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配達人の黎明  作者: 穴澤 空@ドアマットヒロイン1巻発売中!


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二 新しい依頼02

「嘆いたところで、世界は変わりゃしねぇ」


 生き抜くことが目的の日々は、生き抜けなければ意味がなくなる。

 それなら、生きることなんてクソ食らえだろう。

 だからといって、自分から死ににいくつもりなんて、微塵もないけど。


 生きられる分だけ、生き延びられる分だけ、生きていく。

 それでいい。

 毎日同じように、どうにかこうにか生きていければ、それが全てだ。


 線路から見える左右には、代わり映えのない景色が続く。かつて人が暮らし、耕していた田畑の痕跡だけが、奇妙な足跡のように残るのも、珍しくはない。


 程なくして深谷駅跡に到着した。ひびの入ったコンクリの駅舎には、剥落したレンガ調のタイルが所々残っている。

 ゴーグルの表示に従い、駅舎の横に向かう。


「ここは、でっかい駅だったのか」


 線路の上に大きなコンクリートの建物がそびえる様は、圧巻だった。その駅前、階段の下にある時計の下に、荷は用意されている筈だ。


「なんだ、この人形」


 動かなくなった時計の下には、緑の頭から草が生えている人形が、置かれていた。おそらくは時刻にあわせて動いていたのだろう。その下に扉があり、そこに地下通路を通って運ばれてきている荷が置かれていた。


「タントウ/ホウジョウ・エメス――っと」


 改めて自分の名前であることを確認し、その荷を持ち上げる。

 ピピッと小さな音がした。


 国境線のなくなったチキュウ連邦。それを取りまとめる、壊れかけのシステム『クロノス』が、この荷の担当配達人である俺を、認識した音だ。


 最終目的地は山梨県山中湖。

 そこまでのルートが、ゴーグルに表示される。

 初めて行く場所だ。


「一度東京に出ないといけないのか」


 あちこちが瓦解していたり、海に沈んでいたり、隆起していたり、と、地形が大きく変わって久しい。

 それは今も唐突に変わるから、こうしてクロノスシステムからの情報で、最適なルートを示されないと、目的地に辿り着くことはできない。


「さてと。時間は有限だ。行くか」


 汚染された空気の中での移動は、空気清浄フィルターが命綱となる。七十二時間のリミット。すでに三十分は使っている。急がないといけない。

 愛車ケリュケイオンを軽く撫で、エンジンを入れる。


 次の目的地は四ツ谷駅だ。

 そこを経由し、新宿方向へと向かう必要があった。地図上だけなら、ここから新宿へそのまま向かえば近い。だがそうもいかないのが、今の地形の変動だった。


 鉄道跡や道路を通り、東京へ向かう。

 時折目に入る壁の落書きには、俺たち配達人への悪口が、大きく書かれていた。


 言葉にするのを憚られるような――別に俺はいくらでも口にできるが――悪口雑言の山だ。そんな悪口でも、石を投げつけられたりするより、落書き程度なら気にしなければ良いだけ。投げられた石で、目の端を切ったこともある身としては、しみじみとそう感じてしまう。それに、一方的な感情で殺された配達人も、過去には多くいた。


「荷が来なきゃ来ないで、困るくせになぁ」


 吐き捨てるように笑い、そう呟く。

 誰にどう思われようと、俺はただ荷を運ぶ。それだけだ。


 誰から誰へと渡されるかは重要ではない。

 何を運ぶかも、重要ではない。

 依頼をこなし、報酬として、生き延びるためのアイテムを得られれば、それで良いのだ。


「ま、生き延びたいのは誰も同じ、ってか」


 今この世界では、人は皆集まって集落を作る。そこから出ることはなく、肩を寄せ合い生きていた。

 それぞれの集落では、何かを作り譲り合って生きている。世の中は、遙か、遙か昔のように物々交換がメインの時代へと変わっていったのだ。


 その集落同士の荷の配達を請け負うのが、俺たち配達人。

 場所と場所の移動を頻繁にするから、病を運ぶだの、汚染を運ぶだの言われることもある。


「今のこの世界にいたら、どこにいても病からも汚染からも逃げられねぇのにな」


 戦争をおっぱじめた、各国の偉い奴らに憎しみを向ければいいものを。

 俺たちだって、好きでこんな世界に生きているわけじゃない。

 汚染されていない世界があったのだから、汚染させた奴らが悪いのに。


 左手に、大きな円柱の建物が現れる。

 割れた窓からは、中に何種類もの電車が飾られているのが見えた。あの電車たちが、この線路を走っていたのかもしれない、と思うと、不思議だ。


「ケリュケイオンも、電車みたいな気持ちになるか?」


 昔は、この国は鉄道大国なんて言われていたらしい。そんな国も、今やもう何も走っていない。道路も線路も、そこを走るのは移動を仕事にしている人間と、少ないエネルギーで走ることのできるバイクくらいだ。


 あの中にある電車のパーツは、おそらくすでに誰かが持ち去ったあとだろう。

 溶かすのにエネルギーを使う鉄でできた外側だけが、ああして残っている。それはそれで、悪くないような気もした。


そうこうしているうちに、白と黄色の入り交じった空気が強くなってくる。

 少し先が、靄でかすむ。

 だんだんと、日本エリア旧首都――東京が近付いてきたのだ。

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