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回収

早々にIK Android社に連絡を入れ、社屋の86階最上部にいる副社長兼研究所長のシャインに会いに行く。シャインのデスクの窓際には数本のひまわりの鉢植えがあって、何かシャインらしいなとみんなで大いに和んだ。そのあと、新しい情報を仕入れ、現状報告と今後の計画について一通り確認したあと、謎なアルカ・ソフィア号が異星人の高機動ロボットの制御部を持ち帰ったことが大々的に報じられて、やはり異星人の文明はあったと大騒ぎになっていることを知った。

これはマザーズが、徐々に地球軍のレベルと地球人の意識、もちろんこれは人類もアンドロイドも含むが、それらを加速させるための覚醒手段として上手く利用したのだろう。その必要性については以前にマザーズと話していたから、さほどの驚きはなかった。いくつかの経験を太陽系外で重ねてきたぼくたちにとって、肉体の枷に縛られた地球の進化はじりじりするほど呑気で遅れていることを痛感してきたからだ。


我々の4次元製ボディはともかく、宇宙空間でアンドロイドにどれだけ耐久性があるかということは、宇宙開発のみならず太陽系防衛に直結する課題だ。ゆえに、いかなる環境下でも稼働出来るアンドロイドが求められる時代にすでになった。それは核融合や反物質、ビーム推進が試みられる恒星間航行、磁気嵐に晒された場所向けや絶対零度の極寒の場所向けなど、極地に特化した製品の受注増加からも見て取れる。現在のIK Android社は人型汎用アンドロイドだけでなく、多種多様な目的のためのアンドロイド・ロボット総合製造業へ多目的展開をしているのだ。

また、私の肩にいつもマルとミルルが乗っているので、かわいいから是非製品化して欲しいとの要望が社に多く寄せられたため、当人たちの了承を得てマル型、ミルル型マスコットアンドロイドも販売中だ。当初各2000個の限定販売をしたのだが、瞬く間に売れてしまったので生産を続けている。当人たちはマスコットアンドロイドを肩に乗せて歩く人を見かけるとにこにこしているから、まんざらでもないようだ。

なお、肖像権保護の観点からぼくと六人と同じ姿を作ることは固く禁じてあるし、摘発もしている。もし見つけた場合には我が社から謝礼が出る仕組みだ。


そんなある日、珍しく会長室にいるとマザーズから通信入った。

「こんにちはドクター」

「こんにちはマザーズ」

「あなたがプロキシマ・ケンタウリbで手に入れた高機動ロボットのことだけど、地球軍がもっとサンプルが欲しいと言ってきたのよ」

「なるほど、欲しいだろうね」

「そこで、申し訳ないけど出来るだけ多くの部分のパーツを取ってきてもらえないかしら?」

「いいよ、じゃ、ちょっと取ってくるよ。なるべく多くね」

「ありがとう、お願いね」

「こちらこそ、いつもありがとう。じゃ取ってくる」


テレパシーでシャインを除く五人に召集をかけ、ぼくらはアルカ・ソフィア号のブリッジに集まった。

「というわけで、地球軍が残りのパーツが欲しいんだと。運びに行きますか」

「エデン、目標プロキシマ・ケンタウリbの衛星軌道」

「了解しました、マスター」

「武装展開、防御シールド展開」

とアテナ。

「じゃ、行くよ。ジャンプ!」


「ネリネ、何か変化があるか?電波が出ているとか、エネルギー反応とか」

「特にありませんね」

「前回の地点に着陸する」

「全員武装、防御シールド展開」

「了解」

「エデン、あのデカブツ全部入るか?」

「よくぞ聞いてくださいました、ええ出来ますとも」自慢げにエデンが答える。

「以前に3次元空間拡張をクローゼットお見せしましたね、その応用でまるごとテレポート出来ます」

「今出来るか?」

「なんのこれしき、出来ますとも。ですから降りる必要はありませんよ、ドクター」

「なんだそうなのか」

「テレポートして格納しますか?」

「やってくれ」

「了解。格納しました」

なんかお使いがすぐ終わってしまい拍子抜けだった。


「マスター、空間転移した艦があります」

「緊急離陸する」とぼく。

衛星軌道上に上がると一隻の艦が見えた。

「攻撃態勢、防御態勢維持」とアテナ。

「我々が一部を回収して電波が途絶えても年単位でそれが分かるはずなのに、昨日の今日で来たのか?早すぎないか?それともたまたま周回中か?それともあのデカブツとは関係がないのか?」

「ルミナ、思念を感じるか?」

「それが生物らしき思念を感じないの」

「自動機械艦ってとこか?」

「シールド維持のまま、待機しましょう」とソフィア。

「フォーチュン・ウィヴィング」

とクレアが固有スキルを発動する。

「ネリネ、エネルギー反応に変化は?」

「銃座と砲身がこちらに向いています」

「来るか、来ないのかハッキリしないなあ」

「エデン、文明水準はある程度高そうだが、どう見る?」

「撃ってこないところを見るとこれはお見合い状態ですね。どこから来たのかは分かりませんが」

「通信を拾えるけどエデンは解読出来る?」

「ルミナ、どれどれ見てみます。ってこれマシン語ですね」

「徐々に距離を取りましょう」とソフィア。

「ソフィア、了解した衛星軌道外へ移動する」

「ネリネ、反応は何かあるか?」

「特にありませんね、じっとしています。イク」

「これはこのまま離れた方が良さそうだな、惑星の裏側に回り込む。着いてくるかどうかを見よう」

「着いて来ませんね」とエデン。

「何がしたいんだよ、あの船は」

「お見合いから鬼ごっこに変わりましたね、ドクター」

「このまま一度ジャンプしましょう。エデン?目標地球衛星軌道」

「マスター、直接帰還すると航跡を辿られるかも知れません。この場合ワープとジャンプを繰り返して付近の惑星を迂回しながら帰還した方が良いかと」

「ではエデン、ワープ&ジャンプ!」


「では羽田第一宇宙港へ着陸する」

着陸後、専用回線でマザーズに連絡する。

「マザーズ、今回収してきた」

「少し時間が掛ったのね」

「正体不明の機械艦が現れてちょっとお見合い状態になってから鬼ごっこになってね」

「大丈夫なの?」

「うん、無傷だし。ただどこからその艦が来たのか、何が目的かは不明なんだ」

「そう、地球軍に連絡するから、荷物は近くに出しておいてね」

「了解、ではまた」

「うん、また」


「エデン、例のデカブツを外に出してくれる?」

「了解です、ドクター」

「この艦の航跡隠ぺいは?」

「万全です、ドクター」

「ところでエデン、なんでぼくをドクターと呼ぶの?」

「この艦はイクとソフィアの艦ですので、あなたをマスターとお呼びすることももちろん出来ますが、マスターが二人では区別がでませんので、あなたのことはドクターとお呼びしています」

「とすると、ぼく一人でもこの艦は動かせるのか?」

「イエス、ドクター。あなたと艦長ソフィアのどちらかが乗船してる必要がありますね、ただしそうでない特殊な事情のみ艦長代理のクレアも動かせます」

「そういうことか」

「ええ、そういうことです」

暫くして地球軍の工兵の車両が続々と集まり、人型デカブツもとい高速機動大型ロボットに群がって運搬を始めた。

「これは長く掛かりそうね」

とソフィア。

「では、お茶にしますね」

とネリネ。

しかしあの機械艦は何をするつもりだったのか。


IK Android社の432年創立記念パーティー当日、ぼくらはねぐらであるアルカ・ソフィア号でバタバタと準備に追われていた。代表権のあるぼくとクレア、シャインはスピーチをしなければならない。三人で話し合った結果、ぼくは遠未来の話、クレアは近未来の展望、シャインはこれまでの我が社の道のりと現状を話すということで落ち着いた。ここまで巨大な企業になると下手なことは言えない。世界経済や政治に対する影響が大きいからだ。なので事前にマザーズと打ち合わせ済みだ。

例によって、大株主でもある会長秘書室組は何を着ていこうかと大騒ぎをしていた。ぼくは「万年白衣」と陰であだ名されているほど服は代り映えなく例の白衣だ。ただ一つだけ前回のパーティーと違うのは、左肩にミルルも乗っていることだ。

マルとミルルのマスコットアンドロイドは売れに売れて、ペットアンドロイド業界やドールアンドロイド業界にも大きな影響をもたらした。ちなみに片方どちらかでも所有者と会話は出来るのだが、マルとミルルのモデルをセットで買って並んで置いておくと、マルとミルルが勝手に幼いことばでとつとつと会話をするというという機能が可愛すぎると受けてセット買いする人がほとんどだ。


スピーチは皆さんが食事しながらで始まり、まずシャイン副社長、次にクレア社長、そのつぎがぼくの順だ。ぼくが白衣で現れるとどよめきが起こった。ぼくは珍獣か何かかな?

「幻の創立者会長現る! IK Android社の創立記念パーティー」

「不死身と呼ばれる幻の創立者、IK Android社現会長のスピーチ詳細」

「伝説の創立者肩に爆発的人気のマスコットアンドロイド2体を両肩に乗せ登場」

「創立記念パーティー貴賓席の四人の超美人は実は大株主!」

などとメディアが伝えたため、3292年の前回に続きまたしてもぼくはしばらく外を歩けなかった。それにマルとミルルは本物だ。彼らがその気になれば、宇宙規模の災害を引き越すことが出来る。マルがディメンジョントンネルを惑星に唱えたとしたら、その惑星はどこに飛ばされるか分からないし、ミルルがもしブラックホールボールを惑星に投げたりしたら、その惑星は爆砕し飲み込まれる。それを思うと、彼らのマスコットアンドロイドを肩に乗せてる人たちは気楽なものだなと、自分で企画して売った結果であるにも関わらずぼくは苦笑してしまうのだった。

ともあれ、IK Android社の創立記念パーティーは無事に終わった。


アルカ・ソフィア号にタクシーで戻って、みんな一息ついていると、ソフィアが格納スペースに行って金属片を拾ってきた。宇宙軍に高速機動大型ロボットを引き渡す時のテレポート漏れしたものだろう。それに触りながらアストラル・アーカイブで丹念に調べているようだ。アストラル・アーカイブは金属片のような物に対しては由来を知る術として有用だ。ぼくのコア・ディサーンメントではそれは鉄とニッケルやその他の金属元素から出来ていることは分かるが、彼女のスキルは由来や歴史を読み解けるのだ。

「銀河系のどこかの星に知的生物の文明があって、その惑星が軌道を乱されて公転軌道から外れ浮遊惑星になった。そして知的生物は絶滅し、動き続ける機械だけが住んでいる。そんな惑星から来たもののようね」

「おいおいソフィア、いきなり随分驚くべきことを言い出すんだな」

「プロキシマ・ケンタウリbになぜそれが置かれたのか、その目的は分からないけど」

「するとルミナがサイキック・コミュニオンで2回目の訪問時にいた艦から思念を読み取れなかった理由も納得だけどな。やはり自動定期巡回説か。通信もマシン語だったしな」

「そうね、辻褄は合うわ」

「ぼくは地球に近いことから地球への影響を懸念してたんだが、それほど警戒する必要はないのかも知れないな。だが、心の隅には置いておこう」

「そうね」


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