王国の庇護
オレ「ゴトー」は、助けた少女の回復を待つ間に、異世界の女暗殺者とコミュニケーションを取っています。
彼女はオレを勧誘したいらしいのですが……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《ケウシプス王国》の女暗殺者アマエラの話で衝撃だったのは、越境者に関する情報だった。
彼女が仕える「ケウシプス王国」を含めたアーテラの国々には、ずいぶん昔から異世界ベーテラよりやって来る越境者の伝説があったらしい。
最近まで伝説だけだと思われていたが、15年ほど前に突然、その伝説の越境者が現れた。
それも次々とだ。
アーテラの為政者にとって、転移してきた異世界人は、驚異的な戦力を有した異分子だった。
幾度かの衝突を経て、敵対するよりも取り込むことで活用しようとする流れが生まれたそうだ。
何しろ彼らはこの世界に無いような強力無比なスキルや魔法を駆使する者達で、しかも例外なくそれぞれが超性能の専用兵器を所持しているらしい。
異世界より現れる脅威に対し、アーテラに存在する有力な国家は協定を結び、統一した「取扱説明書」を作成した。
それが越境者の始まりだった。
彼らの中には欲望に忠実な者もおり、報酬と引き換えに大国に士官なり契約なりして戦場に立つこともあるという。
現在では越境者抜きの国家間戦争などあり得ないそうだ。
……いや、戦争に荷担してるのかよ越境者……。
そして契約している使役者の数と質が国力のバロメーターにすらなっているらしい。
だから新しい越境者が世界に出現したことが知れたら、競い合うように「王国の庇護」という契約を結び独占しようと狙うってことだ。
今回アマエラがオレを見つけたのは、彼女が所属してるケウシプス王国と、新たに契約を結べそうな四人目の越境者を探すための神事を行った際に、神託を受けた大神官の要請により異世界人捜索の任務についていたからだった。……てことはオレも一応神託に出たってことなのかな。
アマエラの所属部隊は散開して任務についていたのだが、たまたま魔物に襲われた村の情報を得て状況確認に来ていたら、空に異世界門が開くのを見つけてオレを発見し、観察していた……ってのが経緯らしい。
オレ……空に開いた門から光の柱となって地上に降臨したんだとさ……海外ドラマの天使かよ……。
つまりオレはケウシプス王国という国の領内にあるヤーマーナの森という所に出現したのだ。
ちなみに「神託を告げた神」ってのがどの神様なのか興味があるが……やっぱり「導きの三柱神」なんだろうなあ……。
そんなこんなを説明してくれたのも、オレがその越境者予備軍である異世界人だからだ。
そして今、アマエラは情熱的に勧誘してくれてるのだが……油断ならない女だと思う。
アマエラはおそらく越境者予備軍と交渉慣れしてる。
「王国の庇護」を得るとどうなるのか。これがオレにとって何より重要なことだった。
アマエラは効果的にそのカードを切ってきた。
「王国の庇護」の契約により発行されたステータスカードは……いわば二つの世界を結ぶチケットだ。
「王国の庇護」を受けて、称号越境者を得たものだけが使えるようになるスキルがある。
スキル「異世界転移」だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アマエラの説明を受けながら【エー・エー】の補足で情報を整理した。
その中にこんな情報があった。
この世界は六つの要素で構成されているらしい。
「六大加護」だ。
よくある地水火風の四元素みたいなヤツかと思ったら、ちょっと違った。
「黒曜」は闇と混沌を示し加護する。
「黄曜」は光と始原を示し加護する。
「緑曜」は精霊と自然を示し加護する。
「紫曜」は魔と力を示し加護する。
「赤曜」は人と技を示し加護する。
「白曜」は精神と時間を示し加護する。
以上を持って六曜とする。
……ってことらしい。
6体の神様を頂点とする6つの勢力があって、信仰する人間を加護するってことだ。
国によっては六曜全ての信仰を認めるリベラルな国もあれば、一色に染まったガチガチの国もあるらしい。
アーテラでは、ほぼ全ての事柄の基準としてこの六曜が使われてるぐらいポピュラーな概念とのことで、例えばあっちの一週間のような月日の概念もこの六曜が使われている。
そして「王国の庇護」を受けた越境者のステータスカードには、この六曜のどれか1つが加護として書き込まれるらしい。
それがチケットだった。
その加護の記されたステータスカードを手に入れた越境者が、記された曜日にスキル「異世界転移」を発動すると……。
越境出来る。
それが「王国の庇護」「ステータスカード」「スキル異世界転移」の仕組みだった。
つまりオレが家族の元へ帰る手段は……。
「王国の庇護」を受けて称号「越境者」を獲得し、加護を書き込まれたステータスカードを手に入れることだ。
そしてアマエラがくすぐってきたのがまさにここだった。
「あなたもベーテラに戻る機会が欲しいのではない? 我がケウシプスで「王国の庇護」を得てスキルを取得してはどうですか? ちょっとした契約をして頂ければいいだけですのよ。」
色っぽい笑みをこぼしながら核心を突いてくる。
帰りたいヤツほど御しやすい構造になってるワケなんだなー。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ぶっちゃけ右も左も解らない異世界に転生して、ここがどこかすらも解らなかったオレに「王国の庇護」が貰えるチャンスを持って接触してきた人間がいるこの状況って、かなりラッキーな状況だと思うし……本当は小躍りしたい気分なのだが……迷っている。まずは確認だ。
【エー・エー】、さっき上級技能を隠蔽してオレのステータスは偽装されてるから能力証明の発行は問題ないんだよな?。ちなみに「擬装をしなかった場合」の結果って予測出来るのか?。
『A:問題発生と推定です:ステータスカードを取得出来ないだけでなく捕縛・投獄の対象になり得る事実を報告です』
え!? なんで!? どーゆーこと?
『A:《使役者》のステータスを提示します:確認を希望です』
突然|【エー・エー】がオレのイメージに映像化したステータスを表示した。
【タツキ・ゴトー:人間:40歳:ベーテラ人】
【職業=魔王の卵】
【状態=魔王の呪い】
【称号=魔王殺し 魔王の因子を持つ者】
【技能=創造主レベル10(MAX) 道具支配レベル10(MAX)】
【専用武器=刈り取る者(システムエラー)】
……なんだこれ……。
『上級技能創造主並びに道具支配は進化条件に《魔王の因子》の取得が存在と報告です』
『これはアーテラ国家群の広域共通情報において周知された情報と報告です:よって所持者である使役者は「魔王の因子を持つ者」として危険視される可能性が極大と報告です』
『アーテラにおいて「魔王」は忌避される存在と報告です:よって「魔王の卵」である者に「王国の庇護」は契約不可能と推定して報告です』
……しばし茫然としていた。あまりに不自然に固まっていたのでアマエラに不審がられた。
状態「魔王の呪い」だって……?
あの時、あのネズミ頭の「創成の魔王」を草刈り機でぶった切ってしまった時……嫌な感じがする「何か」をされたのは……呪いだったのか……?
そして呪われたオレは……「魔王の卵」とやらになってしまったらしい。
称号「魔王殺し」って……「魔王の卵」と相反してるってゆーか、矛盾してないか?
魔王の卵って……将来魔王になるヤツにある称号じゃない普通……なんでオレにあんの?
それに「システムエラー」の専用兵器って……やっぱりさっき進化させたこれのことだよなあ……? 刈り取る者なんて物々しい名前がいつの間にかついてるし……鎌じゃなくて草刈り機だぞ……。
「例外なくそれぞれが超性能の《専用兵器》を所持している」って話だったけど……オレのは……愛用してたけど……草刈り機かあ……聖剣とか魔槍とかまでは期待してなかったけどさあ……さすがに「エンジン式草刈り機」は……ファンタジーっぽくないなあ。「システムエラー」だからしょうがないのかな? でもまあ……オレっぽくていい……かな。
「どうかしましたか《ゴトー》殿……?」
おっとアマエラの前でボケーっとしすぎたヤバイヤバイ。
でもあまりに大事な情報が飛び込んできたんだ……。
「ちょっと混乱している。整理するから待ってくれ」……と例の調子で伝える。
混乱する頭で必死に考える。
① 魔王と関係があることは隠すべきだ。オレが転移してきた時「導きの三柱神」ですら関わることを避けてたし。とりあえずは隠蔽してスルーだ。問題がデカすぎる。
② 魔王関係者の証拠になってしまうステータスとスキルを隠蔽するとして……何か適当なスキルを上書きしないとなあ。そういえばさっきアマエラが「創成魔法!?」とか驚いてたな……。これでいこうかな。
③ オレの最優先はスキル「異世界転移」をゲットすることだ。それ以外は犠牲にしてもいい。そのために「王国の庇護」ゲットを行動目的とする。問題はどこで得るかだ。ケウシプスに行くか、それ以外の国へ行くか……。
④ 他国がオレに対してケウシプスより優しい保証はない。今のオレはアーテラ汎用言語も発音出来ない。1から交渉相手を探し、選び、【翻訳機】で対話する?……正直やってられない。
だからアマエラを利用してケウシプスで「王国の庇護」を得る。少女を救った実績も役に立つかもしれない。
状況をまとめてオレは決意した。
よし。オレはこれから……アマエラに嘘をつく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オレは目的を達成すべくアマエラと話し込んでいた。
その時だった。
少女を治療していた【治癒ボール】がプシューという音を立てながらドボドボとスライムの排出を始めた。
回復の終わった少女が目を覚ましたらしい。
少女が動き出すのを確認したオレは【エー・エー】の補佐を使ってサラサラとしたシルクのような布を創成した。実は素材はシルクと同じように虫の繭だが、カイコとは違う「魔甲虫」という魔物の繭で構成してある。耐刃効果が高いということでこの素材をチョイスした。この少女に、もう刃が突き立てられるようなことが無いように。そう願いを込めた。
ボールから吐き出された少女は……15歳か16歳くらいだろうか。
アマエラと同じ綺麗な金髪の美少女だった。
「大丈夫?」
突然の状況に驚いているのか、涙目になってオドオドしている少女に向けて優しく声をかけるアマエラの後ろから、なるべく少女の裸が目に入らないように気を使いながら創成した布をかけてあげる。
オレは10歳になる娘がいる紳士的なパパだ。年頃のお嬢さんに対して紳士的な振る舞いを行うのは当然のことです。
さりげなく体を覆う布を用意するジェントルマンなオレってどうですか? 高評価じゃないすか?……と表情の下にドヤ顔を隠してアマエラを見ると……またオレを性犯罪者を見るような眼で見ている。
え? なんで?……と思ったら……少女にかけてあげた創成品の布がセクシー下着のようにスケスケで、細い体のラインが露になっていた。
違う!
そんなつもりじゃないんだ!
顔が真っ赤になってそうなオレは、慌てて追加の布……今度は色付きの布を創成して少女に渡した。
大失敗だ……。
どうか、変態とかロリ○ンとか思われてませんよーに……。




