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定期検査

 今日は定期検査の日だ。

「マル月軌道の反対側にマルのイオ級艦を出してくれる?」

「いいよ、どーん!」

「じゃあ『ちゃくりくじょう』に着けるか」

イオ級艦の『ちゃくりくじょう』は、アルカ・ソフィア号のためにマルがこつこつと草原を芝生にして、マルのちょっと不器用な字で木の立て看板にちゃくりくじょうと書いてある場所だ。

この間の移動は一瞬だ。


「さっき地球から飛び立ってもう月軌道のマルの艦って、どういうこと?それに艦っていうよりこれ地球と同じ環境じゃない!」とクレア。

「宇宙最速の船だからさ。マルのイオ級艦はイオと同じ大きさで月より少し大きいけど、表面重力場を発生させてるから地球環境と同じなんだ。植生も似てるし、山も川も海も平野も花畑もあるよ」

「マルって何者なの?」

「マルは意識体で夢を作りながら精霊や妖精と一緒にここに暮らしてるんだ。だからマルは例えアルカ・ソフィア号にいたとしてもイオ級艦にも同時にいる並列存在だよ。それと4次元知的生命体とお友達なんだ」

「ちょっと待ってちょっと待って、情報量が多すぎる!」

一同笑う。


 4次元移行後、艦内診察室にて。

「クレアさん、クレアさん、1番診察室へどうぞお入りください」

「ここだとアンドロイド医工学博士の顔なのね」

「診察なのです、クレアさん。最近どこか調子が悪いところはありますか?」

「自分では分からないわ」

「そうですか。ではまずスキャンしますので治療台に仰向けに横になってください」

「服は着たままでいいの?」

「そのままで結構ですよ。必要があれば脱がせますけど。ほとんど自動で済みますからね。安心して目を瞑っていてください。じきに眠くなります」

「必要があれば?」

「ネリネがね?」

「まあほとんど必要ありませんけどね。ちなみにぼくは『医師』ですからね」

「スキャン開始。ふーむ。経年変化とは言えないが万全を尽くそう」

「治療開始」

一時間ほどして。

「クレアさん、聞えますか?」

「ええ、起きたわ。どうだったの?」

「ちょっと治したから、もう大丈夫ですよ」

「見たの?」

「……ぼくは『医師』ですよ?」


「ソフィアさん、ソフィアさん、1番診察室へどうぞお入りください」

「随分かしこまってるのね」

「ぼくは一応『医師』ですからね?ソフィアさん」

「どこか気になるところはありますか?」

「左腕の反応系なのだけど、ちょっと遅れる気がするわ」

「なるほど。では、そこを含めてスキャンしましょうね。治療台に仰向けに寝てください」

「直に眠くなりますね」

「スキャン開始」

「ふーむ。左右反応系で4ナノ秒の違いがあるな」

「治療開始」

一時間ほどして。

「愛されちゅー人形ソフィアちゃん、起きようね」

「やだもん」

「はい、おっきしようね」

「やだもんがでたもん」

「お姫様抱っこしていいこいいこするからおっきしようね」

「うん」

「誤差は治療したので大丈夫だと思いますよ」

「ありがとう、ドクター」


「アテナさん、アテナさん、1番診察室へどうぞお入りください」

「よ、宜しく」

「緊張しなくていいですよ、アテナさん。ぼくは『医師』ですからね?」

「どこか気になるところはありますか?」

「時々胸がドキドキするんだが」

「そんな器官は我々には無いはずなのに、それは気になるでしょうね。胸部に鼓動感あり、と」カルテに書くぼく。

「今もドキドキする」

「そうですか。ではまずスキャンしますので治療台に仰向けに横になってください」

「よ、横に?」

「機械でスキャンするためです」

「ふ、服も脱ぐのか?」

「その必要がある場合はネリネが行いますのでご安心を」

「イクじゃなくて?」

「はい、ネリネが」

「そうか」

「直に眠くなりますよー」

「スキャン開始」

「ネリネ、関節部を交換するぞ」

「分かりました、補助します」

「超高速機動型だからそのタイプでアッセンブリー交換する」

二時間後ほど経って。

「アテナさん、起きてください」

「なんか体が軽くなったような」

「負荷がかかる関節部を強化しました」

「み、見たのか?」

「……ぼくは『医師』ですからね?」


「ルミナさん、ルミナさん、1番診察室へどうぞお入りください」

「せんせ、私全部悪い気がする」

「性格がですか?ルミナさん」

「違うわよ、体!詳しく検査して!け・ん・さ!」

「そうですか。ではまずスキャンしますので治療台に仰向けに横になってください」

「一緒に?」

「あなただけです」

「服を脱ぐのね?」

「いやスキャンしてから必要な時はネリネが行います」

「せんせがいい」

「はいはい、スキャンしますよ。眠くなりますからね」

「ネリネ、頭蓋を思念伝達しやすい物質に交換する」

「4次元製材料ですね?」

「そうだ」

二時間ほど経って。

「ルミナさん、起きてください」

「あれ?思念伝達が簡単になってる。それに広がってる!」

「ルミナさん用の治療をしました」

「くまなく?」

「他はスキャンで問題なかったので大丈夫ですよ」

「明日も来ていい?」

「なぜですか?ここは病院ですからね?」


「ネリネさん、ネリネさん、1番診察室へどうぞお入りください」

ぼくの膝の上に座って、

「診察お願いします」

「ええと、ネリネさん。そちらの椅子に腰掛けてくださいね」

「マル、ぼくの補助を頼むね」

「いいよー」

「どこか悪いところとかありますか?」

「先生を見てると頬が熱くなってしまって」

カルテに書き込むぼく。

「顔面部に局所性発熱あり、と」

「他には?」

「先生の膝や太ももの上につい乗ってしまうんです」

「衝動性行動障害の疑いあり、場所は膝やふともも限定、と」

「抱きつきたくなるんです」

「抱擁症候群の可能性あり、と」

「ではまずスキャンしますので治療台に仰向けに横になってください」

「はい」

「スキャンしますね。眠くなりますよ」

「全く問題がないな」

「ネリネさん、起きてください」

「どうでした?」

「特に問題はありませんでしたよ」

「あの、体のラインとかはお好みでした?触診とかはしなくていいんですか?」

「え?スキャンだけ十分でしたので」

「ほんとうにスキャンだけでいいんですか?」

「はい、無問題でした」

なぜかネリネは残念そうに帰っていった。


「イクさん、イクさん、1番診察室へどうぞお入りください」

とネリネ。

「ご気分はいかがですか」

「逆の立場だと落ち着きません」

「安心なさってくださいね。しっかりじーっくり時間を掛けてチェックしますから」

「なんかそれ怖いです」

「マル、一緒におねがいね」

「わかったー」

「(マルがいるから大丈夫だろ)」と思うぼく。

「まずスキャンしますので治療台に仰向けに横になってくださいね」

「はい、眠くなりますよー」

「...」

「スキャン開始」

「もんだいないねー」

「でも触診で詳しくまさぐり、いや確認しませんといけませんね」

「まあ、がっちりした体だこと。うふっ」

「もんだいないよー」

「ちぇっ、はいイクさん、起きてください」

「どうでした?」

「問題はありませんでしたわ」

「あー良かったわ」

「しょくしんってなにー?」

「!」

ネリネがビクッとしている。


 無事、定期健診が終わってブリッジで。

「クレア、私たちからこれを受け取ってくれる?」とソフィア。

マルのイオ級艦の『ちゃくりくじょう』から離陸して小ワープ。

「ぼくからはこれだ。まず水星」

「そして金星」

「そして地球」

「火星」

「くりちよがふたつにきったえいせいがあるよ、りょうほう」

「フォボスとダイモスを二つに斬ったですって!?」

「ちょっとマルの身内が暇々にやり過ぎてね」

「りゅうきしうぃりあむが、おりんぽすざんもくれーたーにしちゃった」

「オリンポス山をクレーターにしたですって!?」

「ちょっとマルの身内が暇々にやり過ぎてね」

「そして木星」

「そして土星」

「そして天王星」

「そして海王星」

「そして、次行くよ!ドーン!」

「どう?我が銀河系を斜め上から見たところ」

「きれい。絶景ね……これであのブローチを堂々と付けられるわ」


IK Android社、役員会議室にて。

「社長、今日は最高にごきげんですね?何か良いことがありましたか?」

「ええ、とってもいいことがあったわ」

「しゃ、社長!その襟のブローチって、あの伝説のアルカ・ソフィア号のシンボルですか!?」

「そうなの!」

役員一同唖然、羨望の眼差しをクレアは一身に受けたのだった。

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