表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/47

アマエラの回想 1

 私はアマエラ・ポリーシュ。


 「ケウシプス王国」の「紫」で部隊長を拝命している者だ。


 私は先日、「異世界門」出現の神託を受けて「ヤーマーナの森」一帯の捜索任務に当たっていた。


 私が隊員に先んじて「ゴトー」を発見したのは偶然の産物だ。


 この場所は、故郷の「南ヤーマーナ村」が近くにあった。

 私は捜索の合間に立ち寄ったのだ。

 任務を中断してまで故郷に寄った理由は……逃避だった。


 私の任務は密偵と暗殺が主だ。


 そして今は越境者(ボーダー)「サワヤマ」の情人という任務にも就いている。


 私は「ケウシプス」に忠誠を誓った身だが、密偵のプレッシャーに、暗殺の後ろめたさに、「サワヤマ」の性癖の酷さに……心が限界を迎えた。

 

 私は疲れてしまった。


 私は逃避したかった。


 勿論、任務から逃避するという意味ではない。


 ほんの少しだけ……私の天使アマンダに、故郷の妹に会って癒されたかっただけだった。


 私はアサシンの職業(ジョブ)についてから一度も故郷に帰っていなかった。一人しかいない私の家族を危険から遠ざけるためだ。


 密偵は家族を狙われる。アマンダを危険に曝したくはなかった。


 しかし、故郷の近くで行われる今回の任務は……私の心のたがを外してしまった。


 私が帰らなくなってからアマンダは一人になってしまった。

 あの子も16歳になったはずだ。

 皆に良くして貰っているだろうか。

 誰かいい相手が出来たりしているだろうか。

 元気にしているだろうか。

 一目でいいからアマンダの元気な姿を確認したかった。


 私は隠密行動スキルで姿を隠し……ひっそりと故郷の地に足を踏み入れた。


 故郷で見たものは、森の亜人ゴブリンの一団による襲撃で傷ついた人々と、アマンダが拐われてもぬけの殻となった私たちの家だった。


 私はアマンダを探して森の中を駆けた。妹が拐われてからそれほど時間は経っていない。


 まだ間に合うはずだ。


 間に合わなければ……。


 森の亜人ゴブリンは、人族の女を拐って集団で犯し、最後は殺す。

 そんなことは絶対に許さない……。

 私のスキルなら誘き出して倒すことも出来るはずだ……。

 逃がさないわ……森の亜人。


 しかしその時。


 私は……上空に輝く「異世界門」が出現するのを発見してしまった。


 妹の命を救うための時間が、任務への忠誠によって削られる。

 歯噛みした私は「異世界門」を睨み付けた。


 ……何かがおかしかった。


 「サワヤマ」や「ユリコ」の時は、神々しい光と「導きの三柱神」の御言葉と共に越境者が降臨してくるのをこの目で見た。


 今回は……まるで打ち捨てられたように僅かの光を纏って異世界人が降臨し「異世界門」は一瞬で消えてしまった。


 それが「ゴトー」、異端の越境者(ボーダー)との出会いだった。



 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 私はアマンダを助けたい。

 しかし越境者も確保しなければならない。


 葛藤していると、異世界門から落ちてきた男が動き出した。

 私は隠密行動スキルを発動し身を隠す。


 彼は……異様だった。


 異世界門での試練を超えた越境者は「導きの神衣」を身に纏っているはずなのに……彼はボロボロの衣を纏っている。

 北の山脈の亜人ドワーフのような髭面で、歳も若くは無さそうだ。

 何より……腕と足が片方ずつ無かった。


 |越境者「ボーダー」となる異世界人は、若く美しく才能に溢れた若者であるという共通点がある。


 目の前の男は違う。


 これは……「堕とされた者」なのではないか。


 私も初めて見たが、まれに「異世界門」から、神の気まぐれか、希少スキルを持てない異世界人が()()()()()ことがあるらしい。


 「導きの神衣」に守られていない「堕とされた者」は、すぐに命を落とすか、裏社会に飲み込まれて消えてしまうという。


 ならば……申し訳ないが……森の亜人を誘き出す餌にさせてもらう。


 私は隠密行動スキルの「擬態・狼の遠吠え」を使い、森の亜人へとメッセージを送った。


『変ワッタ道具ヲ持ッタ人間ガ、神ノ門カラ森ニ落チテキタゾ!』


 「狼の言葉」で森の獣たちに情報を拡散する。

 森の亜人は獣の言葉を理解する。

 これなら……人間の物をコレクションしたがる森の亜人を釣ることが出来るはずだ。

 そしてやって来た亜人から、妹を拐った亜人の手がかりを見つけ出してやる……。


 その時、異世界の男が変貌した。


 彼は宙を見据え、何かブツブツと話し、キョロキョロと何かを探し、そして近くにあった銀色の棒を手に取った。


 男の目が赤く輝いた。


 しばらくすると……光り輝く魔法陣が()()()出現して、足を召喚した!?


 召喚スキルかも知れないが……触媒も使わずに、何もない空間に魔法陣を描くなど有り得ないことだ……。


 この男は……何かがおかしい。

 

 その時、私のメッセージにおびき寄せられた森の亜人が近付いてくる気配を感じた。


 同じく気配を悟ったのか、足を召喚した男は続けざまに……見たこともない変わった形の異世界の武器、おそらく|専用兵器「べー・ウエポン」を起動し、悪魔のような腕も召喚した。


 信じられない早業だった。


 しかし隠密行動の心得はないようだ。


 現れた|大猪「バイア」とゴブリンにあっさりと発見され……木の上に追い詰められたまま動けなくなっている。


 バイアもゴブリンも普通の人間では勝てない相手だが、攻撃スキルを使えばそんなに難しい相手ではない。


 この異世界人はもしかしたら攻撃スキルも持たないのか?……あの|専用兵器「べー・ウエポン」を使わないのだろうか?

 もしかして……恐怖に動けなくなっている?


 そう思った私の目の前に……少女が引きずり出された。


 虐げられたアマンダだった。


 隠密行動スキルの「平静」を使って、殺意が暴れだす心を必死に静める。

 まだ生きている。ならば治せる。

 「ユリコ」ならば……すべての怪我も、もしかしたら命までも治してくれるかもしれないーー私が彼女の要求に答えることが出来るならばーーだが……後の事は何とかなる。今はとにかくアマンダを助けなければ。


 だが私の暗殺術スキルは正面からの戦闘には向かない。今は耐えて、異世界人の動向を見定めなければならない。


 この異世界人がアマンダの命を守るために動くとは限らない。私は……異世界人のエゴと冷酷さをよく知っている。


 木の上にへばりついたまま恐怖に震えているこの情けない中年の男は……アマンダを助けてくれるとは思えないし信用できない。


 自分を抑えて状況の観察を続ける私の目の前で……アマンダが拷問された。

 木にへばりついた情けない男を挑発するために、アマンダの細く白い太股にナイフが突き立てられた。


 『!!?!』


 「平静」の効果を超える怒りに頭の中が焼き切れた。


 しかし、飛び出しかけた私より先に……異世界人が飛び降りた。


 木にへばりついた情けない中年だったハズの男の表情は……怒っているようだった。


 一瞬の出来事だった。


 殺意に輝いた鋭い眼光で森の亜人達を睨み付けた異世界人の男が動いた。


 禍々しく変化した足でゴブリンの1体を蹴り殺した。

 見えない一撃でゴブリンは消し飛んだ。


 さらに悪魔のような巨大な手でゴブリン2体を叩き潰した。

 悪魔の手を振り上げた瞬間までしか見えなかった。


 そして、次の瞬間には暴れだすバイアを|専用兵器「べー・ウエポン」の光の輪でバラバラに切り裂いた。


 あまりの戦闘力に恐れをなしたのか、ゴブリンのリーダーが、アマンダを放り出して逃げ出した。


 必死に逃げる亜人が遠ざかり、見逃したのかと思ったその時。


 異世界人は、|専用兵器「べー・ウエポン」から放たれた極大の光輪で森ごと最後の亜人を吹き飛ばした……。


 地形が変わるほどの一撃だった。


 ……ば……化け物か……。


 今度は私が恐怖に震えて木の上にへばりつく番となった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ