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氷室の野望(仮)第弐巻 ~立志編~  作者: 和音


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30/36

30 続きからはじめる(1570年11月2日 織田家・明智家)【愛知川の戦い-決戦】


愛知川西岸――



燃え残る兵糧庫の黒煙がまだ空へ細く伸びている。

その煙の向こう。


永楽通宝の馬印がついに愛知川西岸へと姿を現した。

織田信長(真紀)、本隊三万が愛知川を突破した。


地鳴りのような鬨の声が湖東を震わせた。

「「「おおおおおおおおおっ!!!」」」


黒母衣と赤備え。

濁流を越えた兵たちの鎧は水と血に濡れ、朝日に鈍く光っている。

その先頭、黒漆塗りの南蛮胴を纏った信長は、馬上で真っ直ぐ前だけを見ていた。




対する安土山麓――



白地桔梗紋の旗が林立する中、明智光秀もまた馬へ跨った。

両者の距離はおよそ五百間。


誰もが理解していた。

この戦の帰趨は今、ここで決まるのだと。




--------------------------




安土山麓、明智本陣――



「殿っ!!」

一色藤長が叫ぶ。

「本陣を下がらせるべきです!」

「必要ない」

光秀は即答した。


「しかし中央が――」

「崩れていない」

光秀の声は静かだった。

そして、その目は戦場全体を見ている。


和田山。

秀満隊は利家隊の突撃で乱れた。

だが壊走してはいない。

山腹で再編し、騎馬隊を食い止め始めている。


常光寺方面。

藤孝は長秀を押し返しつつある。

渡河した織田兵の死体が愛知川を流れていた。


南方。

勝家隊はなお前進中。

だが惟政残党の抵抗で完全包囲には至っていない。


「まだ五分だよ」

光秀は笑う。

「むしろ信長は急ぎ過ぎた」

「急ぎ過ぎた……?」

藤長。


「そう」

光秀は扇で前方を指した。


そこには愛知川を越えた織田本隊。

確かに突破には成功した。

だが――突出しすぎている。


中央突破を急いだ代償として、左右翼との連携がわずかに伸びていた。



「秀満」

光秀が低く呟く。

「そろそろだ」




--------------------------




和田山の山腹――



「押し返せええっ!!」

明智秀満が絶叫する。

その顔には既に血が飛び散っていた。


前田利家率いる赤備え騎馬隊。

突撃の勢いこそ凄まじかったが、山腹では速度が死ぬ。


秀満はそこを逃さなかった。

「槍衾!!」

無数の槍。

騎馬が串刺しとなって倒れる。


「怯むな!!」

利家が朱槍を振るい、敵兵を叩き斬る。

だが次の瞬間。

左右から新たな桔梗紋の兵が現れた。


「なっ……!」

利家が目を見開く。


伏兵。

秀満は最初から崩れたふりをしていたのだ。

「囲め!!」

赤備えが山腹で包まれる。


利家隊の三千は、ここで止まった。




--------------------------




「……やるな」

愛知川を越えた信長本隊。

その中央で信長が呟く。


官兵衛が顔色を変える。

「利家隊が止められました!」

「見えておる」

信長は冷静だった。


その視線の先。

和田山の中腹では赤と白が激突している。


信広(誠人)が険しい顔で言う。

「秀満もまた、化け物ですな……」

「さすがだ」

信長は笑った。

「光秀の右腕だからな」


だが次の瞬間、法螺貝が鳴り響いた。

ぶおおおおおおおっ!!


すると安土山麓から、新たな明智勢が現れた。

「伏兵!?」

秀吉が叫ぶ。


違う。

伏兵ではない。

あれは――


本陣近衛。光秀が最後まで温存していた集団だった。

その数、およそ五千。

そしてその中央に居る白馬。


「……光秀」

信長の目が細まる。


明智光秀。

自ら前へ出てきたのである。




--------------------------




「信長っ!!」


光秀が馬を駆る。

その声は戦場の喧騒を裂いた。

白地桔梗紋が翻る。

その後ろからは、精鋭が雪崩のように続く。


「殿っ!!」

官兵衛が叫ぶ。

「来ます!!」


だが、信長は笑っていた。


「来たか」

軍配を捨てる。

そして、腰の太刀を抜いた。


刃が朝日を浴びる。


「全軍――」

信長が吼える。

「前へ出よ」


黒い奔流が再び動いた。




--------------------------




両軍が激突した。


轟音。


馬が叫び。

人が潰れる。


愛知川西岸は、一瞬で地獄へ変わった。


「織田信長ああっ!!」

「明智光秀ええっ!!」

互いの怒号がぶつかり合う。


信長は自ら敵陣へ斬り込んでいた。

その太刀が振るわれるたび、桔梗紋の兵が吹き飛ぶ。


「退くな!!」

秀吉。

「押せ押せっ!!」

勝家。


一方。

光秀もまた前線に居た。


「そこを開けろ」

静かな声。

だがその太刀筋は異様だった。


一閃。

二閃。

織田足軽兵の首が宙を舞う。


「化け物か……!」

誰かが叫ぶ。


光秀は笑う。

「今さら気付いた?」




--------------------------




そしてついに。


両者の間に誰も居なくなった。



周囲ではなお数万が殺し合っている。

だがその瞬間だけ、まるで空間が切り離されたようだった。


信長。

光秀。


視線が交わる。


光秀が笑った。

「ようやくだね、信長」

信長は太刀を構える。

「長かったぞ、十兵衛光秀」


風が吹く。


永楽通宝の旗。

桔梗紋の旗。

両者の旗が同時に揺れた。


そして――


二人は同時に馬を蹴った。




<1570年11月2日時点>

―歴史乖離率:12.5%

―安定化モジュール:出力上昇

―現実世界アンカー不安定率:不明(無効化処理済)

―管理者権限保有者:氷室真紀


<織田家>

織田信長 (36)…統86  武76  知85  政81  魅88 【真紀】

織田信広 (38)…統64  武77  知81  政83  魅84 【誠人】

柴田勝家 (44)…統89  武88  知61  政70  魅85

丹羽長秀 (35)…統82  武75  知83  政82  魅79

羽柴秀吉 (33)…統79  武67  知84  政80  魅86

前田利家 (31)…統80  武85  知69  政67  魅76

池田恒興 (34)…統72  武73  知72  政74  魅76

村井貞勝 (50)…統41  武33  知75  政90  魅84

羽柴秀長 (30)…統73  武64  知80  政85  魅88

森可成  (47)…統77  武80  知68  政65  魅69

森可隆  (18)…統74  武66  知78  政79  魅73

佐久間信盛(42)…統65  武70  知54  政52  魅48

黒田官兵衛(24)…統80  武63  知95  政82  魅77

藤堂高虎 (14)…統75  武77  知80  政71  魅74

<明智家>

明智光秀 (42)…統86  武80  知94  政78  魅81 【芳香】

細川藤孝 (36)…統76  武63  知88  政84  魅80

<松永家>

松永久秀 (62)…殺害

<徳川家>

本多忠勝 (22)…統73  武86  知59  政49  魅79

榊原康政 (22)…統75  武82  知72  政60  魅74

服部半蔵 (32)…統73  武83  知74  政45  魅73

<浅井家>

浅井長政 (25)…統82  武84  知75  政77  魅81

<武田家>

真田昌幸 (23)…統80  武72  知85  政83  魅74 【卓】

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