VS.《サワヤマ》 ①
オレ《ゴトー》はいきなり腹を刺されました……。
初対面の人間に平気で刃物を突き刺すようなヤツは死ねばいいと思います。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「な!?……《サワヤマ》っ!!……いけない……《ゴトー》殿!早く回復しないとっ!!」
『緊急事態です:回復オーブの速やかな発動を進言です《使役者》』
頭の外と中で奇妙にシンクロしたアマエラの悲鳴と《エー・エー》の進言を聞き流してオレは考えていた。
①
すげえ痛い。でも致命傷ではない。たぶん《サワヤマ》は手加減している。オレを殺すつもりなら眉間や心臓に“物干し竿”を突き立てていれば済んでるからだ。目的は別だ。
②
では目的はなんだ。何故刺された? おそらくさっき感じた直感が正しい。これはマウンティングだ。つまりコイツは自分のテリトリーに侵入してきた異分子に歯を剥き出してキャッキャッ威嚇するボス猿だ。
③
そしてコイツはアマエラに気がある。嫉妬だな。「オレの女にちょっかいかけてんじゃねーテメー」ってヤツだ。
④
さらにオレのステータスをチェックして「弱い」「カス」と言った。上から目線の優越感だ。「よえークセにいきがってんじゃねえ」と示威的に攻撃したクソ野郎だ。
⑤
結論としてコイツはオレをシメに来たんだ。それも流血を伴う異世界流儀で。オレを圧倒的弱者と見なして余裕ぶっこいてる。だからわざとインターバルをとって回復するのを待ってる。そして反撃してくるのを待ち構えている。もっと徹底的にアマエラの前で格好つけてシメたいからだ。その証拠に超ニヤニヤして見下してやがる。
⑥
腹の痛みと経験したことのない暴力に晒されて恐怖に縮こまったのは一瞬だった。オレの精神は『ジー・エー』の魔物料理でステータスアップしている。恐怖を上回る怒りが込み上げて抑えきれない。ゴブリン達を殺したときにように好戦的な精神状態になっている。……よし。やってやるぞクソガキめ。
思考をまとめながら驚きがあった。
腹の激痛に倒れそうだったクセに、我ながら余裕がある。
心の整理作業を行った際に精神が回復しているからだ。
どうやらオレは危機に際して成長したらしい。
ついさっき《思索生知》というスキルが頭に浮かんだ。
オレはそれを受け入れた。
突然現れた同郷の青年に刺された精神的なショックと、“物干し竿”に穴を開けられた腹の肉体的なダメージ、そして自身の強化された直感を信じる事が出来なかった後悔が混ぜ合わさって、オレの頭と心をパニックに突き落とした。そのパニックを超越すべく緊急避難的に染み付いた心の整理作業を行ったことで、オレの習慣に過ぎなかったルーティーンがスキルへと昇華して発現したらしい。
異世界で転生復活したオレは体と精神を繋ぐ因子が《霊力因子》から《魔力因子》へと変わっている。魔力を感知しスキルを使用するだけでなく、ついに新しいスキルを産み出してしまった。高速強化された心の整理作業を行い、さらに追加で精神状態を《平静》に戻す効果と魔力の回復を行う効果を発揮するスキル。気持ちの弱さを欠点として抱えていたオレ専用のスキル。
それが《思索生知》だ。
おかげでパニック状態だった心も安定、魔力も充実。視野も広い。ああ、顔面蒼白なアマエラがマジで心配そうにオレを見てるな。《サワヤマ》のクソ野郎は相変わらずニヤついてオレを観察してる。頭の中もクリアで回りがよく見える。
なんというご都合主義なのか。スキルってこうやって覚えるもんか?
『スキル《思索生知》取得を報告です:アーテラにおける星幽体の成長はスキルの取得と同義です:困難の超越体験が経験値です使役者』
このピンチな状況がオレを成長させたってか。なんか……サ○ヤ人みたいだな。そう思ったら笑ってしまった。
腹を刺されて血を垂れ流しながら笑ってるオレを見てアマエラが凍りついてる。
明らかに余裕を取り戻したオレの状況を察したのか《サワヤマ》の顔色も変わった。
ひたすらに頭を下げてヤツの優越感を満たしてやり、弱者としてやり過ごすプランも充分に計算できたハズだが……これでそうはいかなくなったかな。てゆーかそんなもんクソ食らえだが。
回復して立ち上がるのを待ってるんだろ? いいよ。やってやる。
オレは結界オーブを重ねがけしてから回復オーブを発動して立ち上がる。
ギンっ!
予想どおり《サワヤマ》から飛んできた追撃を、体の周囲に展開した物理結界が弾き飛ばした。
どうやらオレの太股を狙ったらしい。
さっきはまったく感知出来なかったが、サワヤマの手元と“物干し竿”が蜃気楼のように歪んだ瞬間に攻撃が来たのをはっきりと見た。
立ち上がろうとしたオレの不意をついて足を突き刺し、無様に転がる姿を見て笑うつもりだったんだろう?
クソ野郎のやりそうなことで見え見えだよ。防いでやったぞザマーみろ。
凄まじいスピードで傷口を回復しながら追撃をいなして立ち上がってやったことがよっぽど気に障ったのか、《サワヤマ》の端正な顔が怒りに歪んできた。
おーおー、大分ピキピキ来てるな。……よしオマケだ。
『アマエラさん。少々彼と遊びますので、下がっていてください。私は貴女に被害を及ぼすつもりはありませんが、彼がヘマをするかも知れませんのでね。』
安っぽい挑発だが、思いっきり憎たらしく言ってやった。
《サワヤマ》の顔面は癇癪を起こした頭の悪い幼児のように真っ赤になってる。
さっきまでの優越感満載のニヤケ顔はどうしたよクソガキくん。
越境者であるオマエがどのくらい強いかわからんが……オレも考えうる限りの自己武装と強化を《ラボ》でやってきたんだ。
やってやる。いきなり人の土手っ腹に風穴を開けたりしたらどんな報いがあるのか叩き込んでやる。
開戦だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……なんなんだよ!てめえええ!!」
《サワヤマ》の怒りの咆哮を避けるように後方に距離を取りながら《エー・エー》と緊急ミーティングを行う。
さっきの攻撃の感知は可能か?
『A:解析完了です:空間跳躍スキル《蜃気楼》を行使した攻撃を確認です:感知網作成まであと2回の観測が必要です使役者』
空間跳躍?……《ラボ》のような異次元を通過して空間を飛ばすってことか? 思考するオレの意識を《サワヤマ》の雄叫びが引き戻す。
「……クソみたいなぁ!ステータスのクセによおぉ!」
咆哮と共に《サワヤマ》が“物干し竿”を振るった。
手元に《蜃気楼》が発動して揺らめく。
ガギンっ!
その瞬間、オレの周囲に展開した物理結界に斬撃が襲来する。そして結界はあっさりと切り裂かれ壊された。
マジかよ!?……念のために最大出力で展開した物理結界だったのに……。
“物干し竿”の攻撃がヤバそうなのは覚悟してたが、まさか一撃で結界が破壊されるなんて!
そして《義足》の全力の跳躍で確保した20m程の距離が何の意味も持たなかったことに驚愕した。
わかっていた事ではあるが……コイツ……やっぱり無茶苦茶強い。
クソガキでも越境者ってことかよ……!
だがオレは負けたくない!
攻撃の直後、結界が破壊される寸前に蜃気楼を纏った袈裟斬りの斬撃が目の前の空間から飛んできたのを確認出来た。
空間跳躍スキルは厄介だが……斬撃は目の前に現れる。見えないワケじゃない。
感知網を作るためにあと1回攻撃を避けないと……!
もう1回全力で結界を張れば《エー・エー》が感知網を完成させる。そしたらこっちのターンだからなクソガキめ……。
反撃を計算するオレを嘲笑うかのように、20m先で《サワヤマ》が再び攻撃体制に入った。
ゆったりとした動作で大きく“物干し竿”を振りかぶっている。
追撃が来る……。
『緊急事態!』
突然《エー・エー》の警告が鳴り響く。
何だ!?
《サワヤマ》が構えた。顔中に光るタトゥーのような紋様が浮かび上がっている?
「もう死んでもぉ!いいんじゃないすかねぇ《ゴトー》さんよぉっ!!……ぶった斬ってやるよおぉぉっ!!」
“物干し竿”が放つ魔力の桁が跳ね上がった?……。
瞬間的に結界ごと真っ二つにされるイメージが脳髄を打つ。
ヤバイ! かなりヤバイ攻撃が来る!
全開の結界でもダメかもしれない……が、やるしかないっ!
高速で左に跳躍して回避しながら結界をMAXで展開する!
ハアアアアっ!
「食らえよぉっ!!《鬼神・次元断っ》!!」
《サワヤマ》が“物干し竿”を《蜃気楼》に向けて振り抜いた。
一瞬後に、全力で回避したオレの眼前に、鬼神の怒りを体現したような猛々しく長大な蜃気楼の刃が出現した。
回避先を読まれて狙い撃ちされた!?……ヤバイっ!!
ギャギャギャーン!
何かが防御した音が響いた。
我ながら情けないが……目の前に斬撃を確認した瞬間に目を閉じてしまったので何が防いだのかわからなかった。
オレは……斬られていない。結界も健在だった。
チューーん!
蜃気楼の斬撃に立ち塞がって《サワヤマ》の攻撃を防いだモノは……白い羽をパタパタと羽ばたかせてオレの頭の上にちょこんと着地した。
妙なポーズを決めるのが趣味の《ラボ》で創成した使い魔コンビの1体……。
パロ助!……お前が守ってくれたのか!?
チュチューん!
頭の上にいるので姿は見れないが……何となくまた奇妙なポーズを決めている気がした……。
はは……さすが防御特化型魔導兵……。
マジで助かったよ……ありがとうパロ助!




