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 アルカ・ソフィア号の通称武道館にて。

 栗千代師匠とぼくは対峙したま動かなかった。傍目にはそう見えるが、そこには何百通りものやり取りが続いていた。先に動いたのはぼく。正眼からやや振り上げて栗千代師匠の間合いに入ると同時に師匠は受けたが、ぼくは光剣を突き離して師匠の懐に入り間合いを詰めて、師匠の光剣の束を取ると反時計回りに下へ捩じり逆手にしてもぎ取った。

「お見事!イク殿、これはどのような技で?」

「人間だった頃の無刀流、無刀取りっていうんだ」

「こんな技があったとは」

「ぼくも初めて出来た。栗千代師匠のおかげだ。ありがとう」

「いえ、拙者こそ見事な技を拝見し得難い経験となり申した」

「これからもご指導をお願いします、栗千代師匠」

「こちらこそ、今度は取らせませんぞ、イク殿」

ブリッジにて。

「いくがくりちよにかったー!」

「何ですとー!あの化け物に!」とアテナ。

「あの栗千代師匠に!」とネリネ。

「いや、たまたまさ。凡人だから稽古は続けるよ」

「あなた、何がどうなるとそんな結果が出せるの?」とソフィア。

「全くあなたはいつも他人の想像の斜め上を行くんだから」とクレア。

「私にも教えて教えて手取り足取り体取り!」とルミナ。

「いや、まだまだだ。ぼくは諦めがとても悪い方なんでね」

「やっぱり『王』だ!」全員がハモる。


 イオ級艦で栗千代師匠が改まっている。

「イク殿に授けたい奥義がござる」

「栗千代師匠、それってまさかあの火星の衛星フォボスとダイモスを真っ二つに斬り、地球の日付変更線に深い海溝を刻んだ技じゃないだろうな?」

「そのまさかでござる。イク殿なら必ずや受け継いでくれるものと拙者は信じておりまする」

「そんなこと栗千代師匠以外に出来るのか?」

「一朝一夕には出来申さん。しかし必ずや出来まする」

「できるのか、このぼくに」

鳳翔(ほうしょう)、それが拙者の技の名前でござる。鳳翔の斬撃を弧にして飛ばす技は応用が利きまする。飛ぶその様から名付け申した。光剣でも光剣双刃で使えるでござろう」

「分かった、その技を教えて欲しい」

「それでは早速稽古と参りましょう」

こうして稽古と言うよりもはや修業は続くのだった。


 栗千代師匠によると鳳翔が出るか否かは要は「気合」だそうで、「気」こそが要なのだと言う。師匠に光剣を空に向けて放ってもらったところきれいに鳳凰が翼を広げて飛ぶように光の弧が空に溶け、オーロラになった。きれいだな、などと呑気なことを思っている場合ではない。気合か、光剣の性質上出力を上げれは刀身は伸びる。それは物理法則だからで「気合」は物理ではない。こうか?こうか?とイオ級艦の空に向けて剣を放つが百回振ろうが一向に師匠のような弧は出ない。

「イク殿は死地に陥られたことがおありかな?」と栗千代が問う。

「人間の頃に何度かね」

「であるならばその時、是が非でも生きようと本能が叫んだのではありませぬか?」

「それはその通り。そうして何度かのバイク大事故でも無事に切り抜けてきた。病気は無理だったけど」

「その死地に入った感覚を持って一刀に生を込めるのでござる。理屈ではないのでござる。仲間を助けるために」

「やってみる。集中」

「ていっ!」

光剣の先から師匠に比べると随分小さめの弧が空へと羽ばたいて行った。

「そうでござるよ、その調子でござる!」

「集中、集中、仲間を助ける……とうっ!」

また小さめの弧がどこまでも青空に飛び立って行った。

「その調子で続けましょうぞ」

「おう!」

栗千代も横に並び、唱える。

「鳳翔!」

バカでかい弧が空を貫いて飛ぶ。

「鳳翔!」

ぼくの小さい弧が後を追う。

延々と修業は毎日続くのだった。

ある日、心が澄み渡った空のような凪いだ海のような穏やかで静かな心境になった時、仲間の顔が浮かんだ。守りたい者たち。守るんだ、生き抜くんだという一念が一点に収束した時、

「鳳翔!」

と繰り出した。その弧は師匠には及ばないが、確かにそれまでの小さな弧よりは遥かに大きかった。空にはオーロラが残った。

気付けば後ろで師匠が手を叩いていた。

「お見事!」

「イク殿にはこの栗千代、免許皆伝の印可を授けましょうぞ」

「ありがとう、栗千代師匠」

こうして前衛三人とも旅立つ準備は整った。アテナやネリネと違い、ぼくのような凡人でも磨けば高みに届くことを実感した修業だった。

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