銀河系パトロール2時方向
ぼくは荷物をアルカ・エリュシオン号へと運んでいた。今回からセラフィーヌが参加することになったのでぼくがパイロットをやりながら彼女に航行の感触を掴んでもらおうと思っているのだ。セラフィーヌは艦長兼攻撃防御コントロール担当官を務める。よってアルカ・ソフィア号のパイロットはアテナ、攻撃防御コントロール担当官は艦長代理のクレアということになる。二つの箱舟でランデブー航行しながらマルのイオ級艦も付いて来るという形を取る。連絡はテレパシーで行う。
セラフィーヌはペルソナ時代に身に着けていたリュバン ドゥ シャネルのリングとネックレスを今身に着けている。衣類は白ばかり特注して買ったが熾天使らしい装いだ。
「セラフィーヌ、準備はいいかい?」
「初航行ですわね。いつでもよろしくてよ」
「エデン、ゼノディア星系惑星アレシオンでいいんだな?」
「ええドクター、2時方向はこの星の文明が一番高いですし、ルミナも思念を拾いやすいかと」
「了解」
「兵装展開、防御シールド展開しますわ」とセラフィーヌ。
(アルカ・ソフィア号、準備はいいか?)
(こちらもいいわよ)とソフィア。
(アテナ、しっかりついて来いよ)
(もちろんですとも)
(じゃ、行きますか。銀河系パトロール2時方向目標ゼノディア星系惑星アレシオン。ジャンプ!)
「マル、ミルル変な思念を拾えるか?」
「わるいものではないねー」とマル。
(ルミナ、なにか変わった思念は拾えるか?)
(特に落ち込んだ感じ以外悪いものはないわね、ただこの景色おかしいと思わない?)
(アレシオンの月が三分の一ほど欠けているな、それに他の惑星の衛星にも似た損傷がある)
(そうなのよ)
(通信回線開く。まずこの星の言語セットをエデンが作らないと)
(了解)
(ネリネ、大気成分と重力はどうなってる?)
(明らかに地球型惑星ですね。ただ酸素濃度が2%高くなっています。陸4割海6割です)
(ありがとう)
「エデン、アレシオンの様子はどうだ?」
「通信からこちらの出方を窺っていますね」
「じゃ、マル。いつものこんにちはーみなさんをやってくれる?」
「いいよー」
(あれしおんのみなさん、こんにちはー!)
「アレシオンは相当高度な文明ですから無暗に攻撃はしてこないでしょう。それに今の挨拶の思念は驚きを以て受け取られているようです」
(たいようけいのだいさんわくせいちきゅうからきましたー!)
「マルの思念はイメージを伴っていますから、確実に遠方から来た客だろうという受け取られ方が大半でしょう」
「そうだろうな」
「あなた、随分とこういうことに慣れていらっしゃるのね」とセラフィーヌ。
「場数を踏んでるからね」
「アルカ・ソフィア号もイオ級艦もこのアルカ・エリュシオン号も制御中枢がエデンということはエデンはマザーズのような一にして多、多にして一というシステムなのか?」
「はいその通りです。ですからどんな情報も同時にどの艦でも共有されます」
「お前、偉いな」
「えっへん」
「性格も同じだな。ところで自動翻訳ブレスレットに言語セットは入ったか?」
「はい、通信解析からほぼ100%の会話が可能です」
(ソフィアが挨拶するか?どうする?)
(あなたがやってもいいのよ?)
(わかった。ぼくが挨拶するね)
「こんにちは、惑星アレシオンの皆さん。私たちはここから遠く離れた銀河系の惑星から参りました、代表のイクです。私たちは『調停者』『夢紡ぐ者』『時の守人』『封印者』です。できれば交流のために着陸許可を頂きたいのですが」
「こんにちは、地球からいらした友人。私はゼノディア星系惑星アレシオンの連邦議長イリシアと申します。ぜひ当方も是非交流をしたく望んでおります。つきましては首都ヴァルネアの連邦宇宙港へご着陸ください」
さすがにこの星域きっての高度文明だけあって恒星間宇宙船の相手も手馴れてるかと思いながら静かに優雅に着陸すると、何か外がどよめいている様子。後ろから付いてきたアルカ・ソフィア号の時もそうだった。たぶん、アルカ・エリュシオン号は美しさで驚かれ、アルカ・ソフィア号は機体のエンブレムで知られていたと見るのが正しいか。
アレシオン星人はほとんどなくのっぺりとした黒目だけの目の大きな白灰色の肌をもつ人たちだった。
ぼくはいつもの万年白衣で後ろからやや6枚の翼を広げた神々しい白地に金の筋が入ったドレスを着たセラフィーヌがやや浮遊したまま滑るように続く。アルカ・ソフィア号からもソフィア、クレア、ルミナ、アテナ、ネリネが降りてきた。はっきり言ってセラフィーヌだけが文字通り一人浮いている。
ソフィアたちがぼくらの後ろに続いて隊列を組むと、出迎えの代表と思われる人と同じ形式の挨拶を交わした。こういうことは実は大事なのだ。郷に入っては郷に従えで、相手の星では相手のルールに則ることだ。これがトラブルを避けるまず第一の掟だ。こちらへと歩き出し、イリシア議長と話す。
「連邦議長を務めますイリシアと申します」
「地球から参りました『調停者』のイクと申します。私の右肩が『夢紡ぐ者』のマル、左は『時の守人』のクロノエル、翼のある者は『封印者』のセラフィーヌ、後ろの者たちはそれぞれ『調停者』です。以後お見知りおきを」
「実は『調停者』については浮遊交易自由都市アウレリア港の一件で私どもも存じておりまして、なにしろ往来のある自由都市ですから」
「そうでしたか。当時はぼくも黒いアルカ・ソフィア号に乗っていたのですが、今日はこちらの新しいアルカ・エリュシオン号で来たのです」
「カルゼグ星の黒鉄艦隊相手に単騎で実に見事な戦略だったと聞きおよんでおりますよ。その時のパイロットがイク殿ですか」
「はい、私です」
「やはりイク殿でしたか、先ほどの着陸でそうだろうと思っておりました。私もパイロットですがお見事です」
「イリシア殿もパイロットでしたか、それは嬉しいですね」
そうこうしていると大きな流線形の浮遊車が近づいて来て、イリシア議長を先頭に乗り込んで座席に座った。バスのようなこの大型浮遊車は滑るように走り出すと加速し、速度はもう軽く300km/hを超えているようだった。未来的な都市設計や交通機関、実に見事な文明だ。
大きなドーム型の建築物が見えてきた。どうやらあれが連邦議会議事堂のようだ。大型浮遊車はそこに着けるとドアが開いた。イリシア議長がどうぞこちらへと言いぼくたちは迎賓室へ通された。ちなみに大型車浮遊車から降りるとセラフィーヌは熾天使らしく翼を広げていて地面から数センチ浮いたままだし、ぼくの左肩のミルルはクロノエルの姿に実体化したまま女神的な雰囲気を醸し出していて、右肩には小さくてかわいいマルが座るという妙な一行だったが、そのまま部屋へ入った。




