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氷室の野望(仮)第弐巻 ~立志編~  作者: 和音
本編

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38/43

38 現し世【真紀の野望】

氷室真紀(25)目線の回です。


再びあの世界へ――

コーヒーを飲みながら、もう一度自分の決めたこと、覚悟を確認した。


痛かった。

最後、光秀に切られ誠人にとどめを刺してもらった時。


それまで信長として3年近くを過ごした。

美濃を手中におさめて上洛、けれど足利義昭に大敗。

そののち領内を整備し浅井長政と共に北近江、若狭を手に入れた。

そして再び京へ。

途上でもう一人のプレイヤーである明智十兵衛光秀と戦い勝利。

そして再上洛を果たすも命が尽きた。


討たれた瞬間、不思議と現実世界の事は考えなかった。

痛い。

夢半ばで終わった。

それだけだった。


――あ。これゲームだった。

そう思ったのは、目の前が暗転してからだった。


暗転してのち。

目の前には懐かしの風光明媚な白亜の城が佇んでいた。

そして、ででーんと『氷室の野望』の文字がプカプカ浮かんでいた。


そう。オープニング画面だった。

そしてそこには、

『再ログイン』

の文字があった。


とりあえずヘッドセットを外した私は、現状把握をした。

驚くことに信長として過ごした3年近い時間は、この現実世界ではわずか2日しか経っていなかった。

そしてPCでデータを確認すると、

―歴史乖離率:9.2%

の情報。

私、信長が死んだ事で歴史乖離率が下がり、誠人も戻ってこれるであろう事も分かった。


安心した私は、食パンをトーストして食べたのちシャワーを浴びて一服。

再度あの世界へ行く――

そう決めて思案していた最中に誠人も戻って来て、今に至る。



「マジでまた行くの?」

誠人が唖然としながら聞いてきた。

「うん」

コーヒーを一口啜り

「私ね、光秀に拘り過ぎてた」


そう。

明智光秀を何としても倒す。

信長だった私の頭の中には、それしかなかった。

深謀遠慮に基づく光秀の策は、素直に凄かった。

だからこそ、光秀を倒すことに囚われすぎていた。


「誠人」

「うん?」

誠人もコーヒーを啜りながら応じる。

「誠人は次もたぶん信広だよね」

「うん」

「私は……徳川家に戻ろうと思う」

「え?」

誰になるかは分からない。


「信長が去ることで歴史乖離率が下がったでしょ」

「うん」

「まだ分からない事は多いけど……史実の通り織田と徳川は共に進んでみよう」

「ふむ……」

「ただ、史実と違って織田家の実権は秀吉ではなく信広が握ってる」

「うん」

「最終的には家康に天下を取らせることが出来ればいいんだと思う」

「なるほどね」


そして笑いながら

「それに、何年プレーしようがリアルにそこまで影響ないこと分かったし」

「確かに」

誠人も笑う。


「ま、とりあえず誠人もご飯食べてシャワー浴びておいで」

すると誠人はコーヒーカップをテーブルに置き

「うん、そうさせてもらうわ」

そう言うと、風呂場へ向かって行った。



光秀はどこに行ったのか。

織田家はこれからどうなるのか。

そして徳川家はどこに向かうのか。


たかがゲーム。

しかしそう単純に思えないほどの世界だった。


まずは誠人の腹ごしらえだ。

そう決めた私は、誠人にナポリタンを作るためキッチンへ向かった。




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