VS.《サワヤマ》 ③
オレ《ゴトー》は越境者と戦闘中です。
異世界の地で同郷の若者と戦っている状況に耐え難い違和感を覚えますが……。
降りかかった火の粉によって火だるまにされるつもりはありません。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちょこまかと飛び回りやがってぇ!」
気合いの咆哮を上げた《サワヤマ》が、自身が生み出した蜃気楼の壁に向けて薙ぎ払うような斬撃を放つ。
体を中心にして回転するように専用兵器“物干し竿”を振るった勢いのまま、眼前の蜃気楼の中に飛び込むようにして消える。
一瞬後、《サワヤマ》がいた空間を光の輪が切り裂いていく。
その光輪を上空から射出した小鳥型の黒い魔導兵の背後に出現した空間の揺らぎから、先程《サワヤマ》が放った斬撃が襲いかかる。
その斬撃の前に立ちはだかるように飛び込んだ白い小鳥型魔導兵が、瞬時に光の盾を形成し攻撃を弾き飛ばした。
ここから5秒…………3……2……1……来る。
空間の揺らぎを感知した2体の魔導兵が美しいコンビネーションで50m程離れた揺らぎに向けて飛翔する。
使い魔ズと同じく《エー・エー》の蜃気楼感知網により出現地点を知ったオレも空間の揺らぎを目視で発見した。
推定で……150m後方か。出現地点に合わせてオレも場所を調整する。
空間の揺らぎが産み出した蜃気楼の中から溶け出すように現れた《サワヤマ》を、再びスパ太から射出された光輪が襲う。
「うっとおしいんだよっ!」
殺到する光輪を刀で弾き飛ばし、撃ち漏らした光輪を蜃気楼の防壁で防いだ《サワヤマ》が“物干し竿”に魔力を込めて反撃に移った。
牽制するべくパロ助が《サワヤマ》とオレとの直線上に飛翔し……。
空中で繰り広げられる高速の攻防。
オレはそれをただただ眺めていた。
ついていけないからだ。
本気になった越境者と使い魔ズとの戦闘速度は中年のおっさんが介入するのは不可能なレベルまで上がってしまった。
そして「本気」宣言した《サワヤマ》も、オレに構う余裕が無いようだ。
解析した戦闘データをフィードバックした使い魔ズがその余裕を奪っているからだ。
最初に無力化に成功したのは《次元断》だった。この技は入り口と出口との直線上にある空間に干渉する。文字通り空間を斬るのだ。現状では全力展開したパロ助のシールドでしか防げない。しかし予備動作もあり魔力の量にも特徴がある大技だ。感知が容易である以上決定打にはなり得ない。もし発動を隠蔽できるスキルがあればまた違ったのだろうが……。こちらにとってのラッキーパターンにハマったことを察知してから《サワヤマ》も撃たなくなった。
《サワヤマ》の蜃気楼に潜伏する回避方法は凄まじく優秀で、高速戦闘モードに入ったスパ太の猛攻から致命傷を避け続けているが、さすがに被弾する回数が増えてきた。目下使い魔ズ優勢、といったところか。
もう何度目かになる攻防を観戦して情報収集に徹することが出来ているオレと《エー・エー》は、蜃気楼に法則と限界がある事を確認した。
まず発見したのは規則性だ。《サワヤマ》は、飛び込んだ蜃気楼ではなく、別の場所に出現した蜃気楼からしか出てこない。斬撃も同じだ。
おそらく蜃気楼は一方通行の通路のようなもので、入り口に遡って戻れないらしい。つまり蜃気楼には、必ず出口が必要だ。
その解析を基本戦術に組み込んだことで使い魔ズの優勢が続いている。
ただ注意すべきは、《サワヤマ》が二連続の斬撃を放った際に、異なる位置に出口が出現したことだ。出口の数を任意で設定出来る事実は驚異だった。現在までは二連撃以上の攻撃は確認していないが、もしも《サワヤマ》に、より手数の多い同時多発の攻撃手段があり、さらにその手数と同じ数の出口を出現させることが出来たとしたら……かなりマズイ。たった一人で全方位からの包囲殲滅が可能になるからだ。この可能性は最大限に留意すべきだろう。
そして時間。《サワヤマ》が蜃気楼の空間の中に入っているのは最大で5秒までだ。使い魔ズのコンビネーションによって被弾し追い込まれていても5秒以上の潜伏はしない。上限があるのだろう。
しかし正体の解らない魔法によって高速で回復する《サワヤマ》は、その5秒を有効に使いダメージを残さない様に回復しつつ戦闘を継続、さらに出現時間を調整する事でフェイントとして活用している。かなりやっかいだ。
オレにとって最も問題となったのは、蜃気楼への潜伏に上限があるのは《サワヤマ》本体のみ、という点だ。戦闘中に《サワヤマ》がオレを狙って放った二連撃は、10秒近いタイムラグを生んだ時間差攻撃としてオレを襲った。攻撃エネルギーに対する蜃気楼潜伏の時間制限を読み違え、完全に不意打ちを食らう形になったオレは、感知網を生かせずに背中を切り裂かれる羽目になった。おかげで現在は戦線離脱して回復中だ。
しかしこれにより使役者の危機に反応したスパ太とパロ助はリミッターを開放した高速戦闘モードに移行し、《サワヤマ》の自由を制限することになった。以降戦闘から離脱したオレは観測に回っている。
回復しながらも戦闘区域から一定の距離を取ることは怠らない。《エー・エー》の解析では、蜃気楼を産み出せる距離は最長で200mまで。例えるなら、亜空間に伸長可能な「トンネル」があり、その入り口から出口までの距離の限界が200mということだ。
使い魔ズとの戦闘速度が上がるにつれて、回避マージンを必要とした《サワヤマ》が空間跳躍をする際に使う「トンネル」の距離は延び続けたが、200mを頭打ちにして止まった。上限値と見て間違いないだろう。
そしてこの解析が戦闘を左右する決定打となった。オレが使い魔ズに対し魔力供給可能な距離が約300m。蜃気楼の射程に対し誤差を含めても圧倒していたからだ。
これにより、蜃気楼の射程外である安全地帯に避難したオレの電池式魔力供給炉による燃料補給を受けながら戦闘を続けている使い魔ズは、事実上の半永久的戦闘を可能としている。完璧な攻防のコンビネーションを無尽蔵のスタミナで行う戦術兵器……ヤバイだろ……。
対する《サワヤマ》は……現在の戦闘時間は6分少々。時間経過と比例するように魔力、攻撃速度、攻撃頻度が下がっている。上がっているのは被弾率だ。ちなみに使い魔ズがリミッターを開放した前後での被弾率は1:9……これはもう「詰んだ」のではないだろうか? 《サワヤマ》の顔色は……焦り一色って感じだ。
観測と《エー・エー》の解析によって一つずつ炙り出し収集したデータをリアルタイムで交戦中の使い魔ズにフィードバックしたことで、徐々にスパ太とパロ助のコンビネーションが《サワヤマ》の速度を凌駕しつつあるのだ。
まるで詰め将棋のように終戦に向けて進んでいる。
オレが背中に受けた傷だってもうすぐで完治しそうだ。
こうなったら後は落とし所を探るのみだな……。
戦闘の過程を思い返しながらオレは計算を始めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「本気で行く」と宣言した《サワヤマ》との戦闘再開直後、ヤツの速度にオレはついていけなかった。
いきなり二段階ほどギアチェンジした《サワヤマ》の蜃気楼を介した高速攻撃に翻弄されたオレは、パロ助が守ってくれてなければ3回首を飛ばされていた。
《サワヤマ》の狙いが明らかに殺意を持ち、首を刈って殺す事に変わっている。……それもまた「本気」ってことなのか。
その鬼気迫る猛攻にパロ助の防御も後手に回る……《サワヤマ》の攻撃のタイミングが解らないからだ。……が、それも終わりだ。
《思索成知》が発動して冷静になった頭で計算した答えが出る。
ボチボチだろ?《エー・エー》?
『解析完了:《蜃気楼》感知網完成です:蜃気楼感知レイヤー展開:回避補佐開始します使役者』
オレの問いを待っていたかのように頼もしいアナウンスが頭の中に流れる。
よっしゃあ!きたきた!
次は避けてやるぜ!撃ってこい!
視界の中に《エー・エー》の補佐で赤いマーキングが浮かび上がる。
感知した蜃気楼の出現点を表示するレイヤーが視野に重ねられたのだ。視野からはみ出た出現点は《エー・エー》の補佐で脳内に補整される。
ここか!
オレの右斜め後方に蜃気楼の出現予測点。
マーキングの赤が最大まで拡大して点滅した瞬間に合わせて、直前に全開で起動して準備していた《義足》のモード《鷲頭魔獣》で跳ぶ。
《義足》で出せる最高速度で上空に飛び出したオレの足元で、さっきまでいた地点を蜃気楼から飛んだ斬撃が切り裂いた。
よっしゃあ!回避成功!てかめっちゃ高く跳んだぁぁ!
アドレナリンが分泌過多になって興奮気味に暴走したオレを《エー・エー》のアナウンスが引き戻す。
『落下着地まで推定2秒弱:回避手段が無い事実を報告です』
……オレはアホか……。
空中でどうやって避ける!?
スパ太の追撃を振り切ってニヤリと笑った《サワヤマ》と目が合った。
真っ青になったオレの目の前の空間を示して激しくマーキングが点滅した。
ヤバイ!……斬撃が来るぅ!
……しかしその一瞬後、無事に着地したオレは虚勢を維持するべく慌てて腕を組む。
追撃を防いでくれたのはパロ助だった。
そうだ……感知網で出現予測が出来てもオレの能力じゃ初撃を躱すのが精一杯……身体能力も戦闘経験も回避センスもおっさん基準値だ!……マズイ。
いや、こんな時こそ動じていないフリを崩してはいかん!
腕組みしたまま軽く後方にバックステップしたオレは胸を張って《サワヤマ》に相対する。
「ちっ……何かやってやがるな……」
呟いた《サワヤマ》が攻撃のタイミングを計るように攻勢の手を休める。
お?……もしかしたらオレの腕組みモードを防御特化態勢とかって誤解したかも。
腕組みから《炎》オーブの射出準備へ……ピクッと反応し一歩踏み出す《サワヤマ》。
再び腕組みへ……警戒して足を止める《サワヤマ》。
警戒しとる!いける!心理戦だ!
膠着状態かと思わせといて……行けぃ!スパ太ぁ!死角から奇襲じゃあ!
ちっ!消えた……読まれてた! 蜃気楼め……。
潜伏回避する《サワヤマ》の……出現予測点はあそこか!疑似魔法発射!!
グレネード二連発じゃあ!って射出速度が遅すぎる!
せめて爆発範囲に……ダメか!避けられた! てか余裕で避けられた!
反撃が……来た!……回避ぃぃ!アカン!パロ助頼むぅぅ!
……などといった展開を、この後しばらく繰り返した。
背中をバッサリ切られて離脱するまでの記憶だ。
……思い返せば……オレが戦闘に参加してた時って明らかにお荷物だったよな……。
回避能力も命中能力も戦術判断も著しく低いオレは、感知網による圧倒的優位を持ってしても「本気」モードの《サワヤマ》に歯が立たなかった。
オレのお守りをしながら越境者と戦闘する羽目になった使い魔ズにとっては、無能なクセに現場介入して足を引っ張ってくる典型的なダメ上司のようなものだっただろう。……正直すまん。
この戦闘データは忘れたい記憶になりそうだ……。
さて、と。それはともかくとしてだ。
優秀な使い魔ズによって現状は勝利目前なのです。
問題はヤツの超高速回復だが、その要素を含めても戦闘に勝利する手段は《エー・エー》の太鼓判でいくつも立案済みだ。高速回復を繰り返す度にスタミナの落ちていくデメリットを晒け出した《サワヤマ》に戦況を引っくり返す力は残って無い。
隠し玉があるかもって?……その点については心配していない。
同時にアマエラの様子も観測していたからだ。
反則スレスレだが……オレと《サワヤマ》の戦闘結果によって変動する利益計算を必死に行っているであろうアマエラは無防備で情報の宝庫だった。
《サワヤマ》の実力と能力を良く知るアマエラは、戦闘が進むにつれてオレの心配をしなくなった。背中に一太刀浴びせられているのにも関わらずだ。
クルクルと顔色を変える彼女の反応を分析した《エー・エー》が弾き出した答えは「敵に余力無し」、だ。
万が一を懸念するとすれば……《サワヤマ》の急襲を感知出来なかった点だ。
つまり、未知なるスキルによる更なる越境者の登場を警戒している。
ところがどっこい、理屈は不明だが、その場合の対策も済んでいた。感知については《エー・エー》先生が対応済みとのことだ。
スキルに影響されない感知方法を確立したのかな? どうやって感知するのか戦闘が終わったら聞いてみよう。そんな事を考えるくらいに余裕がある。
主戦術の蜃気楼に対する感知網をフィードバックした使い魔ズは完全に戦況を支配していて、むしろ大分前からオレの指示で手を抜いている。
対して劣勢にも屈せずに規格外の魔導兵と戦闘を継続する《サワヤマ》の表情は、疲労と屈辱と焦燥で塗り潰されて……あれ?……なんかちょっとカッコいいじゃねーか……何でも絵になるなあイケメンはよぉ。
泣けばいいのに……クソガキめ。
とにかく《エー・エー》によるデータ収集も完了した。これ以上戦闘を引き伸ばす必要も無い。
ぼちぼちかな……。
落とし所を決めないとな……。




