至高の食卓
オレ《ゴトー》は、使い魔と《ラボ》の番人となるゴーレム達を創成しました。
これで全ての準備を終えたオレは《ラボ》から帰還し《南ヤーマーナ村》を目指すのですが……。
《ラボ》の料理番による食事提供を受けてから帰ることにしました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
えっと……じゃあ台所事情に合わせて適当におまかせで。
【ジー・エー】から調理のリクエストを求められたオレは、『ゴトー家的模範解答ランキング第3位』の回答をした。……ちなみに『晩御飯は何がいい?』と聞かれて『○○がいい』と答えるのは悪手である。作る献立は大筋決まっており、こちらへの問いかけはあくまで意見の補助になるものだけを求めて行われるものだ。横から口出しするなど言語道断。それが食卓事情というものである。
『かしこまりました』
そう言って【ジー・エー】は【隠蔽した飾り窓】の中へと背中のマジックアームを伸ばしていった。【隠蔽した飾り窓】の中には《創成の魔王》が使っていた素材が大量にあるが、その中には食材のエリアがある。肉や野菜などの食材がストックされているのだ。しかも冷やされた状態で。
氷などと一緒に保存しているのか、それとも冷蔵庫のような道具を創成して一緒に保管してあるのかと思ったが、【エー・エー】に聞いた答えはもっとシンプルだった。
『状態の維持』だった。
つまり【隠蔽した飾り窓】の中は時間経過が無いのだ。中に入れたモノは入れた瞬間の状態を維持している。熱いものは熱いまま、凍ったものは凍ったままってことだ。
もしかしたら生きたものは生きたまま保管出来るのかな?、というオレの素朴な疑問は【エー・エー】に否定された。
【隠蔽した飾り窓】へ保管出来るモノの条件は物質体であることだったからだ。精神や命を構築する星幽体は収納出来ない。なので生きたものは保管出来ないってことだった。
この辺りの仕組みは、ものすごく作為的な感覚があるし、何かしらの意図を感じるのだが……。
残念ながら……《創成の魔王》ヴィシュバー・クルマーンのことはあまり解らない。
おそらくヴィシュバーに関しての情報を誰よりも持っているはずの、補佐として使役されていた道具である【エー・エー】こと【識者たる指揮者】が……この件に関しては全く生きた情報を持っていないからだ。
ヴィシュバーから受け継いだスキルの説明や素材の解説などは出来るのだが、ヴィシュバーが何をしていたか? ヴィシュバーにどんな補佐をしたか? などの情報が欠落しているのだ。どうやら使役者変更の際に【エー・エー】の記憶情報から削除されるようなプログラムが組まれていたらしい。
まあ当然だけどね……自分を殺して大事な道具を奪ったヤツなんかに自分の情報なんて与えたくないもんな。
でも……それならば。
何故……魔王は、【エー・エー】達を使用不能にしたり、破壊するようなプログラムを組まなかったのだろう?
そう考えたオレの頭には……二つの回答しか浮かばなかった。
1つは……100年かけて用意した道具達を壊せないほど大切に思っていたから。
もう1つは……いつか自分の手で取り返すことを想定しているから。
そう考えてオレの背筋は凍りついた。
だって……いかにも前者は善人の考え、後者は悪人の考えって感じじゃないか。
魔王とは。善人か?……はたまた悪人か?。
どっちかと想像して……ちょっと怖くなってしまった。
なんたって蘇生魔法すら存在するファンタジーな異世界だ。死んだ魔王が復活することはあり得ない……なんてどうして言える?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オレがそんなことを考えてる間にも、【ジー・エー】はガシガシとマジックアームを展開し【隠蔽した飾り窓】から取り出した食材を消費して調理を進めている。
【ジー・エー】が使っているのは、我が家のリフォームしたてのアイランドキッチンを模倣して創成した【ジー・エー】専用のキッチンテーブルだ。
【エー・エー】サイドの奥のスペースを占有している。
さっき【エー・エー】と相談しながら創成したものだ。
実は……アーテラ時間にして5時間ほどかけて創成しまくったのだ。
……ちょっと凝りすぎたかもしれない。
火力調節の可能な3口のコンロにオーブン、さらには大型のシンクに給水口と排水口、ゴミ処理のディスポーザーまで創成した。
ここには当然、水道もガスも電気も無いので、ライフラインに変わるものとして火や水の属性を持った魔石などの希少素材も惜しみ無く使用して可能な限り再現した。
オレはこのアイランドキッチンを完成させるために、本体に各パーツを組み合わせていく方式で創成したので、大小様々なパーツを創成しなくてはいけなかった。以前なら魔力回復ポーションをがぶ飲みしてるところかもな。
だんだん感覚として解ってきたのだが、道具支配で道具を使用するのにはほとんど魔力を消費しないのだが、創造主で道具を創成するのはかなり魔力を消費する。
それも創成する道具のランクに依存しているようで、希少素材を使用して高ランクの道具を創成した時はごっそり魔力が持っていかれる感覚がある。
電池式魔力放出装置を装備した今では問題ないが、自身の魔力だけならフラフラになってると思う。
それだけ手間も魔力も費やして造り上げたアイランドキッチンの完成度に気を良くしたオレは、ついでとばかりにミキサーのような調理機械、フライパンや包丁などの調理器具、果ては皿やコップの食器類まで、凝りに凝って創成しまくった。
排水口とディスポーザーの出口も用意した。
全ては『旨いメシ』を食うためだ。
『食』は何よりも大事だもんな。
おかげで【ラボ】の片隅が完全に調理場へと変わってしまった。
反対側は飾り鎧と絶骨くんでスペースを占有したばっかりだから、【エー・エー】の疑似精神がかなり嫌がっていたような気がするが……《所長》権限ってことで勘弁してもらおう。
あ、【ハチ】が絶骨くんの足元をガジガジしてる……【スパ太】【パロ助】は絶骨くんの眼窩から口腔をピョコピョコ通り抜けて遊んでるし……。
や、やめなさいオマエたち……。
でも……まあ絶骨くんだったら大丈夫か。
その時、待望の時が訪れた。
『お待たせいたしました。お食事の用意が出来ました。使役者』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オレは今、口一杯に食事を詰め込んでいる。
美味い。美味すぎる。
オレは夢中で貪るように食っていた。
飽食と美食の到達者の魂を受け継いだ【ジー・エー】の料理はさすがだった。
さっき食った甲殻類らしきもののクリームソースリゾットはヤバかった。
その前に食ったゼリー寄せになった白身魚と海老っぽいのも。
合間に食ってる薫製されたサーモンみたいなのと貝柱みたいなのにムース状のソースがかかったヤツも絶品だ。
そして今食ってる牛肉っぽいヤツのフィレステーキに酸味のある香り高いソースがかかったコレなんて究極です……。
思い返せば、オレが人生で一番奮発した一番美味い料理は、プロポーズした時に嫁さんと二人で食べにいったやつだ。
確か高級ホテルの最上階にテナントで入ってた、夜景が有名な高級レストランで食べた料理だったが……。
綺麗な夜景を背景にして潤んだ瞳で『はい』と言った嫁さんの最高に可愛い泣き笑いの顔、という美しい思い出をプラスしても……。
全然こっちの方が美味いね!
てゆーかダンチだね!
いやマジ段違いに美味いわ……。
あっちに帰れた時に嫁さんの手料理に微妙なリアクションをしてしまいそうで怖い……。【ジー・エー】に頼んでもうちょっと庶民的な味付けの料理にして貰おうかな……。
もうひとつ怖いのは……今食べてる料理の材料の全てが「ぽい」とか「みたいな」がつくモノだということだ。
オレはあえて【ジー・エー】の食材説明を聞かなかった。
説明の一番頭にあった『使役者に食べていただく記念すべき最初の料理ですので、美食の魔王グリゴリアリズムが《至高の食卓》に認定した魔物料理をご用意させて……』のくだりで、全力でストップをかけたからだ。
だって……『魔物料理』だぜ?。
ちょっとしたゲテモノ料理すら苦手なオレですよ。
そんなオレが、どんな魔物の素材が料理に使われているのかを聞いてしまったら……食えなくなってしまいそうだったから聞くのをやめた。
知らない方が幸せだってことが人生にはあるものだ。
オレは無知の自由を謳歌して、《至高の食卓》を平らげにかかった。
はぁ~……うめえ……最高っす……。
あ、【ジー・エー】……お酒とかって……ある?
え?……そんなに色々あるの?
……今だけは現実逃避することをオレは決めた。




