35 続きからはじめる(1570年11月5日 京)【御所事変】
『1570年11月5日 京――御所』
信長(真紀)と光秀(芳香)の太刀が激突する。
火花。
二人とも一歩も退かない。
周囲では細川勢と明智勢、そして乱入した織田兵が入り乱れている。
「終わりだ、十兵衛」
信長が言う。
光秀は笑う。
「本当に?」
その瞬間だった。
御所の奥から女房たちの悲鳴が響く。
「帝が!」
信長の視線が一瞬だけ揺れる。
ほんの一瞬だけ、信長の意識が光秀から外れた。
光秀はその変化を見逃さなかった。
光秀は踏み込む。
速い。
信長も反応する。
だが半歩遅い。
刃が走る。
鮮血。
信長の胸が裂ける。
「――っ!」
膝が崩れる。
周囲の時間が止まった。
「姉ちゃん!!」
思わず叫ぶ信広(誠人)。
黒田官兵衛。
羽柴秀吉。
全員の叫びが重なる。
だが届かない。
信長は片膝をついたまま光秀を見上げていた。
光秀の顔には勝者の笑みはない。
ただ静かな表情だった。
「言ったでしょう」
光秀が言う。
「あなたでは天下は動かない」
信長は苦しそうに笑った。
口から血が流れる。
「違う……」
「……」
「貴様にも無理だ」
光秀が黙る。
信長は続ける。
「天下など獲れぬよ」
光秀の瞳が揺れた。ほんのわずかに。
初めてだった。
その時、御所の外から法螺貝が鳴り響いた。
織田軍が殺到してくる。
光秀は無言で踵を返す。
「藤長、村重。行くよ」
そう言うと走って御所の奥に向かった。
一色藤長と荒木村重は無言で光秀の後に続いた。
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「姉ちゃん!」
信広が駆け寄ってくる。
「誠人……殿、でしょ?」
薄笑いで真紀が言う。
「待って待って……どうしたらいい?」
誠人は半泣き状態で、どうしていいか分からなかった。
「殿!」
秀吉と官兵衛も走り寄ってくる。
「官兵衛」
「はっ!」
「秀吉と合力し、各隊へ伝えよ」
膝立ちになっている官兵衛の横で、秀吉は震えながら呆然と立ちすくんでいる。
「京より兵を退き、近江の観音寺城へ集結。儂ののちは信広だ」
「ははっ!」
官兵衛が頭を深く下げる。
「秀吉、聞いたな?」
「…は……ははっ!」
秀吉も震えながらも頭を下げる。
「そこの細川藤孝も連れてすぐに走れ。さもなくば明智勢含め大混乱になる。いけっ!」
官兵衛と秀吉は、御所に入っている兵たちへ指示を出すとすぐに駆けて行った。
そして。
「誠人……」
真紀は仰向けで、息が荒くなっている。
「ごめんね……やられちゃった」
「姉ちゃん……」
誠人は言葉が出ない。
「聞いたね?私の後を継ぐのは誠人だよ」
「ダメだ……ダメだよ……」
すると真紀はまたふっと笑い
「大丈夫。ただ……」
「なに?」
「誠人。とどめを刺して」
「え……?」
とまどう誠人。
「思ったよりも痛くてさ……しんどい」
「無理だよ!」
「いけるよ……お願い」
逡巡。
「お願いだから……」
しばらく黙ったのち、誠人は涙を拭って
「分かった」
そう言って脇差を抜いた。
「姉ちゃんの仇は俺が必ず取る」
誠人は震えながら抜いた脇差を真紀の横腹にあてた。
「誠人」
そして、誠人の脇差が真紀の身体へ食い込んだ。
「生きて……あとをおねがいね……」
力ない声で言うと、そのまま瞼を閉じた。
誠人は全身の力が抜けて、真紀の亡骸を抱いたまま座り込んだ。
しばらくしたのち、信長の、真紀の身体が淡く光り、その姿は消えて無くなった。
その時――
赤い文字が浮かんだ。
―歴史乖離率
―9.2%
続いて。
―緊急イベント:御所事変
―イベント更新
―織田信長…討死
―安定化モジュール:出力下降
そして。
―管理者権限保有者が変更になりました。
―ログアウトが可能になりました。
のメッセージが、出た。
<1570年11月5日時点>
―歴史乖離率:9.2% ↓(-3.3)
―安定化モジュール:出力下降
―現実世界アンカー不安定率:不明(無効化処理済)
―管理者権限保有者:氷室誠人




