プロキシマ・ケンタウリb初地上戦
クレアを除いて、ぼくらは現代の知識をマザーズから得た。マザーズが宇宙の底しれない脅威に対して地球を防衛するために対策を進めていることが確認出来たので一安心だ。何も準備をせずに呑気に暮らしていたら滅ぼされましたでは話にならない。自分の出身惑星ということもあるが、『調停者』としても太陽系外からの一方的な侵攻は看過出来るものではない。地球周囲の調査はするべきだろう。そしてこの銀河系だ。太陽系と反対側の外縁部でミルルを見出したように、この巨大銀河にまだどんな謎が潜んでいるか分からない。
海王星衛星軌道にて。
ぼくは通称「道場」と呼ばれる武道館ほどの空き区画でアテナやネリネと光剣や光槍で稽古を続けている。全員がパルスガンと光剣を腰に装着しているが、艦の人員の中で、アテナはハイパーキネティック・ソードクラフト、ネリネはパーフェクト・ステルスという戦闘系の固有スキルを持っているが、ぼくにはコア・ディサーンメントという汎用性の高いスキルがあるため、武闘派にこの三人は類することになる。
クレアのフォーチュン・ウィヴィング、ルミナのサイキック・コミュニオン、ソフィアのアストラル・アーカイブのバックアップ組とで前衛と後衛に分かれて戦う形になるだろう。
そのために、アテナやネリネのような有利な接近攻撃手段を持たないぼくは、ひたすら重力操作とテレポートを組み合わせた超速機動を自分の固有スキルの戦術判断と組み合わせる稽古を続けた。これによって戦術判断が研ぎ澄まされて固有スキル「心眼」が発現した。
アテナ「超技剣」、ネリネ「ステルス剣」、ぼく「心眼」というわけだ。
大抵はアテナを相手に稽古をしている。
「アテナはやっぱり強いな」
「いえいえイクこそ」
「いやいやアテナこそ」
「なんのなんのイクこそ」
なんてやっていると、ルミナからテレパシーが来た。
(二人ともブリッジに戻って)
同時にエデンからの艦内放送。
「プロキシマ・ケンタウリbから意味のある電波が出ています」
プロキシマ・ケンタウリbは、太陽系から約4.24光年と最も近い位置にある系外惑星で、地球に似た岩石惑星だ。そんな荒涼とした惑星に生物がいるとは到底思えないし、どこかの星系探査機を送ったか、それとも来たついでに探査機を置いて行ったのもしれないが、そもそも何のメリットがあるというのだろう。考えられるのは金属か?それとも……
可能性を考えながら操縦席に着いた
「周波数が低いんです、50GHz帯ですね」とネリネ。
「少なくとも思念は感じられないの」とルミナ。
「すると人工物だろうな。周波数帯は低い方が遠距離まで屈曲しながらも伝わりやすい。宇宙で通信価値のある周波数帯だし、第一テラヘルツ以上の高い周波数だと宇宙の電磁波に埋もれてしまう」
「おっしゃる通りですドクター。人工物だろうと推測出来ますね」
「ソフィア、確かめてみないか?」
「そうね、4光年ちょっとだし、行きましょう。そして実際に何なのか確かめましょう」
「エデン、目標プロキシマ・ケンタウリb衛星軌道」
「了解ですドクター」
「兵装展開、シールド展開完了」とアテナ。
「行くよ?ジャンプ!」
「ネリネ、発信源の特定は出来るか?」
「ええと、この辺りよ」とスクリーンを指し示す。
「では、上空から視認出来る距離まで降下し、近づいてみる」
上空から高度を落とすと何か機械的な構造物のようなものが見えてきた。動いてはいないが、コア・ディサーンメントを使うと、これには可動部があり二足歩行出来そうな大型機械のようなものだということが分かった。この時点で地球由来の機械ではないことが分かる。
「ルミナ、生命の思念は無いな?」
「イク、周囲には全くないわ」
「ソフィア、付近に着陸して調べるか?」
「そうしましょう、イク」
「目標までおよそ500mで着陸」
「総員武装、シールド展開で下船しましょう。テレパシーで会話を」
「いざという時には艦にテレポートするんだぞ」
みんな、
「了解!」
スロープを降りると夕方のように薄暗い。構造物まで歩いて近づく。
(エネルギー反応はとても微弱だな、ネリネ)
(そうですね、動力が生きてるとは思えませんわ)
(イク、懸念があるのだが?)
(どうした?アテナ)
(あいつ、今少し動いた)
(各自武装展開!)
ぼくは白の光剣、ネリネは黄色の光剣、アテナは刃が虹色の大剣を構えた。
(動力が動き出したわ)
(マジか、ネリネ。このデカブツと会話が出来ると思うか?)
(それは残念ながら無理そうね)
(そうだろう、ルミナ。ならばわたしが先頭を行こう、後ろにネリネ、イク、その後ろをソフィア、クレア、ルミナ)
(イクあの物質何に見える?)
(鉄とかニッケルとかだろうな、アテナ)
(マルに強化してもらった刃が虹色の大剣で切れると思うか?イク)
(それはやってみないと分からんけど出来ると思うぞ、マルの手が入った剣だしな。ぼくとネリネは光剣で試す)
その構造物はしっかりと立ち上がった。
(やはり人型だな。しかし、こんなもの誰が置いて行った)
(向かってくる。イク、こいつかなり高機動タイプだぞ)
(そうこなくっちゃ面白くないからちょうどいい。弾は撃ってこないな、弾切れか?)
(アテナ、こいつ背中に剣持ってるぞ、今見えた)
(イク、背後に回った。剣を抜くつもりよ!)
(ネリネ、こいつの主推力は背中だ。気つけろ)
(ぼくは左サイド、アテナ正面と右は任せたぞ)
(行きますか)とアテナ。
(やりますか)とぼく。
(やっちゃいますか)とネリネ。
アテナは刃が虹色に光る大剣を持ちながらこう唱えた。
(ハイパーキネティック・ソードクラフト)
ネリネも続いた。
(ステルス剣)
ぼくは白い光剣を横に構えながら、
(心眼)
(こいつ意外と重心が高い。推進部は背中と足だな。弱点はまず足だ)
アテナが、
(よいしょーっ!)
高速機動大型ロボットの剣がアテナに向かって行った時、その剣は虹色に光るアテナの剣と交わり、高速機動大型ロボットの剣は真ん中からきれいに両断されて先の方が飛び去った。次にぼくの白い光剣でバチバチと火花が散って右足が半ば折られ、背後のネリネが重力操作で背中の高さまで上がったかと見るや黄色の光剣をバチバチと突き通した。ネリネの一撃が動力系を破壊したのか、高速機動大型ロボットは動きを止めた。
(ソフィア、こいつを調べよう。いったいどこのどいつだ)
(アストラル・アーカイブ。それほど古いものではないけどどこの星から来て置かれたのか、ここになぜポツンと投棄されたのか、理由は分からない。探るなら丁寧に後で調べる必要があるわ。そもそもこの星には生命の痕跡が無いし)
(エデン、GHz帯の電波はまだ出てるのか?)
(いえ、止まりました。ドクター)
(制御系はここら辺と見た。どれ、持って帰ろう)
ぼくは光剣で背中辺りを切り取っていく。
(エデン、このブロック状の切れ端を貨物スペースにテレポート)
(了解、ドクター)
(さてと、我々もブリッジへテレポートしますか)
一斉に、
(テレポート)
ブリッジにて。
「考えとして可能性があるのは、哨戒機みたいな意味を持つ高速機動大型ロボットかもな。つまりあちこちにあれを置いといて、電波が途絶えたところは要注意星域として再び来るとかね」
「じゃ、壊してよかったの?」
ちょっと心配そうなルミナ。
「来るなら来るで、返って都合が良い場合もある。それに以前訪れたミレアス星とカルドア星の方が文明としては遥かに高度だ」
「ぼくのでばんは?」
「みるるのでばんは?」
「その時は協力頼むぜ、頼もしき相棒たちよ」
「うん」マルとミルルが頷く。
それにしても、アテナの超技剣と、地道に鍛錬を重ねて得たぼくの心眼、ネリネのステルス剣。これらがテレパシーと重力推進制御とテレポートを駆使して空間的に戦える事実は、一つ重要な手応えを残す経験となった。
そして後衛には幸運確率を操作するフォーチュン・ウィヴィングを固有スキルに持つクレア、物や相手の情報を読み取るアストラル・アーカイブをを固有スキルとするソフィア、広範に相手や集団との思念の送受が出来危機感知に優れたサイキック・コミュニオンを固有スキルとする三人が後衛という編成で超速機動出来るのは小戦闘では有利だ。
一度地球に帰還してマザーズに直接報告することにした。副社長になりたてのシャインのことも社長のクレアのこともあるから、なるべく短い期間で帰るつもりだったからだ。
「エデン、地球衛星軌道へジャンプ!」
3504年、こうして翌年にぼくたちはふたたび羽田第一宇宙港へ帰ってきた。今回はアルカ・ソフィア号用特設ドックに引かれていた、専用秘匿回線に接続してエデンのブリッジからマザーズへ直に報告する。これはマザーズの配慮だろう。
マザーズと秘匿回線を繋ぐ。
「こんにちはマザーズ」
「お帰りなさいドクター。今回は短かったのね」
「アルカ・ソフィア号用ドックと専用秘匿回線、ありがとう」
「現代にあなたたちほど重要人物はいないから当然のことよ」
「実は、地球軍に渡すものがある」
「それは何なの?」
「プロキシマ・ケンタウリbで破壊した高機動ロボットの制御部だ」
「異星人の物なのね?そんな物を持ち帰るだなんて想像もしてなかったわ」
「これを軍に引き渡したい、手配してくれないかな?」
「いいわ、間もなく到着するはずよ」
「じゃ、モノは外に出しておくね」
「了解、そう伝えるわ」
「いつもありがとう、マザーズ」
「気を付けてね」
エデンに話し掛ける。
「エデン、貨物スペースの例のブツを艦の外へテレポートしてくれるか?」
「了解ドクター、ちょうど軍車両が来たみたいですね」
モニターで見ていると、技術軍人たちがこれのことか?なんかレーザーでスパッと切り取ったみたいだとわいわい言ってクレーンで釣り上げ運んで行った。
先生、ぼくは元気にしています。異星人の高機動ロボットと戦いました。




