↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配達人の黎明  作者: 穴澤 空@ドアマットヒロイン1巻発売中!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/25

十八 山越え01

 一夜の宿とさせて貰った公民館は、人の気配がなかった。

 ありがたく睡眠をとり、日が安定して昇った頃にそこを出る。


「四十八時間、経っちまったな」


 空気清浄フィルターのリミットは、あと二十四時間。

 出発当初の目論見とは全く違う展開に、少々焦ってしまう。


「ま、それでもあと丸一日あるし、どうにかなるだろ」


 だが、そんな楽観的な予測はまたしても裏切られる。

 大井松田より少し先の辺りから、道路が裂けていた。ゴーグルには、山中を進むように指示が出る。


「山越え、か。どのくらい時間がかかるか――」


 通信端末の時計を確認すると、山越えの時間は日が昇っている間に完了できそうだ。


「よし、腹一杯だろケリュケイオン。頼むぜ」


 ボディを撫で、先を見据える。

 枯れた木々が林立する山は、どこも獣道ですらないだろう。


 道なき道を辿る。

 それでも、辿り着くその先は決まっているのだ。


「荷を運ばねぇとな」


 気付けば俺は口の端をゆるりとあげ、笑っていた。


「こんな気分は久しぶりだ。髪を切ったからかな」


 エネルギーを満タンにしたケリュケイオンが、まるで獣の咆吼のように音を立てる。

 行くぞ。

 心の中でそう呟き、俺は山の中へと入っていった。



   ***



「ここの山はまた、一際きついな」


 大きく上下に跳ねる山道。

 駆け抜ける中で見える景色はグロテスクだ。

 樹皮が剥け奇妙にねじれた木は、まるで白骨した人の骨が、天に手を伸ばしているかのよう。それでいて、木の根元には収染キノコがびっしりと生えている。


 収染キノコは、汚染物質を吸い込むと言われていて、一時は多く取引されていた。だが、育て方を間違えると、溜め込んだ汚染物質を胞子と共に広めてしまうことが判明し、採取が禁止されたものだ。


 それでも、こいつらがいてくれるからか、山の中は空気清浄フィルターのランプも青い。

 汚染に対して適応し、生き延びてきた獣や鳥の死骸も、落ちている。それこそ本物の白骨だ。


 互いに食い荒らしたらしき跡が、骨からも見て取れる。

 大きさもまちまちだが、ケリュケイオンのボディほどもありそうなモノもあった。そんな奴らに出くわしてしまったら、それこそ死を覚悟するしかなくなる。


 そいつらが夜行性であることを祈り、ハンドルを握る手に力を入れた。


「さて、一気に抜けるか」


 太陽が中天にかかったことを確認し、俺は山越えにかかる時間を脳内で算出する。できるだけ早く、ここを抜けたい。

 そうして、ケリュケイオンを加速させたその瞬間。


「うわぁっ!」


 ケリュケイオンの車体が、大きく宙に舞う。

 スリップだ。


 俺は体をぴったりとケリュケイオンに着け、背を丸める。

 スリップで一瞬浮いた後は、ケリュケイオンの重さで重力に引き寄せられて、そのまま地面に落ちていく。


 ドスンドスンと嫌な音が頭に響く。

 斜面を擦るように俺たちは雪崩れ落ち、大きな木のようなものにぶつかった。

 地鳴りのような音が響く。


 ――滑落。


 その言葉を認識した瞬間、俺の視界は一気に闇に落ちたように暗くなった。



    ***



「う……っ、ぐ。い、てぇ」


 どれくらい気を失っていたのだろう。

 体の痛みで目を覚ますと、辺りは薄暗くなっていた。


 目玉だけをぎょろりと回せば、元々いたらしい場所から土や木が崩れていて、近くまで道ができていた。

 いや、道なんて言えないけど。


「あんな高けぇとこから、落ちたのか」


 生きていて良かった。じんわりとそんなことを思いながら、ゆっくりと体を起き上がらせてみる。

 ちょうどすぐ横にケリュケイオンがあったので、それを支えにした。体中を打ったらしく、あちこちが痛い。それでも、どこも折れたりはしていないようだ。


 若い頃ならそれでも跳ね起きてただろうが、今はゆっくり体を確認しながら起き上がる。 

 右足のふくらはぎの切り傷は、こんなときにも主張してきやがった。

 それでも、生きてる。


「……どうやら俺の体は、思ってるより頑丈で、生きるために腐心してるみたいだ」


 首を回してみるが、問題はなかった。変に首を捻っていたら面倒だから、一安心だ。

 空気清浄フィルターが口から外れていなかったのも、大きな救いだろう。これがなかったら、倒れている間に汚染された空気にやられて、死んでいたかもしれない。いくら収染キノコで空気が他よりもマシだからといっても、数時間もの間、屋外で空気清浄フィルターなしで人の肺がやられないということはない。外というのは、それだけ恐ろしい場所なのだ。


 それに、さっき見かけた獣や鳥の白骨死体。生きているあれに狙われて、襲われ、食われていたかもしれないのだ。それこそ無事で良かった。

 大きく息を吐く。


 体に密着している鞄も行方不明にはなっていない。荷が壊れていないか確認したが、箱は傷一つ付いていなかった。

 それにも安堵した。


「それにしても、太陽の位置が低いな」


 滑落前に中天にいた太陽は、大分西へと傾いている。

 木々の影が長く伸び、夕闇が迫っていた。


「今日、これ以上進むのは危険だ」


 ケリュケイオンを引き起こし、エンジンをかける。だが、一度大きな音を立てた後、すぐにその勢いは消えてしまった。


「え……まさか」


 何度かハンドルを回してみたり、電源をリセットしてみたりするが、ウンともスンとも言わない。表示パネルを確認しても、反応がない。


「お前ぇ。遂にイカれちまったのか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。