トーク8:先輩共の密談
妙に気になる、我らが新人こと原田和泉。
顔が好みの女に声をかけた結果、なかなかのキワモノが現れた。
まあ、この集まりにはちょうどいい存在だとは思ったが…何か後ろ暗いものがありそうだ。
勿論、それに気がついているのは私だけではない。
三年の二人は二年とちょい。私を含めた三人では半年程度。和泉を混ぜたら一週間程度の付き合いだが、放課後毎回茶をしばいている間柄なのだ。クラスメイト共よりも距離が近い自認は三人揃ってある。
パシリをさせたのは、和泉を体よくここから離すためだ。茶のストックを紅奈パイセンが欠かすわけがないし。
こういう目論見があったからこそ、少しだけ多めに金を渡し、お菓子を買ってこいとか言うわけだろうし。
「二人とも、少し話が」
「和泉の事っすよね」
「流石に中学時代の話題が出てこないのは気にかかる。なにかしらの理由で、記憶にないって話ならわかるが」
「事故、とか考えて見たんですけど、正面から見る限り…あまりいい表情ではなかったものですから…正直、思い出したくもないといった感じの」
傍から見ていた私達より、正面にいた律葉先輩はよく見ていたのだろう。
その表情の変化を。
常に何も考えていないのかと思わせられる程、屈託のない表情に…陰りが出た瞬間を。
「…参考までに聞くんですけど、律葉先輩は高校一年生の時、中学時代の話題って出せました?」
「紅奈が証人ですが、一応出せましたよ。出せなかったのは受験当日辺りの話だけです」
「私は普通に出せますけど、紅奈パイセンは?」
「家のことならともかく、なんも無関係な学校の事ぐらいペラペラ喋れるさ。律葉みたいなお嬢様学校出身でもない、ただの公立中学だしな〜」
「「なんか意外」」
「高校もこうして適当なんだから、茶道さえやってれば学業なんてどうでもいいんだようちの家…」
うんざりとした顔でいう辺り、立場的に私立的のいいとこ出身とか散々誤解されてきたのだろう。
なんかそれっぽいし、私も聞くまでそんな偏見を抱いていたし。
…偏見、か。
「和泉のことはナチュラルおバカだと思ってたんすけど、何かしらの事情ありっぽいですよね」
「まあ、そうですね…そういえば、生徒会でも少し一年生の交流催しの為に、在校生の出身中学をあぶり出しているんですよ」
「何してんの?まあ、あの生徒会長がやろうと言えば入学資料含めて情報開示し放題だわなぁ…」
「フィクションならあるあるだと思いましたけど、まさか現実で見る羽目になるとは思いませんでした…」
「それで、あのバ会長は何をおっぱじめようとしているんだ」
「月乃が催したい交流会というのは、出身中学が同じ生徒同士の交流の場を作ろうというものなんですよ。私から聖ルメールの話を聞いて、上級生と下級生の繋がりを何かしらの形で構築したいと言う目的で行われるそうです。自由参加なので、舞と紅奈も興味があれば」
「まあ、時間があれば覗いてみますけど…それで面白い収穫があったんでしょ、関係者?」
「…和泉の中学からは、三年、二年含めて出身者がいないんですよ。本当に和泉だけ。住所を調べても、月村駅の最寄り範囲にある大規模中学校。和泉の他に、もう一人ぐらいはいてもおかしくないなと思った規模です」
「和泉みたいな一点狙いで落ちちゃって、滑り止めを用意していない奴が一人だけとは限らないもんな」
「それに冷染だって、部活動までダメダメということもないんですよね。ダンス部はしょっちゅう大会に出ていますし、テニス部の他にも全国大会のチケットを争う強豪の部類とも言える部活は多いですし、全国大会常連の水泳部の為に、室内プールまであるんですよ?」
「その部活を目当てに来る生徒すらいなかった、と」
「まあ、通学時間が二時間…という立地上、ネックになるものがあるのは否定しませんが…部活特待生寮制度もありますし」
「そんなのあるんだ!」
「しらんかった!」
まあ、でも…冷染だって馬鹿高校と呼ばれる雑な面以外にもちゃんとしている背景は存在しているというわけだ。
部活強豪校を目指すスポーツ特化の生徒は二年にも三年にもいる。
月村在住で寮は確実に使える条件があるなら…特待を狙う生徒も一人や二人いなかったのだろうか。
「もう手っ取り早く和泉の出身中学に突撃しません?なんかもやっとするし」
「さんせ〜。次の土曜予定空けとけよ〜」
「はいはい…わかりました」
次の土曜の約束を取り付けた辺りで、遠くから足音が聞こえてくる。
和泉が戻ってきたようだ。
三人で目配せをして、何事もなかったかのように彼女を出迎えた。
「おせーぞ!」
「はじめてのおつかいみたいについていった方が良かった?」
「ふぁー!この人達は文句ばっかり!後スマホしまってください!」
「まあまあ…それで、和泉。その袋は?」
「安売りでいっぱい買えたので、余ったお金でアイス買ってきました!アイスティー作りましょうよ!」
「…和泉、アイスティーは冷たい紅茶な?」
「アイス入れた紅茶だと思うのがお前らしいわ。ダッツだろうな」
「でも、美味しいかもしれませんよ。それに今、舞と紅奈はコーラ飲んでますし、メロンフロートみたいに浮かばせるのもありかも。休憩してから再開しましょうね、和泉」
「うううう!いつだって優しいのは律葉先輩だけだぁ!」
「私も優しいだろうがよぉ!」
「お金払ってアイス代も出した優しい私のことは無視かよぉ!」
いつも通り騒がしくして、和泉がいないところで密談をしていた空気なんて飛ばして。
いない間も、賑やかにしていた風を装いながら…紅奈パイセンのお金で彼女が買ってきてくれたアイスを口へ運ぶ。
ん〜。他人の金で食うアイスは美味い!




