、兵を領内へ引き入れる為の隠れ蓑にされていた可能性もございました」

 私は息を飲んだ。

 カチリ

 機密文書室の鍵の音が耳の奥で鳴った。

『王都へ続く悪路の整備』という記録。

これと繋がっているのだとすれば…

ゾクリと背筋が冷える。

「ベルン、噂は…不審な噂についてはありませんでしたか?…相手の伯爵領で穀物類に行き先不明の物が多々あるのです。そのまま消えたかのように…」

「そこまでお調べに…その噂。私の聞いた不思議な噂と重なります。『夜間に動く沈黙の商隊』です」

 ベルンは声色を下げた。

「それは関所を通らず、山深くに入って行ったとのこと。密輸や盗賊等の予測も聞きましたが…向かった先が曰く付きの廃鉱山であり、皆警戒等の様子も見られなかった事から幽霊では?との噂がありました」

「曰く付きとは、どのような物かしら?」

「何でも、鉱山が枯渇した事から、ある一家が窮地に立たされ、そこで非業の死を遂げたとか…嘆いた亡霊が夜な夜な狂った声を上げ続けている…とのこと」

「それを確認した者達はいるの?」

「麓の若い村人が数人…度胸試しで夜に近寄ったそうでございます。その時に、何か訳がわからない言葉が聞こえたと。動物の断末魔が聞こえ、笑い声が響き、笑い声が増えていったのを聞き、恐ろしくなって逃げ出したそうです」

「度胸試し…危険な行為ね…」

「皆、かすり傷1つで無事に帰って来たそうです」

「かすり傷1つ?」

「お察し下さい」

 恐らく、慌てて逃げた際に転びでもしたのだろう。

 大事に至らず、本当に良かった。

 夜の商隊に、いわく付きの廃鉱山…

「他にも噂はありました?」

「こちらの国では穀物類の値上げの噂が色々と聞こえてきますが。あちらの国、特に侯爵領の近辺で金属の値上げが始まって来た様子です」

「何か特別事業が始まる気配は?」

「ありません」

「同じ鎖ならば、いい予感が全然しないわ」

「恐ろしい限りです」

 ベルンが頷いて同意する。

「ベルン。廃鉱山はどう思う?」

「正直な所、怯えた者達の妄言でしょうな。夜間の商隊を隠したい者達もそれを煽っている、と見えます」

「それが妥当ね…」

「探りましょうか?」

「いえ。あなたはここまでで止まってちょうだい?後を任せる所は決まっているから」

「かしこまりました…ふふ」

ベルンが礼をとり、笑いを洩らした。

「なあに?」

「アリシア御嬢様が立派になられたので、つい嬉しくなりまして」

「あら?まだまだこれからよ?」

「安心致しました。では、私はこの辺りで失礼致します」

「お茶はよろしくて?」

「はい。他にも行かねばならぬ所もありますので」

「そうなのね。気を付けてちょうだいね?」

 ベルンが来た時と違い、穏やかな顔で礼をとり退室した。

 曰く付きか…

 民を遠ざける手で間違い無いだろう。

 隣国の言葉さえも初めて聞けば訳がわからない呪文と一緒だろう。

 獣の声は、狩りの獲物か魔導具か…

まだ予測の範囲だが。

 点と点が繋がるかもしれない。

 繋がった線になれば、恐ろしい事態が引き起こされる。

「もう一度、機密文書室に行くわ。お母様が帰ったら教えてくれる?」

「かしこまりました」

 傍らにいた執事に声をかけ、進む。

 罠を仕掛けたのは同じ悪魔なのか。

 その目的を…正体を。

 全て暴いて断ち切ってやろうではないか。

 我が家門の総力を持って。


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