地球帰還
3290年、タクシーでIK Android本社に着くと、会社がとんだ大会社になっていた。空高く聳えているのは自社ビルだな、これは。守衛に名前を告げて社長に取り次いでくれと頼んだんだが……。
「身分証や社員証の分からない方は立ち入ることが出来ません」
「いやぼく会長なんだが……」
「そういう方が多くて困ってるんですよ。しかも社長にアポなしですからなお困るんです」
「そう言われても、後ろの者も会長秘書室の者たちだぞ」
「そこまで言われるのでしたら一応社長に確認を取り、場合によっては警察を呼びますよ?」
「いいよ。確認を取ってくれ」
「クレア社長、会長と名乗る人物が門に来ているのですが?」
驚いたクレアの顔がモニターに映る。
「何やってるの!早くその人たち全員通しなさい」
「はい!分かりました」
「会長とは知らず、誠に申し訳ありませんでした」
「そんなことはないよ。君はちゃんと君の仕事をしたんだ」
「最上階が社長室って、自社ビルで70階ってなんだよ!ソフィア」
「びっくりしたわ、こんなに大きくするなんて。ほんとにクレアらしいわ」
高速エレベーターに乗るとあっという間に70階に到着し、社長秘書室長がすでに待っていて、こちらでごさいますと先導してくれ丁寧にもドアを開けてくれる。
「クレア、ごめん」
「イクのバカ!」
クレアを泣かせてしまった。
「本当に済まないことをした」
「ニュースで大騒ぎだったからいきさつは推察出来たわ。捕まりそうになったからでしょ?現代では飛行軌跡から幻の船とか異星人の宇宙船と言われてるのよ?」
「やむを得ずワープしたんだけど、本来はジャンプすべきだったんだ。艦の機能をその時はまだ把握してなくてね、本当にごめん」
「おかえりなさい会長。215年ぶりね。みんな元気そうね。今日食事は一緒にどう?いろいろ聞きたいわ」
「くれあおねえちゃん、ごめんなさい」
「いいのよ、マル。マルも元気で良かったわ」
「おともだちがおみやげがあるっていってた」
「4次元知的生命体がおみやげ?なんだろうね、マル」
「よじげんにきてほしいって。あんどろいどぎじゅつとえでんをかいりょうするって」
「それは身体改造ってことかしら」
「大丈夫なの?全面的に信頼しても?」
「クレアも会社の業績が面白いように上がり続けたことから、薄々何かの意図に気付いているとは思うけど、彼らとは君を含めて契約関係にあって、つまり我々のボディとアルカ・ソフィア号を進化させるという意味だろうね」
「マルの感じからすると一種の善意のようね」
「分かるのかい、ルミナ」
「感じるの私も。アルカ・ソフィア号に乗ってから、思念を拾う範囲が広がっているのもの」
「私たちの外見は変わりませんの?」ネリネが聞く。
「ネリネ、変わらないだろうね。恐らくボディに収まる小さなエデンのような動力化も含むのかも知れない。さらに各部金属も新素材に置き換えられ、動作機構も改良され、演算加速が可能になる可能性すらある。超未来の技術だ。受ける価値はあるというより、断る選択肢がそもそも我々には無いな。これも巡り合わせと時の流れだろう?我々はすでに『調停者』だからな」
「『調停者』には私も入るの?」とクレア。
「うん、不本意かも知れないが、ぼくとソフィアがアルカ・ソフィア号に足を踏み入れたことがぼくと元AIペルソナの『調停者』としての契約になってたんだ」
「私たちの懸念や不安はもう4次元知的生命体に伝わっているでしょうから、身を任せる他はないわね」ソフィアも同意見のようだ。
「そふぃあおねえちゃん、だいじょうぶだよ!」とにこにこ顔のマル。
クレアも乗せてエデンは地球の遥か上空へ一瞬で移動する。
「エデン、4次元航行に遷移」
「了解しました、マスター」
「わくわく」
マルだけはわくわくしてるなあ。
これからどうなるんだろう?まさか意識を保ったまま開腹手術とか、しないよな……。
それから医療設備の診察台に各自横になり緊張していると、あれっ?今一瞬気を失っていたような。
「おわったよー」マルの宣言。
全員何がどうなったのか分からないままブリッジへ。
「3次元航行フェーズに戻りました、地球衛星軌道です」
「全員終わったのか?エデン」
「はい、ドクター」
「一見何も変わってないな。でも確実に艦もボディも全く別物に変化してるようにぼくには見えるな」
「イク、どうして分かるの?それって見れば分かるってものじゃないんじゃない?」
「ルミナ、そういえばそうだな。なんで分かるんだ?これがぼくの能力なのか?」
「そういうルミナはどうなんだ?なにか違ってるか?」
「あああ、意識が鮮明に遠くまで広げられるようになってる!イクの心が鮮明に読める!」
「そこかい。思念感度が上がったな。それが君の能力か」
「何かしら。意識を向けたものの色んな情報が読めるように流れ込んでくるわ」
「とすると、それがソフィアの能力だろうな」
「あら、私の身体制御が繊細に滑らかになっていますわ。あれ気配を消せる?」
「ネリネ、どこへいった?おい?」
背後にネリネが現れる。
「ここにいますよ!これが私の能力!完全なステルスでしょうか?」
「イク、私のパワーが格段に上がってる。機動力もだ。信じられん!」
「アテナはパワーや機動力系の大幅な上昇か」
「クレアはどうなんだ?」
「何だと思う?」いたずらっぽく笑うクレア。
なぜかぼくはクレアと手をつないでいる。あれ?なぜだ?
「確率系、なのかな?」
「当たり!確率を高くしたり低くしたり出来るのかしら、意志を働かせるとそうなるみたいなの」
他のソフィア、ルミナ、アテナ、ネリネ同時に。
「それが一番ずるくない?」と全員爆笑。
「おともだちがね、えでんとおなじにかくれたちからがまだあるから、それはたのしみにみつけるようにっていってる」
まだあるのか。エデンから直に情報を得た方が把握には早そうだな。どれ、機能と治療方法、使用材料、細部の構造まで参照すると、これじゃまるで別物じゃないか!この水準まで辿り着くのは地球では何万年掛かるか分からないレベルの全面改良だな。今の地球アンドロイド技術に転用出来そうなアイデアは歴史に干渉しない程度に現在の材料で会社で実用化してみるか、株価が上がるしな。恐るべきは演算加速と記憶空間の拡張だな。マルのマルノートの完全記録と完全記憶みたいだ。マザーズのメモリを遥かに上回る。これはとても現代では表には出せないな。
「でも、いくかわってないよ。かみのけぼさぼさしてるし」とマル。
「そうか?馴染みのある外見だしな」
「それだけ私たちが別物になったということは、これから対処出来る必要性がある場所へ行く可能性がある、ということでしょう?」
ソフィアの言うことはもっともだ。耐えうる仕様になったということだから。
「ぼくもそう思う。それが彼らの意思なんだろうね。ぼくらにはそれに見合う覚悟がなければな」
「まるももらった」
「マルは何を貰ったんだ?」
「いろいろ」
「そうか、いろいろかあ」
「にじいろとんかち。りょうてでくぎがうまくうてるよ。にじいろはんどすこっぷと、にじいろぴっけるはもうもってる」
「マルは工作とか土いじりとか好きだもんな」
「あと、えでんがしんかしてるって」
「至れり尽くせりだな、感謝しないとな」
そうだ、テレパシーは使えるようになったか?
(マル?聞こえる?)
(いくのてれぱしーだ!)
(どうやら相手を絞って使えるようだ)
(みんな聞こえるか?いま全員にテレパシーを送ってるんだ)
(!)
全員が驚いている。
(じゃあ、イクと二人で内緒のお話も出来るの?)
(ルミナ、いまのはぼくに対象を絞らなかったから全員にダダ漏れだぞ)
これにはみんなも爆笑する。
(ともかく、テレパシーが使えることを秘匿すること。音声が会話手段のように普段は振る舞うんだ)
(いく、よかったね!)
今後ともよろしくお願いいたします。




