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氷室の野望(仮)第弐巻 ~立志編~  作者: 和音


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29 続きからはじめる(1570年11月2日 織田家・明智家)【愛知川の戦い-激突】

『1570年11月2日 愛知川――』



朝日が湖東の空を裂くように昇っていた。


愛知川。

その流れは昨夜までと変わらず静かだ。

だが、両岸に立つ兵たちの空気は明らかに違っていた。


今日、戦が動く。

誰もがそれを理解していた。




--------------------------




野良田にある織田本陣――



「総員、渡河準備!」


母衣衆の号令が陣中を駆け抜ける。

法螺貝。太鼓。

騎馬の嘶き。


六万八千の大軍が一斉に動き始めた。


先鋒。

丹羽長秀軍一万五千。

その背後に羽柴秀吉軍。

さらに中央からは、永楽通宝の馬印を掲げた信長本隊三万が進み出る。

愛知川東岸が震えていた。



本陣中央。

信長(真紀)は馬上から西岸を睨んでいた。


「……静かだ」

ぽつりと言う。

傍らの信広(誠人)が答える。

「静かすぎます」

官兵衛もまた険しい。

「光秀は必ず何かを隠しております」

「当然」

信長は笑った。

「隠していなければ奴ではない」


そして、軍配を振り上げる。

「渡れ」


その瞬間――

「「「おおおおおおおおっ!!」」」

鬨の声が天地を揺らした。


先陣の足軽たちが一斉に川へ踏み込む。

冷たい水飛沫。

槍を掲げた兵たちが濁流を割って進む。


愛知川渡河戦。

その火蓋が切られた。




--------------------------




対岸。

常光寺方面――


「来ましたな」

細川藤孝が静かに呟く。


眼下に愛知川を渡ってくる丹羽長秀軍。

その数は夥しかった。


「慌てるな」

藤孝は配下へ言う。

「敵を十分に川へ引き込め。半ばで叩く」


兵たちが槍を構える。

弓隊が前へ出る。


そして

「放てっ!!」

無数の矢が空を埋めた。


黒い雨。

それが愛知川へ降り注ぐ。


「ぐああっ!!」

「怯むな!!進め!!」



川中で次々と織田兵が倒れる。

流れが赤く染まり始める。


だが、丹羽長秀は止まらない。

「進めえええっ!!」


自ら先頭近くまで馬を進める。矢が兜を掠める。

それでも進む。

その姿に兵たちが続いた。



藤孝が目を細める。

「……やはり良将だな」

すると背後の兵が叫ぶ。

「羽柴勢、後続確認!」

藤孝は頷いた。

「よし。予定通りだ」


だが、その瞬間だった。


遠く、南方から法螺貝の音が響いた。

ぶおおおおおお――。


藤孝の顔色が変わった。

「あれは……?」


伝令が駆け込む。

「申し上げます!柴田勝家隊、八日市方面へ出現!」

「……っ!」


早すぎる。

惟政残党を掃討しながら来るはずの軍が、想定より遥かに早く南へ回り込んでいた。


藤孝は即座に理解した。

「昨夜のうちに動いていたか……!」




--------------------------




一方。

安土山麓、明智本陣――


「ほう……」

光秀が笑う。

眼前では信長本隊が渡河を開始していた。


永楽通宝。

黒母衣に包まれた織田本隊。

まるで巨大な黒い奔流だった。


「本当に来たねえ」

愉快そうに呟く。


一色藤長が聞く。

「宜しいのですか?

このまま引き付ければ、中央を突破されます」


「いいんだよ」

光秀は即答した。

「信長は、ここへ来る」

その目が細くなる。

「来なければ意味がない」

そして、扇をすっと掲げた。


「藤長」

「はっ」

「秀満に合図だ」

「ははっ!!」


次の瞬間。

和田山方面で無数の旗が動き始めた。


白地桔梗紋の明智秀満隊。

伏せられていた七千が、一斉に山肌を下り始めたのである。




--------------------------




愛知川中央――


「……来たな」

信長が呟く。

官兵衛が顔を上げた。

「和田山!」


山肌を滑るように現れた明智勢。

その狙いは明白だった。


渡河中の織田本隊の、その横腹。

最悪のタイミングだ。


「殿!」

信広が叫ぶ。

「ここは一度――」

だが、信長は笑っていた。

「遅い」

「……え?」


次の瞬間。


東岸。

野良田後方から、新たな法螺貝が轟く。


ぶおおおおおおおっ!!!


土煙。

そして現れたのは――


「……騎馬?」

官兵衛が目を見開く。


赤備え。


「まさか――」

信広が絶句する。


その先頭で朱槍を掲げた若武者が叫ぶ。

「前田又左衛門利家!推して参るッ!!」


第四陣、後詰の柴田勝家隊。

その中から密かに分離されていた騎馬隊三千。

昨夜のうちに移動し、和田山のさらに東へ潜んでいたのである。


「馬鹿な……!」

初めて、光秀の笑みが消えた。


利家隊は山を下る秀満隊へ真横から突撃した。


轟音。

そして悲鳴。

山肌で兵が弾け飛ぶ。


「敵襲ーーーっ!!」

「横からだぁ!!」


秀満隊の陣形が崩れた。


そこへ

「今だ。渡れっ!!」


信長の号令。

織田本隊三万が、一気に愛知川を突破した。




--------------------------




安土山麓――


「ふふ……」

光秀が笑った。

だがその笑みは、先ほどまでとは違う。


歓喜だった。


「そうか」

炎のような目で信長本隊を見る。

「騎馬を隠していたか……!」


藤長が叫ぶ。

「殿!中央が危険です!」

「うん」

光秀は静かに頷いた。


そして、腰の太刀へ手を掛ける。

「ならば行こうか」

「……殿?」

藤長が息を呑む。


光秀は振り返らない。

ただ前だけを見ていた。


愛知川を突破してくる黒い軍勢。

永楽通宝の旗。


「信長」

光秀が笑う。

「ようやく会えるね」


そして。

明智光秀は自ら馬へ乗った。




<1570年11月2日時点>

―歴史乖離率:12.5%

―安定化モジュール:出力上昇

―現実世界アンカー不安定率:不明(無効化処理済)

―管理者権限保有者:氷室真紀


<織田家>

織田信長 (36)…統86  武76  知85  政81  魅88 【真紀】

織田信広 (38)…統64  武77  知81  政83  魅84 【誠人】

柴田勝家 (44)…統89  武88  知61  政70  魅85

丹羽長秀 (35)…統82  武75  知83  政82  魅79

羽柴秀吉 (33)…統79  武67  知84  政80  魅86

前田利家 (31)…統80  武85  知69  政67  魅76

池田恒興 (34)…統72  武73  知72  政74  魅76

村井貞勝 (50)…統41  武33  知75  政90  魅84

羽柴秀長 (30)…統73  武64  知80  政85  魅88

森可成  (47)…統77  武80  知68  政65  魅69

森可隆  (18)…統74  武66  知78  政79  魅73

佐久間信盛(42)…統65  武70  知54  政52  魅48

黒田官兵衛(24)…統80  武63  知95  政82  魅77

藤堂高虎 (14)…統75  武77  知80  政71  魅74

<明智家>

明智光秀 (42)…統86  武80  知94  政78  魅81 【芳香】

細川藤孝 (36)…統76  武63  知88  政84  魅80

<松永家>

松永久秀 (62)…殺害

<徳川家>

本多忠勝 (22)…統73  武86  知59  政49  魅79

榊原康政 (22)…統75  武82  知72  政60  魅74

服部半蔵 (32)…統73  武83  知74  政45  魅73

<浅井家>

浅井長政 (25)…統82  武84  知75  政77  魅81

<武田家>

真田昌幸 (23)…統80  武72  知85  政83  魅74 【卓】

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