トーク9:宇宙の言語はごきげんよう
買ってきたアイスを食べ終えた後、私は改めて律葉先輩と向き合い、勉強に取り組んでいた。
しかし…なんだ。
今になって昨日の忠告が頭を巡る。
舞先輩に泣きつくのは何となく弱みを握られる気がして嫌なのだが…これから解放されるのであれば、容赦なく泣きつきたい。
プライドとか捨てたい。
どこまで救われたいかと聞かれたら、救われるために靴を舐めろと言われたら舐めて救われたいぐらい。
それほどまでに、霧枝律葉という「教師役」の解説は————。
「つまりこれが受けなので、攻めの精…おほん、値を両方にぶっかけ…」
「か、括弧の外にある3が攻めで、括弧内の2xとー4が受けで、3の精神を両方にぶっかけ…?」
「ええ。×=*ですからね。ちゃんと中に」
「中に、かける…?」
「ええ、その調子で最後までイキましょうね」
「…律葉先輩、この説明は本当になんなんですか?あとぶっかけってなんですか」
全く以て何も分からなかった!何!?受けとか攻めとか!?
律葉先輩数字を何か攻守対象に見てるの!?独特すぎない!?
「いえ、気にせず次に行きましょう。ほらどんどん解いて」
「…」
横目で見てみると、舞先輩は既に私に向かって合掌をしていた。殺すのが早すぎる。
紅奈先輩が同情してくれているのか、ご機嫌にダッツを浮かべたコーラフロートを飲みながら、心配そうに私の方を見てくれていた。
私が助けを求めるような視線を向けると、紅奈先輩は小さくげっぷをした後…律葉先輩に声をかけてくれる。
「…律葉、お前の教え方昔から独特すぎるんだよ」
「いえ、これが最適ですよ?」
「和泉を見てそれが最適かどうかを考えろ。頭から煙が出てるぞ」
「そんなことはないですよね、和泉」
「わ、私は…」
ここで律葉先輩の問いかけを肯定するのが正解か、否定するのが正解か…私にはわからなかった。
だって、どちらを選んでも律葉先輩か紅奈先輩が思った通りにならないわけで…。
「こーら。二人とも、和泉困ってんじゃん。ほら、和泉。コーラ飲みな。糖分補給」
「ほら、アイスもつけてやる」
「まいせんばいぃ…!くれなせんぱいぃ…!」
「あー泣くな泣くな。それほどわかんなかったんだな。よしよし…」
「ま、それが覚えやすいなら私は否定しないけど、趣味押しつけるのは流石に違うんじゃないっすかね」
「嫌ですね、舞。貴方だって同性愛、好きでしょう?よく愛読書と称して読んでいるではないですか。人類皆、潜在的に同性愛が好きなんですよ」
「あまりにもパワーワードすぎる。頭腐ってんじゃないのか」
「お前の性根よりは腐ってねえだろうよ」
「なにおう」
「てか、そんな全人類云々とかありえないだろ。同級生に告ろうとした舞でも使ったことねえよ」
「えっ!?舞先輩同級生に告白したんですか!?」
律葉先輩が操る謎言語よりも気になるのは他人の恋愛事情。
まさかあの舞先輩が同級生に告白だなんて…!
今の時代、女の子が女の子を好きになったりとか、男の子が男の子を好きになったりとかよくある話だもんね。
ちゃんと受け入れますからね、舞先輩!
それはそうとして告白した話を聞きたい!
「あー…未遂に終わった。好きだって言おうとしたら、す○家行こうに変換しちゃって」
「なんで牛丼チェーン店に誘っているんですか」
「せめて寿司屋に誘えよ」
「緊張しすぎで近い言葉に変換しちゃったんだよぉ…」
「舞先輩緊張することあるんだ…」
「私をなんだと思っているんだ…とにかくね、その子に断られて———」
「断られて、リベンジ、ですか?」
「んや。次の日、そいつは教室に入るやいなや「彼氏とセッ○スしました!処女喪失しました!今日から私も非処女で〜す!(原文ママ)」と馬鹿でかい声で入ってきた。清純そうに見えるのにこんな羞恥心の欠片もない下品な女に告白しようとした自分が恥ずかしく思えて、一週間熱を出して寝込んださ。今では立派な苦い思い出だよ」
「その話を後輩に堂々としているお前も大概下品だけどな」
「紅奈先輩、しょじょってなんですか?」
「ほうほうほうほう!仕方無いな和泉ぃ!私が手とり足とり教えて———」
「舞は黙ってろっ!和泉は保健体育の教科書でも読もうな…今日、持ち帰ろうと思って置き勉してたやつあるから」
「…?はい?なんか今日紅奈先輩優しくないですか?頭痛い?」
「…私をなんだと思っているんだ」
なぜか紅奈先輩から頭を撫でられながら、保健体育の教科書を借りる。
しょじょの意味は、わからなかった。




