死神の星
評議会議事堂で会食の後、評議会ヴァレリア議長が気になる情報を話してくれた。この先の10時方向のモルティス星系に死の惑星ゼノヴァ星があり、どんな生物も上陸すら適わないという。
別名死神の星と呼ばれるこの星は科学水準は非常に高かったのだが、侵略目的でウイルス兵器を開発した結果それが漏れて自滅した文明だという。
もしこの星にどこかの生物がジャンプして着陸したとすると、そのウイルスは宇宙各地に拡散することになるという話だ。
カルゼグ星のように惑星崩壊させれば簡単だが、生命が育つには適した環境だということなので、どうにかして惑星環境は保全したい気がする。ともかく気になるなら行ってみることだ。
評議会や観衆に見送られ離陸すると衛星軌道上へ到着した。みんなと相談した結果、やはり調査することに決まった。
「エデン、目標モルティス星系の惑星ゼノヴァ星衛星軌道」
「了解しましたマスター」
「兵装展開、防御シールド展開完了」とアテナ。
「行くよ、ジャンプ!」
「エデン、多目的ポッドを100個陸地と海に投下。ポッドは飛行しながら各地域の生体状況と環境情報を集めるんだ」
「了解、ドクター。投下します」
「ルミナ、思念は感じられる?」
「全くないわ」
「ソフィア、この星の歴史を調べてくれ」
「文明が滅びたのは5000年ほど前ね。高度な文明だったことはここからでも分かるわ。詳しくは降りないとだけど」
「ネリネ、この惑星のおよその大気成分と重力は?水と陸地の割合は?」
「窒素8割近く、酸素2割ですね。重力は1.2Gです。海6割で陸4割、地殻活動が地球のように継続中で雲が厚いですね」
「ありがとう」
「ポッドの結果が出るまで、お茶にしましょうか?」
「そうだな」
マルとミルルにクッキーを渡す。嬉しそうに両手で持って食べている。ぼくもクッキーを頬張る。
「マスター、ドクター、ポッドの調査結果が出ました。植物は種類が偏っていますが数十種存在、菌類と細菌類が存在しません。動物もおりません」
「ウイルスは?」
「それがウイルス変異体が海と陸から数十種検出されました」
「それだ!」
また違うクッキーをマルとミルルに渡す。
「おいひい」ともぐもぐするマル。
「マスター、ドクター、ポッド周辺のウィルス濃度が濃くなったようです」
「エネルギー元に反応するのか」
「エデン、ポッド周囲にに紫外線を出すようにしてくれ」
「了解です、ドクター」
「ドクター、ポッド周囲のウイルス濃度が減少しています」
雲が覆っている面積が広いから大気を通して地表に到達する紫外線でウイルスが死滅しない。なまじ植物が育っているからウイルスにとって居住環境としては悪くない。しかし動物が降り立つと感染する。植物が感染しない理由は、細胞壁と細胞膜に秘密がありそうだ。どの細胞壁や細胞膜のタンパク質が必ずしも感染を防げるというものではない。
RNAサイレンシングは、小分子RNAがガイドとなって相補的なタンパク質配列を持つメッセンジャーRNAを特異的に分解・抑制して、遺伝子発現を停止させる生体防御・制御機構だ。地球の動植物に普遍的にあり、ウイルス防御やウイルス遺伝子発現抑制や発生過程の制御に関与する仕組みだ。即ち、この星に現存する植物にはその機構があるということだ。
「エデン、抽出したウイルス変異体が細胞膜や細胞壁を破って侵入する機構を分解するRNAを持つウイルスを作れるか?」
「この星の植物の遺伝子サンプルとウイルス変異体からと、ウイルス変異体がこれから亜種に変異する可能性も踏まえて設計してみましょう」
マルとミルルに別なお菓子をあげる。もぐもぐ。
「ドクター、作成しました」
「なにをするの?」とソフィア。
「ちょっとした惑星殺菌みたいなものさ」
「マル、シュレディンガーズオラクルを惑星のウイルスに対して掛け続けてくれる?」
「いいよー」
「ポッドのウイルス反応はどうだ?」
「どのポッドもウイルスを検知できないレベルになっています」
「ミルル、マグネターで電磁波をこの惑星に掛けてもらえる?」
「いいわ」
「エデン、この惑星全周をくまなく回って紫外線を照射するんだ」
「了解です、これはウイルス除去ですね」
「そうだ」
「よし、次はエデンが作成した特性ウイルスをこの惑星にくまなく撒くぞ」
「了解しました」
「それから抽出した死神ウイルスの変異体を検知したらポッドが紫外線を出すように設定し、自動周回させる。ポッドの稼働時間はどれぐらいだ?」
「自動哨戒機みたいな発想ですね。ポッドは地球時間でおよそ数百年稼働するでしょう」
「これであとは魚とか動物とかを放てば完璧だが、まだ例のウイルスが残ってる可能性があるからウイルス耐性のある動物の自然発生を待つほかないな。ぼくらができるのはここまでだ」
ぼくらは一旦アルカディア星系エリシア星へとジャンプし、死神の星たるモルティス星系ゼノヴァ星に施した全てをヴァレリア議長に報告すると、驚嘆された。
「するとしばらくすれば入植可能な星になるというわけですか?」
「そうですね。本当は雲を払って紫外線照射してから新しい無効化RNAを散布できれば良かったのですが、そこまではできませんのでポッドに後を託しました。死神ウイルスを無効化できるウイルスがうまく作用するかどうかは実際に動物を放ってみないと分かりませんが、検知不能まで減らした後に紫外線照射をして無効化ウイルスを散布しましたので、現在ゼノヴァ星の植物は全て無効化ウイルスに感染しいる状態です」
「その無効化ウイルスのサンプルを分けていただけませんか?」
「ええ、結構ですよ、あなたがたの体に合うように改良すれば予防接種としても使えるでしょうし」
「本当に不可能を可能にしてしまう方々なのですね、あなた方は」
「いえ、至らぬことばかりですよ」
ぼくたちは首都ノクティアの宇宙港で無効化ウイルスのサンプルをエリシア星の研究者に手渡し、この星を後にした。
先生、ぼくたちは死神の星を蘇らせました。




